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ゆるっと読書

気ままな読書感想文

コロナの禍、文字の禍

2020-05-24 23:59:49 | Weblog


最近、よく目にする言葉「コロナ禍」、これまでなかった新しい単語ですね。

「禍」は、よくないこと、不幸を引き起こす原因、災難を意味していて、

新型コロナウイルスによる災い=コロナ禍 です。

中島敦の短編小説に「文字禍」という作品があることを、最近知り、

文字によってもたらされる災い????

それは、どういうものなのだろう?

なぜ、文字が災いするんだろう?

と思って、さっそく読んでみました。

なかなか、すごい。

この作品、「文字」があることによって、「人」は幸せになれるのか?

という問いを、投げかけてくる。

今、「新型コロナウイルス」は、災いの原因と位置付けられて、

それがあることで、様々な困難が生じているとされている。

だから「コロナ禍」だ。

でも、「文字」は、何かを意味するものであり、

知識をもたらすものであり、

それをもとに文化や科学が発展してきたものだと思う。

多くの人にとって、「文字」は、災いの原因とはされていない。

それが、この作品では、災いをもたらすものとして描かれ、「文字禍」になっている。

そして、

「文字」は、災いをもたらすものになりうるんだと、思わされる。

読み終えた後、私が

思い当たったのは、SNS、Twitterで生じる「炎上」や「バッシング」だ。

それに巻き込まれた人や、叩かれた人にとって、

それらは、文字によってもたらされる「禍」といってもいいだろう。

「文字」に、どう向き合うのか。

「文字」を、どう使うのか。

「新型コロナウイルス」に、どう向き合うのか。

「新型コロナウイルス」を、どう扱うのか。

かけ離れているようで、実は、つながっていることかもしれない。

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

【歩くはやさで】新しい自分に出会うために

2020-05-19 22:07:43 | Weblog


やばい。

最後で、ぐっとこみあげてくるものを感じて、泣きそうになった。

絵本は子どもが読むものなどと、思ってはいけない。

「歩くはやさで」(松本巌・文、堺直子・絵)は、

大人のための絵本だ。

それも、それなりに年数を生きて、人生経験を重ねてきた大人のための1冊だと思う。

コロナ禍で、外出自粛となり、これまでの日常生活が一変した。

これまで気軽に行けた場所に行けなくなり、

気軽にできたことが、できなくなり

様々なものが奪われたような気がしていた。

今、このタイミングで、「歩くはやさで」を読んで、

自分は、とりあえず健康でいるのだから、

たいして奪われたものなどないんじゃないかと思い始めている。

外出自粛になる前の毎日は、時間に追われ、情報に溺れていたかもしれない。

「走るはやさで」、毎日を過ごしていたような気がしてきた。

コロナ禍により、

自分の生活の中で見過ごしていたものに気が付かされたり、

与えられたものもあるんじゃないかと考えている。

「新しい今を生きよう」

この本のメッセージが、今の自分に響いている。

歩くはやさで


【フィードバック入門】「成長してほしい」という思いだけじゃダメなんだ

2020-05-18 22:30:08 | Weblog

 

誰かに「成長してほしい」と思っている人に、役立つ1冊。

組織のなかで、部下や後輩がいる人だけではなく、

パラスポーツで、選手を指導しているコーチ、

チームのマネジメントをしているヘッドコーチにも参考になると思います。

 

その人の気づきを促す「コーチング」と、

課題に対応する具体的な技能などを教える「ティーチング」

「フィードバック」は、その両方に関係します。

 

具体的にいうと、「フィードバック」は、

「成長してほしい」と期待する相手に、

耳の痛いことを伝えることと

うまくいくように立て直しを支援すること

 

本書では、

「フィードバック」のプロセスを整理し、

一つ一つのプロセスで、

成長を支援する人(マネジャー、コーチ、上司など)が

どのような態度で、何をすべきかを示しています。

 

「成長してほしい」という思いがあることは大事だけど、

その思いが、相手に伝わるとは限らない。

 

どうしたら、相手の成長という結果につながるか。

その「どうしたらいいか?」について考えたり、

相手への関わり方を改めて見直すうえで、

参考になる書籍だと思います。

 


【三体】SFは苦手と思っていましたが。外出自粛のお家時間を楽しめる1冊

2020-05-06 13:22:21 | Weblog

「面白い!」と話題になっていた小説「三体」

読もうか、どうしようか迷っていた1冊でした。

宇宙といわれても、あまりピンと来なくて、ロマンを感じないし。

生物は好きだったけど、物理は好きでなかったし。

SFは、あまり積極的に手を出さないジャンルだからです。

しかし、緊急事態宣言で外出自粛となり、お家時間が増えました。

ソーシャルディスタンスとか、三密とか、基本的なことですが

感染対策に気を遣う毎日に無意識のうちにストレスが溜まっている気もします。

いつもなら、「まーいいか」と流せるような他人の一言に 毒を感じとってしまったり、

妙に気になってしまったりもする。

これは、まずい。

生活や趣味に何か少し変化を持たせよう。

必要なのは、頭の中を休ませる娯楽の時間。

エンタメだなーと思いました。

そんなきっかけで手に取ったのが、小説「三体」です。

中国の歴史

科学の理論的の発見の歴史

最新の科学技術

宗教や思想のエッセンス

これらが物語に丁寧に盛り込まれている点がすごい

実際の環境破壊の問題や政治的事件 弾圧や貧困の社会問題もベースに敷かれていて、 改めて考えさせられる面もある

「面白い!」と評判となり、話題になっている理由が分かりました。

世界規模で、新型コロナウイルス感染の問題を抱えている今こそ、

宇宙から地球を見る、環境や生命の生存を考える必要があるのかもしれません。

長編ですが、読み進めていくうちに、ずるずると引きこまれる。 お勧めの1冊です。

三体


【カササギ殺人事件】外出自粛のGW お勧めの一冊

2020-04-26 21:57:45 | Weblog


外出自粛で迎える大型連休。

誰かにお勧めするなら、

次の展開がどうなるのか?わくわく、どきどきするような本のほうが向いてるかもしれません。

アガサ・クリスティーのポワロ、コナンドイルのシャーロックホームズなど、名探偵が出てくる小説が好きな方に、

特にお勧めしたい1冊が「カササギ殺人事件」。

上巻では、殺人事件の謎解きを名探偵とともに楽しんで、

下巻に入ると、上巻のストーリーの外側に、もう一つのストーリーが展開しはじめて、

面白さが倍増。楽しめます。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

【歩く】歩くことを通して、生き方を考える

2020-04-20 22:53:01 | Weblog



古本屋さんで見つけて、装幀の美しさと、最初の数ページに目を通して、即買いを決めた1冊

ヘンリー・ソローの「歩く」

講演のエッセイなので、ソローのお話を聞くような本でした。

人間と、社会と、動物と、自然と、生きること。

「歩く」をテーマに、それらについての考えが語られていきます。

『何よりも私たちは今を生きないわけにはいきません。 過去を思い出しながら過ぎ去りつつある今の生の瞬間を見失う、 そうしたことのない人こそ、本当に幸せな人です』

ソローの語りの一節です。

生きている「今」を大切にする そのことを、ついつい忘れてしまい、過去や未来のことを考えてばかりいるのではないか。 そんな問いが浮かんできました。

ソローは1862年に亡くなっており、晩年のエッセイなので、今からずいぶん昔に語られたことのはずですが、 まったく古くない。

時代は変わっても、大切なことは変わらないのかもしれません。

人と接触しないで、軽く身体を動かそうと、なるべく「歩く」ようにしていて、 お天気が良いと、ストレス解消にもなったり、歩くことの効用を実感していました。

「歩く」という行為を突き詰めて考えていくと、「生き方」みたいなものにつながっていくように思い、 とても興味深かったです。

傍らに置いておいて、時々、開いて、読み直したい1冊です。


歩く (一般書)

【モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語】本がつなぐ物語

2020-03-30 22:28:47 | Weblog



「あぁ、なんて豊かなのだろう」と思った。

『モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語』は、著者が古書店の店主から話を聞いたことを発端に始まる。

イタリアの小さな村モンテレッジオ

その村から、本の行商人がイタリアの各地へ向かい、本を売り歩いたという。

なぜ?そうなったのか。

彼らはどんな人たちだったのか。

著者の興味が高まり、関係者や村を訪ねていく。

読み進めるにつれて、読者である私も、村に行ってみたくなる。


村を取り巻く自然、振舞われる食事、村と本の関わりについて語る人。

本の行商人たちが大切にしてきたこと、守ってきたこと、挑戦してきたことを知れば知るほど、

なんて豊かな文化が根付いているんだろうと思う。

最近のニュースでは、

新型コロナウイルス感染で、イタリアで多くの方が亡くなられている。


一日でも早くこの問題が収まることを祈る。

落ち着いたら、イタリアを旅したい。

モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語


【農福連携が農業と地域をおもしろくする】農福連携って何? 事例に登場する「人」たちが興味深い

2020-03-12 23:44:26 | Weblog



「農福連携が農業と地域をおもしろくする」は、タイトルそのままの本だ。


農業と福祉が連携することで、農業がおもしろくなり、地域がおもしろくなる。

追加するならば、働く人にとって、仕事がおもしろくなるのだと思う。


「農福連携」とは、農業と福祉の連携。

連携の仕方は、いくつかある。

社会福祉法人などが運営する施設を利用している障害者が、施設外で農業に就労する例(施設外就労・就農)

社会福祉法人などが自ら農業をする例

農家などが障害者を雇用する例

企業が特例子会社をつくって農業分野で障害者の仕事をつくる例

などだ。

福祉の分野では、障害者の働く場をつくるという課題があり、

農業の分野では、農家の担い手の高齢化が進み、担い手不足が課題になっている。

農福連携は、両者の課題解決にもつながるといわれている。


本書は、「農福連携って、何?」「どんな取り組みがあるの?」という疑問に答えてくれる一冊だと思う。

単なる解説書ではない。

具体的な取り組み事例が紹介されており、その中に登場する「人」が興味深い。

ほとんど未経験に近い人が、「なぜ?」農福連携に取り組むことになったのか?

支援する人が、どんなことに気づいたのか(気づかされたのか)

働き始めた利用者(障害者)にどんな変化が起こったのか。

季刊誌「コトノネ」の読者にとっては、過去に掲載された施設・法人の例を、再度、読みかえすかたちになるのだが、

私は、改めて読んでみて、やっぱり、いいなぁと思った。

自分も一緒になって作業したら、楽しそうだな。

と羨ましくなった。

農業、福祉、地域振興に取り組んでいる方には、もちろんお勧めだが、

今の自分の働き方について悩んだり、煮詰まっている人にも勧めたい。

農福連携が農業と地域をおもしろくする


【田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」】「外」からではなく「内」から変える

2020-02-20 01:07:33 | Weblog
「まちづくり」「地域活性化」「共生社会の実現」…。
そういうテーマを掲げて取り組まれている物事に、違和感を感じることがある。
それって、本当に「まちづくり」につながるのかな?
一過性の盛り上がりで、本当に「活性化」するのかな?
障害のある選手のパフォーマンスを観ること、パラスポーツを応援することと、
社会を変えることは、どうつながるんだろう?

パン屋さんの本を読んで、違和感の謎が解けた気がします。




著者の渡邉格さんは、天然の菌でつくった酒種をつかって発酵をさせたパンをつくって売る「パン屋タルマーリー」の店主。
高校卒業後、紆余曲折して、25歳で大学に入学。
31歳からパンの修業をはじめて独立した人だ。
本書では、渡邉さんの人生の歩みを紹介しながら、
パンをつくることになった理由、
原材料、水、菌、働き方、暮らし方に関するこだわりなどが紹介されている。
効率的で利潤を追求するパンづくりではなく、
利潤を追求しないパンづくり(腐る経済)を大切にしている理由が解説されている。

渡邉さんは、次のように書いている。
田舎に暮らして5年あまり、「まちづくり」「地域活性化」の名のもとで、「腐る経済」とは正反対のことが行われている現実を何ども目にしてきた。
地域の「外」から引っ張ってきた補助金で、都会から有名人を呼んで、打ち上げ花火のようなまちおこしのイベントをやってみたり、地域の「外」から原材料を調達して、地域の特産物をつくったりする。
これでは地域には何も残らない。潤うのは、イベントを仕掛けた都会の人たちであり、販促やマーケティングが得意な都会の資本だ。
使われた補助金も、都会からやってきた連中のところへ流れていく。結局、「外」から肥料をつぎこんで、促成栽培で地域を無理やり大きくしようとしても、地域が豊かになることはない。むしろ肥料を投入すればするほど、地域はやせ細っていく。


ここで思ったのは、パラリンピックの関連イベントも「同じ」ということ。
「外」からのお金で開催されているし、
まさに「打ち上げ花火」みたいに思えるものもある気がするし、
大きな額のお金が動き、大規模な出来事が起こった結果として、何が残るのだろう、
たぶん、ほとんど残らないだろうなと思うからだ。

「パラリンピックを盛り上げよう」という時、
一体、何を「盛り上げる」のか。
パラリンピック開催で、「共生社会の実現を目指す」というけれど、
「盛り上げる」ことと、「共生社会」が、なんだか遠い。
「外」からでなく、「内」からのアプローチを考えないといけないし、
「内」からの小さなアプローチを実行して続けていくことしかない気がしている。

タルマーリーの渡邉さんは、発酵を通じてできる食(パンやビール)で「ほんもの」を目指すことで、
「外」からではなく、地域の「内」から「まちおこし」「地域活性化」にアプローチをしている。

ああ、ほんもののパン、食べにいきたい。
ほんものを目指す人たちに出会いたい。


田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)

#パン#読書#起業

【古くてあたらしい仕事】自分の仕事を頑張ろうと思えた一冊

2020-02-06 00:05:58 | Weblog



「良い人に、出会った」と思った。

実際に会ったことはないが、本の中で出会った人に、励まされた気持ちになった。


ひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんの著書「古くてあたらしい仕事」は、

島田さんが、これまで取り組んできた仕事について書いたエッセイ。

出版社を立ち上げたきっかけや、最初に出版した本、著者や装丁者、出版社や書店の人のことに触れながら、

「何を大切にして、仕事をしているか」について書いている。

読み終わった後に、書籍のタイトルを見直して、

今も、昔も、仕事において大切なことは変わらないのかもしれない。

古いと思っていることが、実はあたらしいことでもある気がしてきた。


本書では、「本を読む」ことについて、次のように書かれている。

『本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。

自分のよく知る人のことを考え、忘れていた人のことを思い出すというだ。

世の中にはわからないことや不条理なことが多々あるけれど、

そういうときは、ただただ、長い時間をかけて考えるしかない。思い出すしかない。

本はその時間を与えてくれる。ぼくたちに不足している語彙や文脈を補い、

それらを暗い闇を照らすランプとして、日々の慌ただしい暮らしのなかで忘れていたことを、たくさん思い出させてくれる。(本書P112)』


本を通して、自分を見つめなおすことができたり、自分のことを少し客観視できた経験がある。

読書が、囚われていた観念や感情から自分を解放するきっかけになったこともある。

読書を通じて、著者と出会い、言葉や思いを交わしたような気持ちになることもある。

「古くてあたらしい仕事」は、自分自身の仕事や、時間の使い方、人との関わりについて、改めて見直す機会をくれた一冊だった。

古くてあたらしい仕事