これ、賛否両論っぽいですね。僕自身には、現代日本の公園に来てチェーホフのセリフを喋っているか、もしくは演じているように見えていて気にならないんですが、ロシアの芝居だ、と思う方には違和感ですよね。ここ難しくって、有名な話でサモワールを本当に使うのか、みたいな話があります。ここは日本だから分からないことをやる必要はない、と思いますが、だったら名前から何から全部ロシアっぽいものは排除した方が良かったんだろうか、という思いはあります。そういう改訂版は作ってみても良いかも。
さて、和歌を歌う理由は、元がすんごい長い独り言だからです。チェーホフは簡潔を旨とする文章家です。きっと短歌や俳句は気に入ったでしょうね。元々の長いセリフを聞いても日本にいる人々はずっとは聞いてられないな、と思いました。とはいえそもそも老人の愚痴なので、詳細の意味をわかる必要もない。だったら有名な和歌を朗詠しまくるなら、文学者というよりはグループサウンズを嬉々として歌ったり、やたら名言を引用したがるスノッブな親父がいたら素敵かな、と思いました。長台詞を言う文化を翻訳すると、何か自分の好きな事になるとのべつまくなしに喋り出す感じになる、ということでしょうか。
Q.なぜ携帯電話が出てきたのですか?
これね、多分、自己分析すると、好きなんですよね。携帯がちょうど大学から出始めて使い始めて、その感動が残っているんでしょうね。違和感を感じさせるなら排除しても良かったんですが、和歌で書いたように、100年前じゃなくて現代って思ってたんでね。でもアーストロフの忙しさとか燃え尽き加減とか性格は別のシーンで表現出来たと思うんで、これはなくても良かったかもです。
Q.内容が難しかったんですが?
これが結構凹む感想なんですが、ある人には「必ずしもそれは悪い感想じゃないんじゃない?」と言われて少し戻りました。まあ味に苦味があるように、それだけ深さを感じていただけたのなら良いのですが、難しい事をわかりやすく、が信条なので。
このお話、筋がないと言われ、いわゆる事件とかクライマックスがほとんど無いように言われています。でも僕には、「男はつらいよ」に見えたんですよね。寅さんという身内なんだけど外に出ていた人が帰ってくる。本来当主だから偉そうでもある。恋愛沙汰とかもあって、喧嘩したりしておいちゃんに「出て行け」とか言われて家を出て行くけど、ほんとは心のうちでお互い後悔して、仲直りして何事もなかったようにまた旅に出て行く。
これ、セレブリャコフが来ていろいろ引っ掻き回して、ワーニャがついに爆発して、でも数時間後には仲直りして以前のように仕送りを続けるって言うのとよく似ているんですよね。作劇上、セレブリャコフを悪役にしてますけど、彼はコミュニケーション下手なだけで、ああいう会社の上下関係でしか生きて来なかったから家庭や町内で上手く人と付き合えない人々って現代日本にも大勢いると思うんですけどね。だから彼らも本当に悪い人なわけじゃない。ちょっと他の人のことを考えずに自己中に走った(ように周囲に見えた)だけですよね。
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