バックアップ

日常のバックアップ。

雪が舞う頃に

2007年03月26日 12時56分35秒 | 雑記
 ほんの1センチで時間は大きく変わるのですね、というお話。

 お昼休み、会社近くのとある交差点の一角にある、イタリアンとフレンチとの折衷のようなメニューを出す、店内にはジャズが流れる、どこにでもありがちなお店に行ったときのことです。

 その日はパスタという感じではかったので、お肉の日替わりランチ(サラダ、かぼちゃのスープ、ライス、豚の柔らか煮、コーヒーのコースで約千円、少しお高め)を注文しました。

料理が運ばれるのを待つ間、窓際の席から、午前中は仕事が立て込んで疲れたなぁ、とため息をつきながらお昼なのに外を忙しそうに歩いて行く人達や、道に植えられた木々の枝が風で揺れる様子を眺めていました。

それから少しして、ラグビーでもやっていたというような大きな体をした、あごひげが特徴的な男の店員さんがサラダとスープを運んできました。見た目もあるのでしょうか。その店員さんは、言葉使いは問題はないのですが、接客態度が無愛想というか威圧感を少し感じる人でした。

 私は、スプーンを使ってスープを飲むことや、フォークとナイフを使って食事をすることが慣れなく、得意ではありません。その日もスープをこぼしてしまい、テーブルに敷かれた紙にかぼちゃの濃い黄色が一滴。すぐに紙布巾で拭きましたが、約一センチくらいの円の跡が残ってしまいました。そのことが恥ずかしく、思わず折り畳んだ紙布巾でその跡を隠してしまいました。

それからというもの、大げさかもしれませんが、まるで自分が重大な罪を犯し、それを隠して生きているような気持ちになり、気が重くなりました。息をつける休みの時間が恥と罪とを隠す苦痛の時間に。

 その店員さんがメインディッシュを運んでくるとき、グラスの水が減ったのを見つけてやってくるとき、罪が発覚しないか、ひやひや。味など何も感じられず、気が気ではありませんでした。

 しかし罪とはいつかは露見するものです。メインディッシュを終え、コーヒーを運んできた店員さんはお皿と共に、紙布巾を取り上げました。ベットリと付いたスープのシミ。私は恥ずかしさの余り俯き、店員が立ち去るのをただ待ちました。その時間はほんのわずかな時間のはずです。しかしとても長く感じられました。

店員さんが去った後、私は急いでコーヒーを飲み、逃げ出すようにレジに向かいました。しかし、レジにはあの店員さん。時の進みがまたゆっくりと。罪人を見るような、侮蔑を含んだ視線。

ようやく外に出てため息を一つ。当分この店に来るのはやめよう。そう決意し、早足で会社に戻りました。