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疑礙集注(ぎげしっちゅう)

「礙り」を「疑い」、そして「問う」こと。

break not only sanctuary but asylum.

アルトゲルト=クリーヴランド論争(1894年)

2017-07-18 00:07:15 | Weblog

【解説】

  1893年からの不況のなかで、寝台車や展望車を製造し、鉄道会社にリースしていたシカゴのプルマン特殊客車会社でストライキが生じ、これを、ユージン・V・デブスが率いるアメリカ鉄道組合が支援し、プルマン社の車両を使用している鉄道の運行を拒否して、シカゴ以西の鉄道を麻痺状態におとしいれた。イリノイ州知事ジョン・P・アルトゲルトは労働者に好意的な進歩的知事として知られていたから、鉄道側はストの鎮圧を州知事にでなく、直接、連邦政府に要請した。大統領クリーヴランドは、鉄道ストが連邦政府の郵便物輸送を妨害しているとして、連邦正規軍2000人を出動させ、連邦裁判所も禁止命令を出して、ストを敗北させた。

以下は連邦軍出動に対するアルトゲルトの抗議とクリーヴランド大統領の回答である。

【史料1】 

合衆国大統領グローバー・クリーヴランド閣下

 拝啓。私は、閣下が連邦軍をイリノイ州で任務につかせる命令を下された旨、通告を受けました。本事件で、事実が正しく閣下に提示されなかったことは確かであり、さもなければ閣下はこの措置を取られなかったことでありましょう。なぜなら、この措置はまったく不必要であり、正当化しえないと、私には思えるからであります。……私は、イリノイ州はみずからの面倒をみることができるだけでなく、連邦政府が他の場所で必要とするかもしれぬいかなる援助をも提供する用意がある、と申し上げたい。わが州の兵力は豊かであり、・・・・・・彼らはいつなんどきでも任務につく準備を終え、在米も現在も勤務を熱望しておりますが、なお出動を命じられておりません。それは、政府職員であれ、民間市民であれ、〔シカゴの位置する〕クック郡の誰一人として彼らの援助を求めず、ま

た誰一人として彼らの援助か望ましいとも、必要であるとも、ほのめかしてさえいないからであります。

 私が知らされている限りでは、現地の政府職員は事態を処理できております。しかも、何らかの援助が必要な場合には、わが州政府は、必要とされた1人につき100人を提供する用意があり、それも通告があり次第そうする用意がありました。これらの事実にもかかわらず、政治的かつ利己的な動機から、わが州政府を無視しようとした人びとによって連邦政府への申請がなされました。・・・・・・

二つの事例で、イリノイ州南部地区担当の連邦保安官が、連邦裁判所の令状を執行できるよう援助を申請し、その結果ただちに彼に軍隊が提供され、彼が望んだあらゆる方法で援助が与えられました。……イリノイ州北部地区の連邦保安官ないしはクック郡の当局者が軍事援助を必要としたなら、それを州政府から得るために、彼らはそれを要求するだけで足りたのであります。

 現在、わが州の鉄道の幾つかは麻痺しておりますが、それは妨害のためでなく、列車を運行する人間を確保できないからであります。どういうわけか、これらの鉄道はこの事実を公衆の目から隠そうと腐心しており、この目的のゆえに、注意をそらせようとして妨害行為を叫びたてております。……

 いくつかの事例で、鉄道が少数の未熟な労働者を働かせようと努め、彼らを群衆が取り囲んでののしり、追い出そうとしたこと、また別の二、三の事例で、群衆がプルマン寝台車を列車から切り切り離したことは事実であります。だが、これらの紛争はすべて局地的性格のものであり、州当局は容易に処理できました。イリノイ州は合衆国のほかのどの州よりも多数の鉄道労働者を擁して記事はまったくのでっちあげか、さもなければ途方もない誇張でありました。

連邦法は、つまり1861年と1881年に制定された法律・・・・・は、ある州が通常の司法手続きによっては合衆国の法律の施行が不可能なときにはいつなりとも、同州内で連邦軍を使用する権限を与えております。そのような状況はイリノイ州には存在いたしません。わが州には少数の局地的紛争が存在しますが、法の執行に重大な障害となる、もしくは現地ないし州の当局によって容易に取り締まれないような紛争は、皆無であります。……

 しかしたとえ、こじつけの解釈によって、当州の状況が先述の法律の条文に当てはまるとしても、私は、地方自治はわが合衆国憲法の基本原理であると具申いたします。各地方社会はできる限り、かつ法を施行する用意があり、また施行し得る限り、自治をおこなうべきであります。大統領に州への派兵権を与えている法律もこの基本原理に合わせて解釈すべきであり、治安権力の行使と法と秩序の維持に関する問題では、とくにそうであります。

 地方政治が必要な援助を提供する用意をなし、十分に法を施行しうるときに、この種の問題で地方政府をまったく無視することは、わが州の人民を自治能力ないし法施行の意志を欠くものとして侮辱するだけでなく、わが国の制度の基本原理に違反することであります。……

 イリノイ州知事としで、私はこれに抗議し、連邦軍がわが州での現在の任務から即時撤退するよう要求いたします。今後もし事態が重大化し、われわれが州の武力によってこれを統御しえなくなったときには、速やかにわれわれは連邦政府の援助を求めるめるでありましょう。しかし、そのようなときまで、ぶしつけではありますが、私はわが州民に対するこのいわれのない非難に抗議し、繰り返し連邦軍の即時撤退を要求するものであります。                                            敬具

                       1894年7月5日            

イリノイ州知事  ジョン・P・アルトゲルト

 【史料2】 

イリノイ州知事

ジョン・P・アルトゲルト殿

 拝啓。連邦軍のシカゴ派遣は、郵便業務妨害の排除を求める郵政省からの要求、連邦裁判所の令状が通常の手段では執行できない旨の合衆国法務官による申し出、および州際通商に関する共同謀議が存在することの法的に有効な証拠にもとづき、厳密に合衆国の憲法と法律に従ってなされた。明確に連邦権限の範囲に属するこれらの状況に対処するために、連邦軍のシカゴ市内駐屯は、適切であるのみならず、必要とみなされた。またこれにより、同市の治安維持に当たる地方当局の明白な任務に妨害加える意図は存在しなかった。

                1894年7月5日

          大統領官邸                                                          グローバー・クリーヴランド

 〔7月6日、アルトゲルトは、地方自治の侵害だとして、再度長文の抗議をおこなったが、大統領は再度すげなくこれを拒否した。〕

  (英文史料名) Altgelt-Cleveland Controversy, 1894.

訳 志邨晃佑


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