大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆勇気をもって労災申請を

2013年12月19日 18時41分26秒 | 労災保険
最近、「労災申請したいけど、退職してからにしたいのです。」
という話をよく聞きます。いずれも一般の方からです。

最初は、何を言っているのか分かりませんでしたが、よく話を聞きますと、
「在職中に労災申請すると事業主から嫌われるのではないか」と心配なので、
仕事中に怪我をしても在職中は労災申請せず、退職後に申請したい、というのです。

一般の人は可哀そうです。何も知らずに、一人で悩んでいるんですね。
誤った知識で。

正確に言いますと、
●会社のハンコをもらわなくても、自分で労災申請できます。
●会社がハンコを押さなかったことを「申立書」に書いて添付すれば労災申請できます。
●必要な賃金台帳、出勤簿は、労基署が会社へ請求してくれます。
●その怪我が「業務上か否か」などは、労基署が審査をして決定します。決めるのは
会社ではありません。労基署です。
●労災保険法上、治療費、休業補償などには2年の時効があります。
「退職」するまで待っていたら、1日1日と、どんどん時効が進んでしまいます。

病院の診療報酬の締めは当月「月末」で、支払基金等への送付は翌月10日までです。
怪我をしたら、なるべく早く、なるべく当月月末までに、医療機関に
労災5号用紙を提出しましょう。
労災申請したからといって、会社が労基署から怒られることはありません(重篤な違反事故を除く)。
普通の怪我(骨折が多いです。)で会社が怒られることは一切ありません。
このような怪我は日々日常的に起きてい、申請も山のようにあるのです。

労災用紙は、厚生労働省のホームページからダウンロードできますが、
種類がありますので、何をダウンロードしていいのか分からないと思います。
専門的知識も必要です。

一番いいのは、本人が労基署へ行って用紙をもらい、その場で書くことです。
記入方法を聞きながらですから安心ですね。
怪我から日数が経っていても大丈夫です。ただし、当月月末を過ぎていましたら、
もはや、医療機関は事務処理を終わっている可能性があります。
できるだけ早く、医療機関には労災申請する旨を伝えておきましょう。

注意事項もあります。
医療機関での診察時には、正確に怪我の状況を説明しましょう。

●業務外の怪我は「健康保険」
●業務上の怪我及び通勤途上の怪我は「労災保険」

と決まっていますから、業務上の怪我では健康保険証が使えません。
労災の場合は、保険証の代わりに俗に「5号用紙」と言われる用紙を
病院に提出するだけで、治るまで治療を受けられます。

休業補償は労基署へ直接提出するのですが、こちらも用紙は上記の
ように手に入りますので、ご自身で申請することができます。
分からないことは、労基署で教えてくれますので、怖がらずに
相談してみるといいと思います。

心配せずに、自分の権利を正しく執行しましょう。

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◆迷走する通達と労災保険か健康保険かの判断

2013年03月07日 10時21分35秒 | 労災保険
社会保険労務士の大澤朝子です。

法律と法律の狭間に置かれた人は、法律では救えない。
その時代時代の世論や政策の傾向によって、
あたかも波間に漂う浮遊物のように、行先ままならずに
漂っている……。

業務外の傷病が対象の健康保険、業務上の傷病が対象の労災保険。
これが本日のテーマです。

その傷病が業務上であるか業務外であるかは、
病院の窓口に簡単に保険証を出せるかどうかに係ることですので、
当事者にとっては大事な問題です。
業務上か業務外かで受けられる保険給付は、次のように
違っています。

・業務外の傷病(私傷病)は、健康保険
・業務上の傷病は、労災保険

これは、健康保険法及び労災保険法に規定されている事項
ですので、取扱いを曲げることはできません。
従って、例えば業務上の傷病なのに健康保険から給付を受ける、
ということはできません。その逆もしかり。

ところが、ここに問題が一つあります。
「経営者」は労働者ではないので、たとえ業務上の傷病
であっても労災保険から給付を受けることができません。
労災保険は法律上「労働者」を保護する為の制度だからです。

すると、業務上で怪我をした「経営者」は、病院で治療を
受けるときは労災保険では受けられない、健康保険でも
受けられない、ということになります。

「経営者」といっても個人事業主から大企業のトップまで
その態様はいろいろです。一般労働者とさして変わらない
ような中小企業の役員までにも一律に上記のように法の縛りを
受けることは問題があります。そのため、色々な経緯を経て、
昭和40年、労災保険に「特別加入」制度ができ、1人親方や
中小企業の役員等が任意で、労災保険に加入できるようになりました。
(「特別加入制度」)

前置きが長くなってきましたが、昨年問題になった
シルバー人材センターで仕事に従事していた方が、業務上の
怪我を負ったため、健康保険から治療の保険給付を受けようと
したところ(娘さんの健康保険の扶養であった)、健康保険
の給付を拒否され、一方、シルバー人材センターの
「業務委託者」は「労働者」ではないからと労災保険
からも給付を拒否された事例について、特別に配慮が
なされたことは皆さんもご存じのことと思います。

この健康保険か、労災保険か、は、昭和の昔からくすぶっている問題
で、これまでも数々の通達が出てきました。その中で
著名なものを上げてみましょう。
(言葉はお役所言葉ですので、分かりやすく訳しています。)

1、昭和30年6月9日 基発359号 労働省労働基準局長、厚生省保険局長から
都道府県労働基準局長・都道府県知事あて通ちょう

曰く、近年、労災保険からも健康保険からも補償を
受けることができない事例が見られるので、今後は、かかることの
ないよう特に慎重に健康保険と労災保険との間で調整し合いなさい。

(…つまり、どっちもダメというのではなく、両者で話し合って
どっちかの給付を受けられるようにしなさい、ということ。)

2、平成15年7月1日 厚生労働省保険局長、社会保険庁運営部長から地方
社会保険事務局長あて 保発0701001号 庁発0701001号

曰く、労災保険の「特別加入制度」に加入していなかった
ために、(健康保険からも)労災保険からも補償が受けられない
中小事業主については、今後は、以下のように取り扱いなさい。
すなわち、健康保険の被保険者5人未満の中小事業主等の場合は、
業務上の傷病であっても健康保険の療養給付(治療費)を受けられます。
しかし、健康保険の傷病手当金は除きます。

(昭和30年の通ちょうより後退。…どう見ても、迷走しているとしか思えない。
被保険者5人以上の中小事業主は、けっく、どっちも受けられない!)

極め付きは、次の通達。本当は、どっちなの?

3、平成24年11月5日 厚生労働省労働基準局労災補償部課長から都道府県
労働局総務部長、労働基準部長あて 基労管発1101第1号、基労補発1105第2号

曰く、近頃、シルバー人材センターの業務委託者が業務上の
傷病だからという理由で、健康保険からの給付(治療費)を
受けられないという事例があったが、慎重に検討した結果、
このケースについては、健康保険から給付(治療費)を受けられる
こととします。但し、今後とも、業務上の傷病のような場合は、
その労務提供の実態を慎重に見極め、労働者性の判断を適切に
行って、保険給付の決定を行ってください。

(…つまり、このケースに限り例外を認めるってこと? で、
他の場合については、原則通り、業務上の傷病は労災保険、
業務外の傷病は健康保険で、ってことですね。)

根本問題は先送りですね。
しかし、事業者用には「特別加入制度」があるのですから、
本来、任意加入できる方は加入した方がいいと、私は思います。
年間払いなのですが、たいした金額でもありませんし。
建設業の方は、恐らく大方特別加入されていると思います。

最後に、頭が混乱するような事を言いますと、
国民健康保険法では、この業務外・業務上という概念を
規定していませんので、市町村国保や国民健康保険組合
に加入の方は、業務上の傷病でも、療養の給付が受けられます。

どうです? ますます分かりにくくなったんじゃないですか?


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従業員さんの交通事故で想定すること。重篤度は、自賠責使う、労災保険使う、健康保険・・・

2013年01月03日 21時32分12秒 | 労災保険

社会保険労務士の大澤朝子です。

前回のブログで、「従業員さんの身に交通事故が起きた・・・(ら忙しくなる)」という意味の

記述をいたしました。

なぜ、社会保険労務士の顧問先に「交通事故」が起きたら忙しくなるの?

と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。

そこで、本日は、交通事故と労災保険と健康保険の関係について、簡単に説明しましょう。

 

顧問先の従業員さんの身に交通事故が起きると、経営者さんや総務さんから

必ずと言っていいほど、電話がかかってきます。

1、会社として、どのような対応をとったらいいのか

2、本人はどのような補償が受けられるのか

3、労災保険は使えるのかetc・・・

 

社会保険労務士は自賠責保険の専門家でもありませんし、ましてや任意保険の損保会社でも

ありません。しかし、従業員さんが交通事故に遭った場合、補償関係の面で大きな判断が

求められる場合があります。

 

すなわち、大きく分けると、次の3つの選択肢を早急に決定しなければなりません。

その従業員さんが被害者であるか、加害者であるか、或いは過失割合が何%であるか

にかかわらず、病院で治療を受けることになった場合、は必須です。

(・・・一つの交通事故を聞いて、まず、我々は一般的な過失割合を想定しておきますが。)

1、(相手の)自賠責保険を使うか(使える場合)

2、労災保険を使うか

3、健康保険を使うか

予備知識として言っておきますが、以上の3者から同時に、同一事由に基づいて同一内容の

補償を受けることはできません。原則として、3つのうち一つだけです(「併給調整」)。

基本的に、自賠責か労災保険かを選択、又は、自賠責か健康保険か選択、です。

 

(蛇足ですが、

自賠責が使えるのに労災保険を使った場合は、国(労災)は相手側に

対して、その価額の限度で損害賠償を請求します(求償)。

自賠責が使えるのに健康保険を使った場合も、健保の保険者は相手側に

対して、その価額の限度で損害賠償を請求します(求償)。)

 

さて、判断の基準は、

・業務上又は通勤途上であったか

・私事の途上であったか

です。次の2つの中からその取扱いを決定します。

1、業務上又は通勤途上であった場合

→相手の自賠責保険が使える場合は自賠責を使うか、又は労災保険を使うかを決定

2、私事の途上であった場合

→相手の自賠責保険が使える場合は自賠責を使うか、又は健康保険を使うか

 

2の場合は、会社としては、従業員の私事であるため、ほとんど手出しは行いません。

せいぜい本人又はご家族からの問い合わせに対しアドバイスを行ったり、

自賠責の休業補償の請求書を持ってきたら、賃金・出勤状況の証明をする程度です。

1の場合が問題です。

業務上又は通勤途上での交通事故である場合は、

労災保険の対象であるか否か判断をし、

 

もし、自賠責も使え、労災保険も使える場合は、

自賠責保険を使うか(自賠責先行)、労災保険のみでいくのか、

その怪我の重篤度を加味してどちらかに決定します。

なぜなら、自賠責保険には、治療費、死亡等の補償に限度額があるからです

労災保険には、限度額はありません(給与額による一定程度の限度はあります)

また、先に述べたように、自賠責と労災保険の両方は使えません。

どちらか一方だけです(併給調整)

 

さて、仮定として、自賠責先行でいくことにしたとします。

しかし、「併給調整」といいながら、実は、その際にも労災保険から、休業補償の20%

を受けることができます(併給調整されない)。

労災保険の対象事故である場合は、自賠責を使っても、労災保険の請求行為はあるのです。

労災保険請求行為がありますから、事故の概要をつかみ、交通事故証明書を

取り寄せて必要な書類作成を行わなければなりません。

 

・・・「従業員さんが交通事故に遭った」というだけで、

これだけの判断を即日、行わなければなりません。

読者は、交通事故なんて稀でしょう、と思われるかもしれませんが、

我々社会保険労務士が抱えている(顧問先さんの)従業員総数は多いですので、

交通事故もけっこう日常茶飯事なのです。

 

余談ですが、よく、相手側の保険会社さんから電話を受けることもあります。

この場合、保険会社さんもプロですから、話がし易い。お互い電話で話し合って

「労災保険を使って、自賠責を使わない」こととした場合は、

保険会社さんの方から、(にこやかに)

「労災の書類にこちらの担当者の連絡先を書いておいてください」

とまで言ってくれる会社さんもあります。

これは、労災保険を使っても、先の「求償」のため、どっちみち、

国から相手側保険会社に連絡がくるので、そう言ってくれるのです。

 

明日から仕事始めです。今夜はこの辺で幕引きといたしましょう。 

 

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