goo

20 神の光から大自然の光へ

人々は何を仰ぎ見るか
 ロンドンのテート・モダンで2003年におこなわれたオラファー・エリアソン*01の光のインスタレーション「ウェザー・プロジェクト」は、沈みゆく太陽の強烈な光を浴びてたたずむ人々のシルエットが印象的なシーンとなってスチールstillに記録されている。エリアソンはこのインスタレーションのために虚実様々な仕掛けを用意したが、それらの評価とは別に、このインスタレーションはあきらかに、自然の象徴としての太陽を崇高なものとして仰ぎ見る“人々の姿”をスチールを通じて見る人々に印象づける意図を持っている。自らの力を過信し、自然の上に自らを重ねて憚らなかった人間に対し、自然の偉大さ、崇高さをあらためて示そうという意図である。
 円形の強烈な光を人々が仰ぎ見るという同じようなシーンをかつて見たことがある。イタリアのシエナ大聖堂で、である。シエナ大聖堂の円形の大窓から差し込む光は、この聖堂を訪れる人々の視線を釘付けにする。その光は直上から聖堂内部を包み込むように差し込む光とも違い、聖堂壁面上部に空けられた開口部から差し込んでくる光である。が、本来外の“情報”を伝えるはずの窓から届くのは、光の強度と刺激のみである。そしてその光が“情報のない”光だからこそ、超自然的な光、すなわち宗教的な光と結びつく。すなわちその窓から差し込む光は“神の光”となる。そしてこの光を人々が見上げるシーンこそ、大聖堂が意図した“神―人間”の関係性を示している。

“神―人間”の関係性/シエナ大聖堂/シエナ・イタリア

パラダイムシフトの先
 シエナ大聖堂の“神の光”が、700年の歳月を経て“大自然の光”へと変貌した。エリアソンの意図したのは“自然―人間”の関係性だった。
 1963年バックミンスター・フラーは有限で閉じた宇宙船としての地球という考え方を「宇宙船地球号」*02という親しみのある名称で唱えた。1972年ジェームズ・ラブロックは共進化する一つの生命体として地球を捉えるガイア理論*03を提唱し、またこの年、デニス・メドウズらは地球の有限性と共進性を初めてコンピューターで数値化し「成長の限界」*04として発表した。
 このように20世紀後半になって“自然―人間”の関係性が、有限で閉じた地球という環境の中で捉えられ始め、共進化という考え方が脚光を浴び始めた。そして地球環境問題はいまや、パラダイムシフトという大きな流れとなって世界中に広がっている。
 エリアソンのインスタレーションもこのようなパラダイムシフトの中で“自然―人間”の関係性を示したものであった。しかしそのメッセージの有効性とは裏腹に、このときエリアソンが用意した太陽は実は本物ではなく、また円形でもなかった。それはテート・モダンの天井に貼られた鏡に半円形の人工照明をあてることで演出されたものであった。会場の物理的制約がその背景にあるとしても、一方でパラダイムシフトの先が行き着く大衆化が引き起こしている現在の安直な“エコ”ブームやマネーゲームとしての“排出権”問題などに通じる、自然でさえ“人工”の手のひらに載せようという人間の驕りをその手法に感じ取ることもできるのである。
todaeiji-weblog
*01:http://www.olafureliasson.net
*02:宇宙船地球号操縦マニュアル/バックミンスター・フラー/筑摩書房 ちくま学芸文庫 2000.10
*03:地球生命圏―ガイアの科学/ジェームズ・ラブロック/工作舎 1984.10
*04:成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート/デニス・メドウズ他/ダイヤモンド社 1972.05


宇宙船地球号操縦マニュアル (ちくま学芸文庫)
バックミンスター フラー
筑摩書房

このアイテムの詳細を見る
地球生命圏―ガイアの科学
ジェームズ・ラブロック/星川 淳訳
工作舎

このアイテムの詳細を見る
成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート
ドネラ H.メドウズ
ダイヤモンド社

このアイテムの詳細を見る
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 19 ウィンタ... 21 〈今〉〈... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。