三田文學 新人賞に応募する予定で、小説の原稿を書いています。
締切 2024年10月31日
枚数 400字詰原稿用紙100枚以内
小説のタイトルは、『ハート・デザイナー』
先週、日本に滞在中のロシア人の親子が、滝川玲メンタルクリニックサロンを訪れた。宿泊先のホテルで、てんかん発作を突然おこしたのです。癲癇の病理研究にとって、一番苦しいことは患者が非常に少ないということです。患者の男性は高齢の、非常に痩せた真面目そうな印象で、患者に付き添う息子は、背の高い若い男性で、色の浅黒い、しっかりした顔つきに、見るからに強靭な肉体を持っていました。彼は患者を肩に寄り掛からせながら診療室に入って来て、静かに椅子に腰かけさせました。彼の表情を見ていただけでは、彼のどこに、そんなふうに患者を労わる優しさがあるのだろうと思えるほど、周囲を圧するような威厳があったのです。
「どうぞよろしくお願いいたします。先生」と、彼は流暢な英語で挨拶しました。
「これは私の父でございます。私にとっては、この父の健康は、なにものにも代えがたい大切なものなのです」
滝川玲院長は、父親思いの息子の心痛に甚だしく心を動かされました。
「診察にお立ち合いになりますか?」
「とんでもない」
彼は恐ろしそうな顔をして叫びました。
「とても私には苦しくて見てはいられないのです。私は父親が、この病気の発作に襲われるのを見るたびに、まるで死んだような気がするのです。私の神経組織は、お話にならないほど弱弱しく敏感なのです。私はお許しをいただいて、診察が終わるまで待合室で待っております。」
こうして、いよいよ、精神科医と患者は二人きりになり、その診察に移り、彼女は患者の症状を熱心にカルテに記して行きました。患者にあまり高い教養はないらしく、時々、患者の訴えは曖昧で分かりにくくなりましたが、精神科医はそれを彼が日本人の遣う英語にまだ不慣れだからだ、というような様子を装ってやりました。けれどもそのうちに突然に、彼は精神科医の問いに答えるのをやめましたので、彼女は驚いて彼を見ていますと、彼はやがて診療椅子から立ち上がって、全く無表情な硬わばった顔をして、精神科医をまじまじと見詰めるのでした。云わずと知れて、彼は例の神秘的な精神錯乱の発作に捕われたのです。
実際のところ、滝川玲院長がその患者を見て、まず一番最初に感じたのは同情とそれから恐れでした。が、その次に感じたのは、たしかに学問的な満足であった。彼女はその患者の脈の状態や性質を詳しく書きとめ、それから彼の身体の筋肉の剛直性をためしてみたり、またその感受性や反応の度合いを調べてみたりしました。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-241002X792
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