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[sci][univ] 生物物理学会年会 2015 in 金沢

2015-09-29 23:20:16 | 科学技術・科コミ
 自称失業中の生物物理学者という、誰からも認められないことをひっそり自分の中で小さく言い続けて幾年月。
 それでも、断続的間欠的にアカデミアの身分は持ったことがある(小さいものは、今年度限りながら今もある)。
 研究成果の業績は久しくないけれど、在野の科学コミュニケータとしてその場には居続けている。年に数日だけ、その自称本業に気持ちだけ復帰できるその期間が、今年もやってきた。

 今年の日本生物物理学会年会が、さる 9/23~25 の3日間、石川県金沢市の金沢大学角間キャンパスを会場に開催され、それに行って来た。
 今年もネットワーキングチャット Twitter でその模様をメモしているが、今年も大幅に遅れており、今年は特に遅れ加減が酷い。いつ終わるか分からぬが、超絶不本意ながら先に期間中や当日の模様だけ当ブログの記事に載せておこう。

 現地に旅立つ往路の道中は、久しぶりの北陸新幹線。97 年 10 月の長野暫定開業当時、前日の信越本線横軽の最終日に、これまた今は亡きパノラマエクスプレスアルプスでの特別臨時列車で横川から軽井沢を経て、長野へと抜けてから、その翌日の開業初日に長野から上野に向けて乗ったのも、今は昔。その長野から金沢まで暫定開業区間が伸びたのが、今年の 3/14。今や自宅最寄り駅の1つになった上野から、今年は郡山まで週1回通う機会がしばらく続いたが、今回は同じホームから特急かがやきで、初めて新幹線経由で金沢へ。
 金沢駅着 22 時過ぎ。北陸ワイド周遊券ありし頃には何度か訪れ、ダイビング趣味の関係でも一度だけ訪れたことのある金沢駅だが、僕の知っている当時の金沢駅とは似ても似つかない全く別の駅舎と駅ビルにすっかり変容。東口には大きなガラスドームと木製の鼓門が出現し、西口の垢抜けなかったホテル街はすっかり影を潜め、後年建った新しい高層ホテル複数と近代的な中層建築のビル群が居並ぶ。そして、東口にも西口にも立派なバスターミナルが出現し、ラッシュアワーには続々とバスが発着している。

 生物物理学会年会が、金沢で開催されるのは(学会公式サイトに記録のある 60 年代以降)今回が初めて。個人的にも、学会で金沢を訪ねるのは、僕にとっての学会発表デビューだった 96 年3月の日本薬学会年会の時以来 19 年ぶり2度目。さすがにそれだけ経てば様変わりもするというもの。
 北陸地方で生物物理学、生命科学の研究拠点というと、やはり最大は金沢大の理学部と医学部。次いで、薬学部。売り出し中なのは、原子間力顕微鏡(AFM)による高速イメージング。その手法を前面に押し出した研究拠点(バイオ AFM 先端研究センター)もある。
 他に、北陸先端科技大や富山大、福井大など。福井大で有名なのは、イオンチャンネルなどの膜蛋白質研究の第一人者の1人、老木成稔さん。北陸先端科技大には、生体情報処理や計算論的脳科学、感覚情報(聴覚、視覚など)の拠点があり、情報論や計算論が強い。
 現在の時流からやや外れはするが、金沢工業大も外せない。金沢工大は低学年向けの補習が有名だが、その昔は「場の研究所」を併設し、その所長が僕の出身研究室における恩師の先代にあたる清水博さん。彼の著書「生命を捉えなおす」は、生命科学の科学哲学的思想において日本を代表するものの1つ「バイオホロニクス」を体現しており、生物物理学に僕が学問の志を持つ重要なきっかけの1つになった(代表するあとの2つは、大沢文夫さんの「ルースカップリング」と津田一郎さんの「カオス的遍歴」)。その清水博さんの弟子の1人、川原茂敬さんはいま富山大工学部にて脳科学の研究に従事し、そして今回の年会の実行委員の一人。
 元々理学系の物理、工学系、数理情報系の方々で、その持ち前の手法を生命科学に適用している方々が比較的多いが、物理的手法による測定や分析、実際に起こっている現象の数理的なモデル化など、わりと堅実な研究を行っている方が比較的多い印象を受ける。同じ数理系の研究でも、名古屋や京都の一部のような大胆な概念提示型のそれとは一線を画しているようだ。

 期間初日は雨降り。悪天候で迎える生物物理学会年会は、4年前の姫路・兵庫県立大の時以来ちょっと久々。
 東口のバスターミナルからは、学会実行委が手配してくれたシャトルバスが発着。しかし、運行頻度が低く、往路の終車も早く、バスの便があるうちも長大な行列を捌ききれず。結局、いつ来るのか分からぬ路線バスを待つか、タクシーにするかの二者択一に...。
 会場の金沢大学角間キャンパスは、駅から車で 20~30 分程度かかるところにあり、山麓の丘陵地帯を切り開いたようなところに敷地が広がる。その敷地はさすがに広大で、専攻分野ごとに敷地がおよそ分かれている。学会会場は南地区の自然科学本館。建築に際して、学会等で使うことを念頭に置いてデザインしたのか、あたかも中規模コンベンション会場のような雰囲気の建物だった。

 さて、期間中の内容だが、メインの研究発表における傾向は、例年とそう大差はない。ここ数年トレンドになっている生細胞イメージングとその応用は幅を利かせている。先述の通り、各種の顕微鏡技術の開発やその適用、蛋白質の構造や生理機能の解析を地道にやる拠点が北陸地方に多いこともあってか、その色がやや色濃く出ているように見える。モーター蛋白質の構造と機能みたいな話は、以前から担い手多数で関連の仕事は多い。
 細胞レベル以上の階層における現象やシステムのモデル化や解析などは、過年その担い手を呼び込む努力をかなりしたようだが(→そのような話を、筆者が学会誌編集委員をしていた頃、当時の編集委員だったある人から直接聞いた)、その努力は余り実っていない印象を受ける。とは言え、地道ながら生理学寄りの研究(神経科学、発生学、免疫学など)や生命情報科学の研究、計算生物学、非平衡系や生体膜の研究にも居場所はしっかりある。ただ、非平衡系や少数性生物学(→少数の分子による生命現象の素過程を扱う生物学)の研究が、生細胞イメージングの実験結果と結びついて、新たな流れを生み出す前夜...といった雰囲気は、それなりに感じられた。
 ちょっと面白かったのは合成生物学の方面。問題意識の持ち方によっては、生命の起源に迫るような研究も展開できる。リポソームの脂質組成依存的な形態多様性がこの十数年来の典型的なネタの1つであるが、リポソームに色々仕込んで細胞を部分的に模した構造体を作ったり、別の細胞の内容物一式をリポソームに入れてみたりなど、それらが安定して出来るようになってきたようだ。

 個々の演題に関しては、このブログ記事では一々触れない。現在大幅に遅れているが、Togetter のまとめ記事で触れることにする。なお、近年の例年通り、ポスターも口頭発表も英語で資料を作成し、口頭発表は英語で発表及び質疑をするのが原則とされている。ただ、日本語での質疑は許容されており、海外からの参加者(発表者を含む)も絶対数は少ないながらも漸増傾向だが、参加者の圧倒的多数は相変わらず日本人である。

 さて、この学会の名物は男女共同参画・若手支援企画と原則全員参加の「ワークショップ(と題した単なる学会員向け講演会)」。ただまぁ、今回に関しては、何れもちょっとお粗末だったと思う。
 今年の男女共同参画企画のテーマは、今更ながらのポスドク問題。学会本部関係者達の次世代育成に関する危機感だけはひしひしと伝わってくる。演題は「『ポスドク問題』って言わないで!~任期付き雇用問題の解決を目指して~」。開催趣旨としては以下の通り。ポスドクに限らず若手の任期付き雇用が多く存在する一方で、常勤の研究職数が増えていないのが問題。この影響で研究者を志す若者が減少する可能性があるから、この問題を考え、研究の活性化やキャリアパス多様化を考えたいというもの。ただ、問題の根幹と構造を直視することなく、学会の活力が下がりそうだから、若手を多く引き入れようと小手先のことをやっても駄目。そのことをキチンと分かっている人は、残念ながらまだ少ないと、僕には感じられた。
 「ワークショップ」は、光合成の反応中心(光合成系 II)における水分解と酸素の発生の話各1題と、特殊なレーザーを用いた高分解能 X 線結晶構造解析の手法と大型装置 SACLA の話の計3題。大枠では光合成の反応中心における酸素の発生過程を高分子物理と量子論の観点から明らかにする一群の研究の流れを紹介するもの。でも、内容的には物理の問題として興味深くも、聴衆が学会員たちであることを除けば、型式は通常の講演会だった。

 2日目夜は、金沢市内のホテル(香林坊の金沢東急ホテル)で懇親会。いつものように食物の華麗なる争奪戦が繰り広げられた。学部生や院生、ポスドクも普通に参加するような懇親会は、知りうる限りそう多くない。それでも、若手以上にシニアの方々がガツガツしていて、しかしその争奪戦は割とフェアだったりする。懇親会のさなかには若手奨励賞の表彰式もあり、受賞者のインタビューや胴上げなども。
 初日夜と、2日目夜の懇親会後には、今年は少数の有志で飲み会へ。これが毎年の小さな楽しみ。初日夜は姫路工大(現兵庫県立大)→RIBM(生体分子観測研究所)の小谷君と彼の同僚の後輩さんと共に、香林坊に在る魚介の美味い飲み屋へ。2日目夜の2次会は、金沢東急ホテルからほど近いワインの店で、横浜市大→産総研の亀田さんを中心とする数人での宴を。どんな話で盛り上がったかは、当事者だけの秘密...。

 いつか自分の持ちネタをひっさげて参加したいと思いつつ、その願いはなかなか叶わないが、時代はオープンサイエンス。まとまった時間のリハビリは必要だが、何年かがかりの中期計画で是非実現したい。
 それと共に、科学コミュニケーションの文脈でも、実際に研究者と交流を維持し、生命科学の最先端に(そのごく一端でも)定期的に触れる機会を維持することは重要。
 来年のことを言うと鬼が笑うというが、施設確保などの関係で、来年の開催地は既に決まっている。その会場は、実は筑波。なんと現在の自宅から通える範囲(交通費はかさむがw)。今から楽しみ。

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