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日めくり万葉集(20)

2008年02月02日 | 万葉集
日めくり万葉集〈20〉は作者未詳の恋の歌。選者は、試行錯誤を重ねながら日本の伝統的な色、200色余りを植物の染料で復元してきた、染色家の吉岡幸男(よしおかさちお)さん。

【歌】
紫(むらさき)は
灰(はひ)さすものそ
海石榴市(つばきち)の
八十〈やそ〉の衢(ちまた)に
逢〈あ〉へる子(こ)や誰(たれ)

巻の12.3101   作者未詳

【現代文】
尊い紫の色を染めるには、椿の灰を入れるもの。椿の木のある海石榴市(つばきち)のいくつもの道が交わる辻で出あった娘さん。あなたは誰?
奈良県桜井市、かつて海石榴市(つばきち)と呼ばれ、市がたってにぎわった場所。ここで行われた歌垣〈うたがき〉という、男女の出会いの場で詠まれた歌。

【選者の言葉】
求愛の歌なんだけど、紫というのはもっとも高貴な色。紫に咲く花の美しさの例えられているわけだから、最高の褒め言葉をもらったという雰囲気がある。紫の色を美しく出すために、椿の木の灰が必要。染色の大事な技術そのもの。

“紫は灰さすものそ”とは、よく観察して作っているなあと。万葉の時代にはそういう仕事に対する人々の関心が高かったのかなあという印象がする。日本の文化というものが、中国、あるいは朝鮮半島の人々の渡来によって、技術として水準が上がっていった。

美しいものを染め上げることが出来るとか、織り上げる技術が定着したというのはうらやましいと思う。そういう中で仕事をしたかったと思うような時代だった。

(この歌は)歌垣(うたがき)に男女が集まってきて、恋愛のきっかけを作るという、おおらかなもの。万葉の時代に技術的にかもし出された紫の美しい色と、それにかこつけた恋愛の歌。そういう素朴さとシルクロードの文化の交流によって、高度な文化が混在していたというところに魅力を感ずる。(おわり)

【壇さんの語り】
この歌は娘を紫にたとえ、私が灰の役割をすれば、あなたは美しく輝くでしょうと呼びかけている。吉岡さんは万葉の時代と同じように、紫草の根から紫を取り出して、色を出している。発色が難しいという紫を何日も布を繰り続けて染めていく。染色の技術で頂点の輝く紫は聖徳太子が定めた冠位十二階で最高の位の色。万葉人のあこがれの色だった。

〈吉岡さんは古来から受け継がれてきた日本の文化、特に職人によって守られてきた技術というものが万葉の時代のように評価されない、今の日本の風潮に腹立ちを覚えておられるように感じた。

誰が見ていなくても職人としての自分の目に恥ずかしくないように、一つの工程も手抜きをせずに作品を完成させる。そこに日本人の誇りや人間としての誠実さがあるのではないかと。腹立ちは吉岡さんのような方が手厚く保護されない、国の現状に対しても向かっているのかもしれない。)

【調べもの】
☆海石榴市〈つばきち〉、海石榴市・椿市(つばいち)
〈ツバキチの音便〉。奈良県桜井市三輪付近にあった古代の市場。つばのいち。

☆八十(やそ)
〈名)はちじゅう。また数が多いこと。たくさん。

☆衢、巷、岐(ちまた)
「道股みちまた」の意。
①道の別れるところ。
②道、町通り。

☆歌垣(うたがき)
①上代、男女が山や市などに集まって互いに歌を詠みかわし、舞踏して遊んだ行事。一種の求婚方式で性的解放が行われた。

☆冠位十二階
冠位の最初のもの。
603年に聖徳太子、蘇我馬子らが制定した冠により位階。冠名は儒教の徳目を参考にして、徳・仁・礼・信・儀・智とし、おのおの大・小に分けて12階とした。色は紫・青・赤・黄・白・黒とその濃淡で区別。

☆繰る(くる)
①細長いものを引き寄せる。また引き寄せてものに巻き取る。たぐる。
②綿繰り車にかけて綿花の種子を取り去る。
③順々に送り出す。つまぐる。

☆辻(つじ)
①道路が十字形に交差しているところ。
②みちばた。みちすじ。ちまた。


[角川書店:古語辞典、岩波書店:広辞苑]













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