社会保険労務士の大澤朝子です。
法律と法律の狭間に置かれた人は、法律では救えない。
その時代時代の世論や政策の傾向によって、
あたかも波間に漂う浮遊物のように、行先ままならずに
漂っている……。
業務外の傷病が対象の健康保険、業務上の傷病が対象の労災保険。
これが本日のテーマです。
その傷病が業務上であるか業務外であるかは、
病院の窓口に簡単に保険証を出せるかどうかに係ることですので、
当事者にとっては大事な問題です。
業務上か業務外かで受けられる保険給付は、次のように
違っています。
・業務外の傷病(私傷病)は、健康保険
・業務上の傷病は、労災保険
これは、健康保険法及び労災保険法に規定されている事項
ですので、取扱いを曲げることはできません。
従って、例えば業務上の傷病なのに健康保険から給付を受ける、
ということはできません。その逆もしかり。
ところが、ここに問題が一つあります。
「経営者」は労働者ではないので、たとえ業務上の傷病
であっても労災保険から給付を受けることができません。
労災保険は法律上「労働者」を保護する為の制度だからです。
すると、業務上で怪我をした「経営者」は、病院で治療を
受けるときは労災保険では受けられない、健康保険でも
受けられない、ということになります。
「経営者」といっても個人事業主から大企業のトップまで
その態様はいろいろです。一般労働者とさして変わらない
ような中小企業の役員までにも一律に上記のように法の縛りを
受けることは問題があります。そのため、色々な経緯を経て、
昭和40年、労災保険に「特別加入」制度ができ、1人親方や
中小企業の役員等が任意で、労災保険に加入できるようになりました。
(「特別加入制度」)
前置きが長くなってきましたが、昨年問題になった
シルバー人材センターで仕事に従事していた方が、業務上の
怪我を負ったため、健康保険から治療の保険給付を受けようと
したところ(娘さんの健康保険の扶養であった)、健康保険
の給付を拒否され、一方、シルバー人材センターの
「業務委託者」は「労働者」ではないからと労災保険
からも給付を拒否された事例について、特別に配慮が
なされたことは皆さんもご存じのことと思います。
この健康保険か、労災保険か、は、昭和の昔からくすぶっている問題
で、これまでも数々の通達が出てきました。その中で
著名なものを上げてみましょう。
(言葉はお役所言葉ですので、分かりやすく訳しています。)
1、昭和30年6月9日 基発359号 労働省労働基準局長、厚生省保険局長から
都道府県労働基準局長・都道府県知事あて通ちょう
曰く、近年、労災保険からも健康保険からも補償を
受けることができない事例が見られるので、今後は、かかることの
ないよう特に慎重に健康保険と労災保険との間で調整し合いなさい。
(…つまり、どっちもダメというのではなく、両者で話し合って
どっちかの給付を受けられるようにしなさい、ということ。)
2、平成15年7月1日 厚生労働省保険局長、社会保険庁運営部長から地方
社会保険事務局長あて 保発0701001号 庁発0701001号
曰く、労災保険の「特別加入制度」に加入していなかった
ために、(健康保険からも)労災保険からも補償が受けられない
中小事業主については、今後は、以下のように取り扱いなさい。
すなわち、健康保険の被保険者5人未満の中小事業主等の場合は、
業務上の傷病であっても健康保険の療養給付(治療費)を受けられます。
しかし、健康保険の傷病手当金は除きます。
(昭和30年の通ちょうより後退。…どう見ても、迷走しているとしか思えない。
被保険者5人以上の中小事業主は、けっく、どっちも受けられない!)
極め付きは、次の通達。本当は、どっちなの?
3、平成24年11月5日 厚生労働省労働基準局労災補償部課長から都道府県
労働局総務部長、労働基準部長あて 基労管発1101第1号、基労補発1105第2号
曰く、近頃、シルバー人材センターの業務委託者が業務上の
傷病だからという理由で、健康保険からの給付(治療費)を
受けられないという事例があったが、慎重に検討した結果、
このケースについては、健康保険から給付(治療費)を受けられる
こととします。但し、今後とも、業務上の傷病のような場合は、
その労務提供の実態を慎重に見極め、労働者性の判断を適切に
行って、保険給付の決定を行ってください。
(…つまり、このケースに限り例外を認めるってこと? で、
他の場合については、原則通り、業務上の傷病は労災保険、
業務外の傷病は健康保険で、ってことですね。)
根本問題は先送りですね。
しかし、事業者用には「特別加入制度」があるのですから、
本来、任意加入できる方は加入した方がいいと、私は思います。
年間払いなのですが、たいした金額でもありませんし。
建設業の方は、恐らく大方特別加入されていると思います。
最後に、頭が混乱するような事を言いますと、
国民健康保険法では、この業務外・業務上という概念を
規定していませんので、市町村国保や国民健康保険組合
に加入の方は、業務上の傷病でも、療養の給付が受けられます。
どうです? ますます分かりにくくなったんじゃないですか?
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法律と法律の狭間に置かれた人は、法律では救えない。
その時代時代の世論や政策の傾向によって、
あたかも波間に漂う浮遊物のように、行先ままならずに
漂っている……。
業務外の傷病が対象の健康保険、業務上の傷病が対象の労災保険。
これが本日のテーマです。
その傷病が業務上であるか業務外であるかは、
病院の窓口に簡単に保険証を出せるかどうかに係ることですので、
当事者にとっては大事な問題です。
業務上か業務外かで受けられる保険給付は、次のように
違っています。
・業務外の傷病(私傷病)は、健康保険
・業務上の傷病は、労災保険
これは、健康保険法及び労災保険法に規定されている事項
ですので、取扱いを曲げることはできません。
従って、例えば業務上の傷病なのに健康保険から給付を受ける、
ということはできません。その逆もしかり。
ところが、ここに問題が一つあります。
「経営者」は労働者ではないので、たとえ業務上の傷病
であっても労災保険から給付を受けることができません。
労災保険は法律上「労働者」を保護する為の制度だからです。
すると、業務上で怪我をした「経営者」は、病院で治療を
受けるときは労災保険では受けられない、健康保険でも
受けられない、ということになります。
「経営者」といっても個人事業主から大企業のトップまで
その態様はいろいろです。一般労働者とさして変わらない
ような中小企業の役員までにも一律に上記のように法の縛りを
受けることは問題があります。そのため、色々な経緯を経て、
昭和40年、労災保険に「特別加入」制度ができ、1人親方や
中小企業の役員等が任意で、労災保険に加入できるようになりました。
(「特別加入制度」)
前置きが長くなってきましたが、昨年問題になった
シルバー人材センターで仕事に従事していた方が、業務上の
怪我を負ったため、健康保険から治療の保険給付を受けようと
したところ(娘さんの健康保険の扶養であった)、健康保険
の給付を拒否され、一方、シルバー人材センターの
「業務委託者」は「労働者」ではないからと労災保険
からも給付を拒否された事例について、特別に配慮が
なされたことは皆さんもご存じのことと思います。
この健康保険か、労災保険か、は、昭和の昔からくすぶっている問題
で、これまでも数々の通達が出てきました。その中で
著名なものを上げてみましょう。
(言葉はお役所言葉ですので、分かりやすく訳しています。)
1、昭和30年6月9日 基発359号 労働省労働基準局長、厚生省保険局長から
都道府県労働基準局長・都道府県知事あて通ちょう
曰く、近年、労災保険からも健康保険からも補償を
受けることができない事例が見られるので、今後は、かかることの
ないよう特に慎重に健康保険と労災保険との間で調整し合いなさい。
(…つまり、どっちもダメというのではなく、両者で話し合って
どっちかの給付を受けられるようにしなさい、ということ。)
2、平成15年7月1日 厚生労働省保険局長、社会保険庁運営部長から地方
社会保険事務局長あて 保発0701001号 庁発0701001号
曰く、労災保険の「特別加入制度」に加入していなかった
ために、(健康保険からも)労災保険からも補償が受けられない
中小事業主については、今後は、以下のように取り扱いなさい。
すなわち、健康保険の被保険者5人未満の中小事業主等の場合は、
業務上の傷病であっても健康保険の療養給付(治療費)を受けられます。
しかし、健康保険の傷病手当金は除きます。
(昭和30年の通ちょうより後退。…どう見ても、迷走しているとしか思えない。
被保険者5人以上の中小事業主は、けっく、どっちも受けられない!)
極め付きは、次の通達。本当は、どっちなの?
3、平成24年11月5日 厚生労働省労働基準局労災補償部課長から都道府県
労働局総務部長、労働基準部長あて 基労管発1101第1号、基労補発1105第2号
曰く、近頃、シルバー人材センターの業務委託者が業務上の
傷病だからという理由で、健康保険からの給付(治療費)を
受けられないという事例があったが、慎重に検討した結果、
このケースについては、健康保険から給付(治療費)を受けられる
こととします。但し、今後とも、業務上の傷病のような場合は、
その労務提供の実態を慎重に見極め、労働者性の判断を適切に
行って、保険給付の決定を行ってください。
(…つまり、このケースに限り例外を認めるってこと? で、
他の場合については、原則通り、業務上の傷病は労災保険、
業務外の傷病は健康保険で、ってことですね。)
根本問題は先送りですね。
しかし、事業者用には「特別加入制度」があるのですから、
本来、任意加入できる方は加入した方がいいと、私は思います。
年間払いなのですが、たいした金額でもありませんし。
建設業の方は、恐らく大方特別加入されていると思います。
最後に、頭が混乱するような事を言いますと、
国民健康保険法では、この業務外・業務上という概念を
規定していませんので、市町村国保や国民健康保険組合
に加入の方は、業務上の傷病でも、療養の給付が受けられます。
どうです? ますます分かりにくくなったんじゃないですか?
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