新薬師寺から南下して歩くこと約十五分、真言律宗高円山・白毫寺(びゃくごうじ)に到着する。
ただ、到着したのは寺のふもとの入口で、ここから、かなりの数の石段を登っていかなければならない。
石段の脇には、この寺の代名詞、萩や椿が見事な花をつける、ということであるが、今日は二月、なにもない。
まことに寂しいかぎりであるが、この「侘しさ感」が、逆にたまらなくよい。
この寺の創建は古く、霊亀元年(七一五)、天智天皇の第七子、志貴皇子の離宮跡を寺にしたのが始まりという。
境内に足を踏み入れる。
そこには、静寂の空間が広がっている。
誰ひとりいない。寺内を独り占めというのは、本当に
「至福の時」
である。
<境内と本堂>
この寺の本尊は
〔阿弥陀如来坐像〕(平安~鎌倉・重文)
であるが、やはり見どころは
〔閻魔大王坐像〕(鎌倉・重文)
であろう。
像高は一一八・五センチ。慶派仏師の手によるもの。
眼と口を大きく「カッと…」開き、憤怒の形相で、観る者を威圧する。まさに冥界の王の威厳である。
さて、ここで「死出の旅路」について、簡単に触れておきたい。
人は亡くなると、まず七日間、ひたすら「死出の山」を歩き続けなければならない。いわゆる「冥土の旅」の始まりである。
そしてこれから、十回にわたる裁判を受けることとなる。
まず一回目、七日目に書類審査である。
その後、三途の川を渡り、十四日目に二回目の裁判、以降、七日ごとに裁判を受け、四十九日目に結審となる。六道(天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)のいずれに進むのかが決まるわけだが、それぞれの裁判の中で、一番大きな影響力を持つのが五回目、閻魔大王の行う裁判なのである(ちなみに結審から三周忌までの間に三回の再審請求ができる)。
閻魔大王を拝しつつ、
(ぜひ、天道へお願いします…)
と、つぶやくわたしは、間違いなく、天道に行けないこと間違いない…。
仏像拝観を終え、外へ。白毫寺は、かなりの高台に立地しているので、ここから奈良市街を大きく眺めることができるのである。
寒いながらも気持ちのよい景色を見つめつつ、
(ところで、いつまで単身赴任は続くのだろう…)
などと考えている自分がいた。
<奈良市街を望む>
御朱印は、本尊の〔阿弥陀如来〕
ありがたく頂戴する。
白毫寺から近鉄奈良駅までは、歩いて約四十分、かなりの道のりであったが、なんとか駅までたどり着き、単身赴任宅へ。
今日の晩酌は
「ほうれん草鍋」
水一リットルに、粉末かつおだし一スティック(八グラム)を溶き、しょう油大さじ二杯と酒大さじ一杯、塩小さじ一杯を入れる。
具材は、ほうれん草のほかに、絹ごし豆腐とブタコマである。
とてもやさしい味に仕上がり、体に染み入る。
乾杯!
【冬】 奈良・高畑 「静寂と憤怒の中に」②完
ただ、到着したのは寺のふもとの入口で、ここから、かなりの数の石段を登っていかなければならない。
石段の脇には、この寺の代名詞、萩や椿が見事な花をつける、ということであるが、今日は二月、なにもない。
まことに寂しいかぎりであるが、この「侘しさ感」が、逆にたまらなくよい。
この寺の創建は古く、霊亀元年(七一五)、天智天皇の第七子、志貴皇子の離宮跡を寺にしたのが始まりという。
境内に足を踏み入れる。
そこには、静寂の空間が広がっている。
誰ひとりいない。寺内を独り占めというのは、本当に
「至福の時」
である。
<境内と本堂>
この寺の本尊は
〔阿弥陀如来坐像〕(平安~鎌倉・重文)
であるが、やはり見どころは
〔閻魔大王坐像〕(鎌倉・重文)
であろう。
像高は一一八・五センチ。慶派仏師の手によるもの。
眼と口を大きく「カッと…」開き、憤怒の形相で、観る者を威圧する。まさに冥界の王の威厳である。
さて、ここで「死出の旅路」について、簡単に触れておきたい。
人は亡くなると、まず七日間、ひたすら「死出の山」を歩き続けなければならない。いわゆる「冥土の旅」の始まりである。
そしてこれから、十回にわたる裁判を受けることとなる。
まず一回目、七日目に書類審査である。
その後、三途の川を渡り、十四日目に二回目の裁判、以降、七日ごとに裁判を受け、四十九日目に結審となる。六道(天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)のいずれに進むのかが決まるわけだが、それぞれの裁判の中で、一番大きな影響力を持つのが五回目、閻魔大王の行う裁判なのである(ちなみに結審から三周忌までの間に三回の再審請求ができる)。
閻魔大王を拝しつつ、
(ぜひ、天道へお願いします…)
と、つぶやくわたしは、間違いなく、天道に行けないこと間違いない…。
仏像拝観を終え、外へ。白毫寺は、かなりの高台に立地しているので、ここから奈良市街を大きく眺めることができるのである。
寒いながらも気持ちのよい景色を見つめつつ、
(ところで、いつまで単身赴任は続くのだろう…)
などと考えている自分がいた。
<奈良市街を望む>
御朱印は、本尊の〔阿弥陀如来〕
ありがたく頂戴する。
白毫寺から近鉄奈良駅までは、歩いて約四十分、かなりの道のりであったが、なんとか駅までたどり着き、単身赴任宅へ。
今日の晩酌は
「ほうれん草鍋」
水一リットルに、粉末かつおだし一スティック(八グラム)を溶き、しょう油大さじ二杯と酒大さじ一杯、塩小さじ一杯を入れる。
具材は、ほうれん草のほかに、絹ごし豆腐とブタコマである。
とてもやさしい味に仕上がり、体に染み入る。
乾杯!
【冬】 奈良・高畑 「静寂と憤怒の中に」②完