最近は耳で測定するような体温計も出来てきたが、普通、体温は脇の下で測定することぐらい子供でも知っている。でも大人になると、もっといろんな所で測れることも知るようになるのである。
大学勤務の頃、朝、病棟の患者さんを回診していると、ある患者さんが「歯科に受診したい」と訴えられた。泌尿器科で入院中に歯の状態が悪くなる事だってあるだろうから、「いいですよ」とお返事し、紹介状を書くために症状を詳しくお聞きすることにした。
「虫歯ですか?」とか「歯茎が腫れてきたのですか?」とか、自分が知ってるような口の中の症状についてお尋ねするのであるが、どうもはっきりとした返事が返ってこないのである。朝の忙しい時間帯だったのであまりその患者さんにだけ時間を割くこともできず、「後でもう一度伺いますから」とお伝えし、とりあえず他の仕事をこなすことにした。
詰め所に帰って夜勤の看護師さんに「○○さん、歯科受診希望らしい」と伝えたところ、その看護師さんの様子が少々おかしいのである。
「どうしたの、何かあったの?」と尋ねると、その看護師さんの口から驚くべき事実が語られることになったのである。
歯科受診を希望された方は少々神経質な方で、毎日、何度となく自分の体温を測り、その度に看護師さんに微熱があるなどの訴えをしていたらしい。忙しい看護師さんは体温のちょっとした変化にいちいち長い時間をかけて説明することもできず、また、実際に医者に説明を求めるほどの症状でもなかったため、あえて報告もせずに適当にあしらっていたようであるが、それがその方にとっては非常に不安だったようである。
そこに現れたのが看護学生。長い時間をかけて話を聞いてくれる学生達に自分の体温のことを根掘り葉掘り問いただしたのである。
「何故、朝の方が体温が低いのか」「36.9度は病的な体温じゃないのか」
患者さんからの鬼気迫る訴えに、学生達は必死になって教科書で調べては応えていたのであるが、ある時、その患者さんは「身体のどの部分の体温が最も正確なのだ」という問いを学生達に発したのである。
早朝、宿題の答えを考えてきた一番目の学生。「やっぱり直腸温じゃないでしょうか」
その方は枕元に置いてあるマイ体温計を、おそるおそる肛門から挿入して温度を測ったのである。
そしてまことに絶妙のタイミングでその方の所に二番目の学生。
「体温は舌の下でも測定できます」
昨夜、学生達はいろいろと調べて来たのであろう。その必死さに報いようとしたのか、看護学生が差し出した直腸に入れたばっかりの体温計をためらうことなく口の中に・・そこであっと我に返ったのである。
結果的にこの騒ぎの元をつくって恐縮する看護学生に、一応の注意をする看護師の顔は思い切り笑っていた。
大学勤務の頃、朝、病棟の患者さんを回診していると、ある患者さんが「歯科に受診したい」と訴えられた。泌尿器科で入院中に歯の状態が悪くなる事だってあるだろうから、「いいですよ」とお返事し、紹介状を書くために症状を詳しくお聞きすることにした。
「虫歯ですか?」とか「歯茎が腫れてきたのですか?」とか、自分が知ってるような口の中の症状についてお尋ねするのであるが、どうもはっきりとした返事が返ってこないのである。朝の忙しい時間帯だったのであまりその患者さんにだけ時間を割くこともできず、「後でもう一度伺いますから」とお伝えし、とりあえず他の仕事をこなすことにした。
詰め所に帰って夜勤の看護師さんに「○○さん、歯科受診希望らしい」と伝えたところ、その看護師さんの様子が少々おかしいのである。
「どうしたの、何かあったの?」と尋ねると、その看護師さんの口から驚くべき事実が語られることになったのである。
歯科受診を希望された方は少々神経質な方で、毎日、何度となく自分の体温を測り、その度に看護師さんに微熱があるなどの訴えをしていたらしい。忙しい看護師さんは体温のちょっとした変化にいちいち長い時間をかけて説明することもできず、また、実際に医者に説明を求めるほどの症状でもなかったため、あえて報告もせずに適当にあしらっていたようであるが、それがその方にとっては非常に不安だったようである。
そこに現れたのが看護学生。長い時間をかけて話を聞いてくれる学生達に自分の体温のことを根掘り葉掘り問いただしたのである。
「何故、朝の方が体温が低いのか」「36.9度は病的な体温じゃないのか」
患者さんからの鬼気迫る訴えに、学生達は必死になって教科書で調べては応えていたのであるが、ある時、その患者さんは「身体のどの部分の体温が最も正確なのだ」という問いを学生達に発したのである。
早朝、宿題の答えを考えてきた一番目の学生。「やっぱり直腸温じゃないでしょうか」
その方は枕元に置いてあるマイ体温計を、おそるおそる肛門から挿入して温度を測ったのである。
そしてまことに絶妙のタイミングでその方の所に二番目の学生。
「体温は舌の下でも測定できます」
昨夜、学生達はいろいろと調べて来たのであろう。その必死さに報いようとしたのか、看護学生が差し出した直腸に入れたばっかりの体温計をためらうことなく口の中に・・そこであっと我に返ったのである。
結果的にこの騒ぎの元をつくって恐縮する看護学生に、一応の注意をする看護師の顔は思い切り笑っていた。