小説の前に、元ネタの記事を2つ…
【ニュースその1】 サンケイスポーツ(9月7日)
『芸能界から慶びの声…高田万由子「ご学友めざしてママ友達に」』
バイオリニスト、葉加瀬太郎(38)の妻でタレント、高田万由子(35)が6日、都内で会見した。先月1日に7年ぶりの出産となる長男、万太郎君が生まれ、上が女の子、さらに紀子さまと同じ愛育病院で長女を出産した経験を持つなど共通点が多い。
高田は「紀子さまは12年ぶりのご出産と聞いて、子育てのいろいろなことが懐かしく感じられるのでは。男の子はミルクを飲む量が多いし、力も強いから女の子の子育てよりも大変です。ただ、息子をお風呂に入れるとき、うちの娘がタオルを持ってきてくれたり手伝ってくれる。紀子さまも眞子さまや佳子さまがいらっしゃるので、心強いのでは」と自分の経験談を交えながら、紀子さまを気遣った。
万太郎君については「主人が『バイオリンは女の子が弾いても力強くないから男の子の方がいい』と言っていたので、うちも待望の後継者なんです」と明かし、「私も(息子の)ご学友めざして、ママ友達になりたいな」と笑顔で語っていた。
【ニュースその2】 サンケイスポーツ(9月7日)
『新宮さまと同じ9月6日生まれ…谷亮子、感激31歳!』
“YAWARAママ”も感激!! 新宮さまと同じ9月6日生まれで、柔道のシドニー、アテネ五輪女子48キロ級連続金メダリスト、谷亮子(31)から祝福のメッセージが届いた。
「秋篠宮家の皆さま、心よりお祝い申し上げます。予定どおりの無事なご出産を願っておりました。私も9月6日が誕生日ですので、とてもうれしく思っております」
プロ野球・オリックスの谷佳知外野手と結婚し、昨年12月31日に誕生した長男には、夫婦の名前から1字ずつとり「佳亮(よしあき)」と命名。出産後はテレビCMのナレーション収録などをした以外は、柔道の活動も休み、育児に専念している。
「私事ですが、昨年末には第1子を無事出産することができました。今は、子供の成長を楽しく見守る毎日を過ごしております。秋篠宮家におかれましては、お子様の元気で健やかなご成長を、国民の1人としてお祈り申し上げます」
昭和50年生まれの谷は、33歳で迎える2年後の北京五輪で3連覇をめざし、来年以降に復帰する予定。9月6日生まれの“先輩”として、活躍を続ける意向だ。
【小説・YAWARAさん!】
(悔しい…)
谷亮子ことYAWARAは、秋篠宮妃懐妊のニュースを見聞きするたび、歯がみしながら畳の上を転げ回った。
(そうと知っていれば、紀子と同じタイミングで産んでみせたのに!)
昨年末、NHK紅白と民放格闘番組の視聴率争いに「緊急出産」という偉業でもって参戦したYAWARAである。気合いで予定より1ヶ月も早く産んだ彼女にしてみれば、秋篠宮妃とタイミングを合わせるために出産を9ヶ月延長することなど、造作もないことだった。
出産と育児のため家庭にこもっているうちに、荒川静香だのエビちゃんだの、ロクにしゃべれもしないオンナが世間からチヤホヤされだしたのが、YAWARAには気に入らない。
(ここらで一発、YAWARAここにありっていうのを国民に思い知らせとかなきゃ!)
そのためには秋篠宮妃との同時出産が絶好の機会だったのだが…しかし、彼女は昨年末に出産したばかり。
鍛え上げた腹筋でもって産月をコントロールすることはできても、ひと月後に迫った秋篠宮妃の出産に合わせて今から胎児をしこむことなど、数々の偉業を成し遂げてきたYAWARAにもさすがにムリである。
(国民もホントは、アゴの荒川だの、色黒の宮里だのより、YAWARAを見たいと思っているはず)
国民が自分のことを「タワラちゃん」と呼んでいることも知っていたが、それも彼女にとっては栄誉だった。
(日本人の魂の源流のひとつは、米…。そしてタワラの称号を得た私こそ、米の体現者、ミセス米!)
そう思えばこそ、彼女は農機具メーカーや、米消費拡大キャンペーンのCMに積極的に出演してきたのである。もっとも、実際の彼女は小さな茶碗に半分程度しか米を食わないのだが。(太るから)
(…そして、もうひとつの日本人の心の源流は、畳)
畳の上で誰よりも輝いているYAWARA。
自分以外に畳の上で輝きそう(いろんな意味で)なライバルと言えば瀬戸内寂聴くらいしか思い浮かばないが、寂聴にはルックスで勝っているという絶対の自信があった。
(米と畳を制した私は、もはや日本人の魂の拠り所なのよ!)
そう確信するYAWARAにとって、秋篠宮妃出産という国民の一大慶賀に参戦…いや、関われないというのは、沽券にかかわる不始末なのである。
いてもたってもいられなくなったYAWARAは、馴染みの記者がいるサンケイスポーツに電話した。
「ちょっと! 紀子が出産したとき、誰からコメントとるつもりなの」
「はあ?」
この忙しいときに何を…などとは、記者の口からはとても言えない。スポーツ紙にとってのYAWARAは、聖教新聞における池田大作のごとき存在なのだ。
「えーとですね、一応、高田万由子さんにお願いしてますけど…」
「たかたまゆこ!」
「ええ。高田さんも先月出産したばかりですし、あの人なら間違いなく『ご学友』のポジションを狙ってくるでしょうからねぇ。いいコメント寄せてくれると思いますよ」
ステイタス至上主義女、高田万由子。
YAWARAは、あの女が大嫌いだった。
男(葉加瀬太郎)も、出演番組(料理の鉄人の審査員)も、選択は「ステイタス感」重視。それによって自身のステイタスを底上げしようなど、浅ましいにもほどがある。
オリンピック2連覇&世界選手権6連覇という偉業を達成し、更には内閣総理大臣顕彰も受賞したYAWARAにしてみれば、ステイタスとは自らの力でもぎ取ってこそ意味のあるものなのだから。
「あんな女より、私からコメントとりなさいよ。私だって出産したばかりよ」
「でも、YAWARAさんのとこは紀子さまの子供とは学年が違いますからねぇ…ご学友っていうところがポイントなんで」
「じゃあ、浪人でも留年でもさせてご学友にさせるわよ! 幼稚園から!」
「幼稚園から留年て!」
「子供の頃の1歳違いっていうのは体格も全然違うわね…じゃあ、クラスで私の子に逆らえるガキなどいないはず…必然的に、紀子の子もウチの子の子分よ! ゆくゆくは、私は天皇の兄貴分の母としてこの国を支配するの!」
「支配って! …いやまあ、ご学友はさておき、出産に関する祝賀コメントは大歓迎ですよ。各界の著名人からどれだけコメントを集められるかが勝負なんで」
「各界?」
「政界からは小泉首相、芸能界からはアッコさん、野球界からは長嶋さん、そして柔道界からはYAWARAさん」
「ふざけんな!」
荒々しく受話器を叩きつけて電話を切ると、YAWARAは久々のオフで横になっていた谷をベッドから引きずり出し、立て続けに50回一本背負いを喰らわせた。
「ゆゆゆ許して! お、お許しください亮子様!」
家庭では決してYAWARAに逆らうことを許されていない谷。彼の涙目がYAWARAのS心を刺激し、続けざまに関節技が決められた。ここから押さえ込み→レイプへと発展するのが、YAWARA夫婦の定番である。
(柔道界代表!?)
(私をそんなちっぽけなものの代表に見やがって!)
(私はYAWARAよ!)
(国民の代表なのよ!)
(私にはこの先、内閣総理大臣顕彰よりもっと偉大な肩書きがいくらでも待っているんだから!)
(国民栄誉賞とか、人間国宝とか、世界遺産とか世界七不思議とかミステリーハンターとか!)
(だから紀子の出産に寄せるコメントだって、単に柔道界の代表としてのものじゃダメなの!)
(国民を代表する者として…)
(いいえ! 国民の代表とかじゃダメ! 私は国民とは別枠にすべきだわ! 国民の上に立つ者として!)
(むしろ私は日本を代表…いえ、象徴する者として、紀子の出産をねぎらうくらいのスタンスでいるべきなのよ!)
(日本を代表するには、そうね…最低でも、早いとこ人間国宝にならなきゃ…)
(ていうか、いっそ禅譲してくれないかしら…皇位)
YAWARAの心は千々に乱れながら、体は激しく上下に動き、組み敷いた谷に5度目の発射を強要するのだった。
そして…
9月6日。ついに秋篠宮妃は、待望の男児を出産した。
「YAWARAさん、お願いしていたコメントよろしくお願いします!」
サンケイスポーツの記者から電話が入る。
「ええ、もう何日も前から用意しておいたわ。今から送るわね」
FAXに飲み込まれていく原稿を見つめながら、こみ上げる笑いを堪えきれないYAWARA…。
『秋篠宮家の皆さま、心よりお祝い申し上げます。予定どおりの無事なご出産を願っておりました。私も9月6日が誕生日ですので、とてもうれしく思っております』
冒頭の一文は、「悠仁とYAWARAは誕生日が同じ」という事実を国民の頭に叩き込むための第一歩だ。
(これが周知の事実となったとき、私はまさに日本人の心の拠り所となるのだわ)
いずれ悠仁が皇位につき、9月6日が天皇誕生日となったとき…そのとき、国民は必ずや思い出すことだろう。
「あれ? そういえば今日って、YAWARAちゃんの誕生日だよな?」 …と。
天皇に併せてYAWARAの誕生日をも祝ううちに、いつしか国民は天皇とYAWARAを同一視し始めるはずだ。そして悠仁天皇が退位した後は、9月6日は「ヤワラの日」という祝日になるに違いない。
そのとき、YAWARAは120歳くらい。
オリンピック25連覇の偉業に挑んでいるはずである。
(小説「YAWARAさん!」 おわり)