山形屋歯科 坂上医院

山形屋歯科坂上医院のブログ

おばあちゃんの笑顔

2010年12月02日 10時41分34秒 | 歯科コラム
入れ歯で苦労されている皆さんは、ほとんどが下の総入れ歯が合わない、痛
いという状態で苦労されている事と思います。

 大阪に平賀先生という入れ歯作りのベテランの先生がいらっしゃいます。
 私は、この平賀先生の発表された下の総入れ歯を安定・吸着させるテクニック
を学びました。

 1ヵ月程前、入れ歯が合わないという悩みで当院を82歳のおばあちゃんが受診さ
れました。離島から娘さんに付き添われての来院です。

 なんだか、顔色も良くなく、元気が無いなと感じました。

 良く拝見させていただくと、10年以上前に作ったという入れ歯を使っておら
れ、入れ歯がお口の中で踊っているような状態でした。

 うまくお話しが出来ず、お医者さんからは『言語障害が起こっている。』と言
われていたそうです。

 娘さんの話では、ここ10年程まともな食事が食べられない状態だったそうで
す。

 下のはぐきは極端にやせ細り、また、残されたはぐきの表面もデコボコしてい
て、通常の総入れ歯ではほとんど対応が出来ない状態でした。

 そこで、一計を案じ、平賀先生の『下顎吸着義歯』のテクニックを応用し、内
側にに生体用シリコーンを張り付けた総入れ歯を設計し、技工所さんにも全面的
にご協力を頂いて、この『下顎吸着生体用シリコーン裏装総入れ歯』なるものを
作成致しました。

 この技術は、過去当院で、何回も利用して総入れ歯を作成し、全ての患者さん
に満足して頂いているテクニックです。

 総入れ歯の装着当日、丁寧に噛みあわせの調整を行ったあと、いきなり『草加
せんべい』を食べて頂きました。

 当のおばあちゃんは、びっくりしていた様子でしたが、恐る恐る噛みはじめま
した。

 『ちゃんと噛める。どっこも痛くない。』

 10年以上、まともな食事をしたことのなかったおばあちゃんが、草加せんべ
いを『バリバリ』という心地よい音と共に美味しそうに味わってくれました。

 昨日、入れ歯に少し当たりが出て、痛い部分があるとの事で、娘さんと一緒に
当院に入れ歯の調整にいらっしゃいました。

 まず、おばあちゃんを見てびっくりしたのは、入れ歯を作っている頃と比べて
若々しくなって、顔色もとても良いのです。

 入れ歯の調整を終えた後、娘さんを交えておばあちゃんの様子を伺いました。

 おばあちゃん曰く、
  『なんでも噛める。』
 娘さんの話では、他の家族とほとんど同じ食事が出来るようになったとの事で
した。

 私が一番嬉しかったのは、お医者さんから言語障害があると言われていたおば
あちゃんが良く話をしてくれた事でした。

 生き生きとした表情で、日常生活の事、デイケアサービスに行った時の食事を
全部残さず食べられるようになった事、今まで話がしづらかったが最近ではちゃ
んと話が出来るようになった事をお話しして下さいました。

 おばあちゃんは決して言語障害があった訳ではなかったのです。

 ただ、入れ歯が合わずにうまくお話しできなかっただけの事だったのです。

 このおばあちゃん、実はお話し好きで、明るい性格の女性だったんですね。

 自分が苦労して設計を行い、出来上がった入れ歯に満足して頂けた事より、お
ばあちゃんの元気一杯の笑顔とかん高い笑い声、たわいもないおしゃべりから、
私は沢山の元気を分けてもらい、感無量のひと時でした。

 こんな時、『自分は歯医者になって良かった。』としみじみと思います。

 さて、この次は、どんな入れ歯の悩みをもった患者さんがいらっしゃるのでし
ょうか。

 入れ歯作りが終わったとき、また、今回のように患者さんから元気を分けても
らえるような仕事をしたいと、今から張り切っています。