事務所HPから転載
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南米レポート第2弾はペルーについてご報告します。ペルー労働法等の研究のため,首都リマに赴きました。
■ ペルー概要
ペルーと言えば何を連想するでしょうか。フジモリ大統領,マチュピチュ,ナスカの地上絵,日本大使公邸襲撃事件…といったところでしょうか。私もその程度の知識しか持ち合わせていませんでしたが,①アルゼンチンと大きく違って白人が少ないこと,②首都リマが観光資源に恵まれていること,③食事がすごく美味しいこと,④生活の中で感じる国の経済的未熟度など,学ぶことがとても多かったです。
■ 民族
アルゼンチンと異なり,欧米系の白人は15%しかなく,残りは先住民か先住民と欧米系の混血です。また,先住民系は背が低いのが驚きでした。身長150センチ台の男性も多いようです。私は日本でも平均より低いですが,その私でも人の頭を見下ろすような感じになります。先住民系の平均身長は,アジアのどの国よりも明らかに低いです。日本より平均で5センチ近く低いのではと思いました。
スペイン人等のラテン系民族もそれほど背は高くはありませんが,南米諸国の多くが欧米に搾取されたりした歴史も,欧米系との身長差が心理的・軍事的に関係したのではと思いました。
■ 歴史
アルゼンチンと比べると遥かに豊かで複雑な歴史を持っているようです。インカ帝国を築いた先住民文明。アメリカ大陸で「帝国」と呼ばれる歴史を有していたのはペルーくらいです。1821年にスペインから独立するまでに,16世紀のピサロの活躍などいろいろありました。現在のペルーの人口は3,000万人弱です。
■ タクシー
タクシーにはメーターがありません。乗る前に金額がいくらになるか交渉しなければなりません。これはミャンマーやロシア(場合によってはタイも)でも同様ですが,乗車拒否もされることがあるので,かなり不便というかストレスとなります。こう考えると,「メーター付きのタクシーが走っている」というのはその国の発展度合いを計る一つの尺度になるようです。
なお,ペルーではアメリカドルが通用します。アジアでアメリカドルが普通に流通しているのはミャンマーやカンボジアですが,その国の通貨が信用されていないという点でペルーも同程度の扱いを受けているようです。
■ 治安
治安はよくないようです。私の滞在中は危ない目には遭いませんでしたが,大きな家やオフィスはどこも高い塀で囲まれ,その上に有刺鉄線か防犯用の電線が引かれています。法律事務所の入り口の塀にも表札も何もなく住所番号があるだけで,外見からは法律事務所だと全く分かりません。法律事務所であることを示すと泥棒の標的になるからそうしているそうです。
訪れた法律事務所は,外観(塀の高さが約5メートル)もセキュリティも,大使館のような重々しさがありました。このような厳重な防犯状況にある街を歩いていると,肌感覚として治安が悪いことが感じられます。
■ リマ
①荘厳な歴史的建築物と②美しい海岸地帯と③古く汚い車のコントラストが印象的でした。インドのタージマハル周辺でも感じましたが,数百年昔から壮大な建築物を建造する権力や技術があるのに,現代において市井の人々がその生活において偉大な遺産を享受できていないように思えるのは,やはり搾取・苛政が続いてきたせいでしょうか。
地面はブエノスアイレスほど汚くなく,清掃・整備が行われているのだと知れます。地下鉄がないこともあるのでしょう,市内の一部はものすごい渋滞を引き起こしていました。
ただ,アスファルトの舗装技術がないからか,路面の微妙な段差が身体に振動するので,車での移動が快適とは言えません。また,車の密集地域では,インドほどではありませんが,常にクラクションがけたたましく鳴っていました。
走っている車の多くは非常に古く,例えばタイやインドネシアより古い車が多かったです。ペルーの一人当たりGDPはタイと同程度でインドネシアより高いですが,肌感覚ではペルーの方が未発展だと思いました。一人あたりGDPは一つの指標になりますが,一方で一つの指標にすぎないことを実感しました。
アルゼンチンで頻繁に目にした落書きがペルーでは少ないこと,アジア諸国にも落書きはほとんどないことからすると,落書きがヨーロッパ文化?と語られることにも合点がいきます。
■ ペルー人
傲岸な白人と純朴な先住民という図式は南米にもまだあてはまるようで,南米の人でもアルゼンチン人を嫌う人がいたりするそうです。ペルーでは入国審査や裁判所へ入る際のチェックも牧歌的な雰囲気がありましたし,先住民の血を引いた多くのペルー人に対しては,モンゴロイドに対する親しみやすさを感じました。
■ 日系人
ペルーに9万人程度(約300人に1人)いるはずですが,ほとんど見かけませんでした。ペルーでは広く東洋系を「Chino(チーノ)」と呼称し,日本人もチーノに含まれます。
■ ペルーの法制度と運用
アジア諸国にあるような投資優遇制度がありません。強い保護主義的な制度があるというわけではありませんが,日系企業からすると,インセンティブがないため投資はしにくいようです。また,役所への届け出でも人によって対応が違ったり,賄賂を払わないと対応してもらえかったりという途上国特有の問題を抱えています。そのため,ビジネスを行う際にはキーパーソンとのつながりが特に大事になってくるようです。
労働法は,アルゼンチンとは異なり,解雇に正当事由が必要であることなど,労働者保護に傾いています。これは,労働者の中に多い先住民を保護すべきという文化的要請が背景にあるようです。アルゼンチンで,アルゼンチンに投資しようとする白人の側に立ち,使用者を保護すべく解雇に正当事由が不要であることと対照的でした。
労働裁判は,今年11月から口頭審理を行う新しいシステムに移行して裁判の迅速化を図っているようです。労働裁判所の一室(日本の弁論準備室のようなところ)で行われた裁判期日を傍聴しましたが,期日後にその裁判官が我々にペルーの労働裁判につき懇切丁寧に英語で説明してくれたのが印象的でした。
■ 貴重な友人関係
IPBAのメンバーでもあるシンガポール国立大学時代の親友の紹介で元労働大臣に逢えたり,親友の自宅に泊まらせてもらったり,ハイヤーを手配してもらったりと,大変な歓待を受けました。留学やIPBAを通じて人との貴重なつながりができることの有り難みを,改めて実感しました。
■ 自動車
リマを走っている車のうち日本車は2割程度でしたが,新車のうち日本車のシェアは4割だそうです。アルゼンチン同様,高級外車はほとんど走っていません。マーケットが大きくないことと輸入関税の低さから,自動車をはじめとする製造業の進出は難しいという意見もあるようです。
交通量の多いところでは,排気ガスの匂いが漂ってきます。走行車両の排気設備が日本と比べ悪いのでしょう,日本よりかなり空気が汚染されていることが分かります。なお,タクシーはほとんど空調設備がないようで,窓を開けて走っています。
■ グルメの国
ペルーは自他ともに認めるグルメの国です。肉料理の多いアルゼンチンと違い魚料理が豊富で,味付けも脂っぽくなく,日本人の舌に合っています。日本に導入したら流行るだろうという料理がいくつもありました。
調べると,ペルーの漁獲量は中国に次いで世界第2位。また,ポテト(じゃがいも)の原産地はペルーだそうで,ペルーには2,000種類以上のポテトがあるそうです。
■ リゾート地としてのリマ
リマの中心から太平洋岸まで数キロのところに,ラルコ・マールという商業施設があります。断崖の下に美しい太平洋を臨む景観は,世界でも有数と言えるほどで,リゾート地としての魅力を有しています。
東京の都心から太平洋を臨むビーチの開放的な気分を味わうには1時間以上かかりますが,リマではそれが目と鼻の先にあります。ペルーといえばマチュピチュばかりが語られますが,リマだけでも観光資源が豊富な魅力のある街だと知りました。
以上