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Tengu Tribune

旅情地図

最後に勝つものは道義であり、誠であり、まごころである

2007-01-21 00:49:03 | general
君たちに会へずに死ぬることが一番悲しい。
成長した姿が、写真ではなく、実際に一目見たかった。
お母さんよりも、モジミよりも、私の夢には君たちの姿が多く現れた。
それも幼かった日の姿で・・・あゝ何といふ可愛い子供の時代!
君たちを幸福にするために、一日も早く帰国したいと思ってゐたが、倒頭永久に別れねばならなくなったことは、何といっても残念だ。第一、君たちに対してまことに済まないと思ふ。
 さて、君たちは、これから人生の荒波と戦って生きてゆくのだが、君たちはどんな辛い日があらうとも光輝ある日本民族の一人として生まれたことに感謝することを忘れてはならぬ。日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化――人道主義を持って世界文化再建に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ。
 また君たちはどんなに辛い日があらうとも、人類の文化創造に参加し、人類の幸福を増進するといふ進歩的な思想を忘れてはならぬ。偏頗で矯激な思想に迷ってはならぬ。どこまでも真面目な、人道に基づく自由、博愛、幸福、正義の道を進んで呉れ。
 最後に勝つものは道義であり、誠であり、まごころである。友達と交際する場合にも、社会的に活動する場合にも、生活のあらゆる部面において、この言葉を忘れてはならぬぞ。
 人の世話にはつとめてならず、人に対する世話は進んでせよ。但し、無意味な虚栄はよせ。人間は結局自分ひとりの他に頼るべきものが無い――という覚悟で、強い能力のある人間になれ。自分を鍛えて行け! 精神も肉体も鍛へて、健康にすることだ。強くなれ。自覚ある立派な人間になれ。
 四人の子供達よ。
 お互いに団結し、協力せよ!
 特に顕一は、一番才能に恵まれているから、長男ではあるし、三人の弟妹をよく指導してくれよ。
 自分の才能にうぬぼれてはいけない。学と真理の道においては、徹頭徹尾敬虔でなくてはならぬ。立身出世など、どうでもいい。自分で自分を偉くすれば、君らが博士や大臣を求めなくても、博士や大臣の方が君らの方へやってくることは必定だ。要は自己完成! しかし浮世の生活のためには、致方なしで或る程度打算や功利もやむを得ない。度を越してはいかぬぞ。最後に勝つものは道義だぞ。
 君らが立派に成長してゆくであらうことを思ひつつ、私は満足して死んでゆく。どうか健康に幸福に生きてくれ。長生きしておくれ。
  最後の自作の戒名
   久遠院智光日慈信士
    一九五四年七月二日           
               山本幡男

新年早々、心あらたに、読み返してみる。
山本幡男さん、ありがとう。
こんなこと言ってくれるのがいわゆる「父親」というものなんでしょうね。
今の日本は「父親」不在といわれるが、本当かもね。
学校の先生や、政治家だって言えないもんね。
私としては、「人類の文化創造に参加し、人類の幸福を増進するといふ進歩的な思想を忘れてはならぬ。」
ここを肝に銘じるのである。固い?
ここに載せちゃってもいいのでしょうか??
許されるよね。これは、みんなの財産だ。
どこにいても読める様に載せちゃいましょう。

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 文春文庫

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