白い家のある風景

モダニズム・アールデコ 趣味の(仕事の)建築デザイン周辺を逍遥します

不快なデザイン

2010-04-28 | デザイン

 新幹線「のぞみ」に乗車しました。近年、西日本へ行くことが少なく、最新の車両(N700系と言うらしい)には初めて乗車したのですが、その意外なデザインの悪さに不快な旅となりました。
 通路側の席だったんですが、まず窓が飛行機のように小さくて圧迫感がある。まあ、これはコストとの兼ね合いでしょう。大きくすれば強度も増さなければならず、ガラスも高いし、重量が増えてランニングコストも上がるというわけで、考え方としては理解できます。
 ひどいのは、シートのデザインです。短時間で首や腰が痛くなり、とても続けて腰掛けていられません。一体プロがデザインしてるのだろうか。以前乗車したヨーロッパの列車のシートはどれも快適でした。想定しているヨーロッパ人の体型は私とずいぶん違うはずなのに。今回の同行者と私の体型もだいぶ違いますが、同行者もこのシートは大変座りにくいと言っていました。4時間の苦行の後、在来線のボックス席に乗り換えたときはほっとしました。
 初代の新幹線車両の椅子は千葉大学で人間工学に基づきデザインしたというのが売りでしたが、これも掛け心地はお世辞にもよいと言えませんでしたね。デザインしている人たちがよほど変な体型なのかな。とにかくバスも含めて車両のシートのワーストワン賞を差し上げたいと思いました。

 ところが、ひどいデザインはそれだけじゃなかった。帰りの「のぞみ」で、またあの椅子か、と憂鬱になっていたら、さらにがっかりしたことに指定席が車両の最前列通路側でした。目の前にデッキへ出るドアがあって一番落ち着かない席です。それにしても、この不安定感は普通じゃないと思ってよく見たら、デッキへの自動ドアの幅が、通路幅より広いではありませんか。逆に言えば、シートの幅が、ドアの枠より10センチほど内側にはみ出ているのです。つまり、もしドアの幅一杯に荷物を持って入ってきて直進すれば、かならず座っている人にぶつかります。自動ドアなので、開き始めてすぐ入ろうとするせっかちな人も、私の脚にぶつかりそうになり、あわてて斜行します。一体なんだこの設計は。デザイナーの顔が見たい、と怒りを感じました。
 おそらく、ドアの幅を少しでも広くしておけば、ドアの部分で出る人と入る人が鉢合わせで立ち往生なんてことが少なくなる、という発想なんでしょう。最前列に座っている人の不快感など気も留めず、考えたとしてもそこの席の人は運が悪かったと思ってあきらめればよいという考え方なんでしょうね。しかし、図面上は判らなくてもモックアップ(実物大模型)の段階で、実際に数時間使ってみるシミュレーションをすれば、シートの座りにくさを含め検証できたはず。ドアの幅を広げつつ、最前列の客に不快感を与えないデザインの解決方法は複数存在するはずです。要は使用者の立場でデザインしてるかどうかですね。

 かく言う私は、決して機能優先主義ではないし、時と場合によっては使用者に、ここはちょっと我慢しましょう、という設計をしないことはないです。しかし、それはもちろんそうすることによって、別のより良いものが得られる場合です。また、プライベートな住宅のようなものと公共のものは、その基準も違えて考えます。この新幹線の椅子の場合、すわり心地を犠牲にして何を得てるのでしょう。単にデザイナーが無能なのですね。他山の石として気をつけようとも思った次第です。
 あー、それにしてもまだ首が痛い。

 


長期優良住宅

2010-04-23 | 建築・住宅

 「長期優良住宅」のセミナーに行ってきました。長期優良住宅というのは、今までのように30年程度で家を建替えてしまうのではなく、質の高い住宅を長く使いましょうという趣旨のもとに、一定の基準を満たした住宅を建てる際、減税や、場合により補助金などの応援を国がおこなうというものです。しかし、昨年から始まった制度なので、施工会社も設計や申請のしかたがよくわからない。だから設計事務所の人は協力してよ、ということでセミナー参加を要請されたのです。
 確かに良いものを長く使うと言うのは、地球環境を考えても良いことですね。しかし、特別な仕様の家でなくても、本来は丁寧に使っていけば何十年も使えるんです。たまに敗戦直後に出来たバラックじゃないかと思えるような家が、そのまま使われているのを見かけますし、建替えの設計を頼まれたあるお宅の場合は戦前に建てられた家でしたが、調べると特別丈夫な材を使ってませんでした。
 要は住み手が使い続ける意思をもって手入れをするかどうかです。ですから、この「長期優良住宅」も、例えば相続の際などに取り壊すことになっては、余分に建材を使っている分、かえってもったいないことになります。

 先日、オリバー=ヒルという英国の建築家について書きましたが、ヒルを知ったのは学生の頃図書館で1930年代の「ARCHITECTURAL REVIEW」という英国の建築雑誌を漁っていたときです。曲面が多いデザインの個性的なモダン建築をつくる人がいたのだな、と惹かれるものを感じ、いろいろ調べましたが、そのころはインターネットもなく情報は少なかったです。しかし、先にこのブログで書いた「現代住宅1933-40」という本にはヒルの作品が2軒載っているので、日本で1930年代に紹介されていたことは確かです。
 さて最近になって、インターネットのおかげでこのヒルの情報もいくらか手に入れられるようになりました。それで驚くのは、1930年代の雑誌に載っていて「見てみたかったなあ」と思った建物がことごとく現存しているということです。ヒルの作品に限らず、日本では知られず、私が古本あさりで「発見」し、ひそかに名作だと思っていたルベトキンとか、リートフェルトなどモダニズムの建築家のマイナーな作品が、70年経ってほとんど現存してるのです。これは日本では全くありえないことです。極東の僻地と文明の中心地との差でしょうか。
 同潤会アパートなど世界遺産クラスの建築をいとも簡単に壊すような所で、長期優良住宅をつくっても果たして何年使われるのかなあ、使われるといいけど、と複雑な気持ちになっています。

 


アール・デコと豪華客船

2010-04-20 | アールデコ

 さて先日横浜の日本郵船歴史博物館へ行った話を書きかけました。
 そこでは「船をとりまくアール・デコ」という展示がおこなわれています。展示を見た結果を言うと、なかなか充実した内容と感じました。もちろん、一般の美術館の企画展などにくらべると、量的には大して多くないのですが、船の室内装飾、ポスターやパンフレットなどの印刷物、乗船客が着ていたファッションなどが、コンパクトながらわかりやすく展示されていた上、船のインテリアの写真でアールヌーボーとの違いを示すなど、アール・デコとは何かを知る上でもよい展示でした。
 このほかに、日本郵船の歩みと海運の歴史をしめす常設展示もかなり充実していて、氷川丸の見学入場券とセットで500円(ネット割引で300円)はかなりお得です。この氷川丸がまた東京都庭園美術館と並ぶアール・デコの宝庫で必見です。氷川丸は1930年にシアトル航路に就航した貨客船で、戦争中病院船だったため戦後まで生き残り、現在山下公園の前に保存されています。ちなみに太平洋戦争中、海軍の死亡率20%陸軍30%に対し、船員は40%と高率で、二人に一人が亡くなっています。アール・デコの客船は氷川丸だけでなく、日本には多く客船があったのですが、ほとんど全てが米軍の攻撃によって沈められました。
 
 アール・デコで有名な客船といえば1932年に就航した大西洋航路のノルマンディ号ですが、この船はアール・デコを代表するデザイナー、カサンドルの描いたポスターでも有名です。いまだにこの船を越える豪華客船はないとも言われている伝説?の客船ですが、やはり戦時中アメリカに接収され、兵員輸送船に改装工事中に出火し、短い生涯を終えました。YOU TUBEにノルマンディが走っているカラー映像があり、なかなかの迫力です。(SS NORMANDIEで検索)
 一方彼女(ノルマンディー)の僚船イル・ド・フランスは少し前の1927年に就航してるのですが、この船のインテリアもアール・デコの華といわれるすばらしいものだったそうです。こちらは戦争を生き延び、1959年に日本でスクラップになりました。面白いのは、そのとき取り外された装飾品の一部が、あの摩耶観光ホテルの改装に使われた、というはなしがあることです。摩耶観光ホテルといえば、美しい廃墟として廃墟マニアには有名な建物ですが、元々これもすばらしいアール・デコ建築でした。摩耶観光ホテルについては、この辺の経緯を含めもっと調査をすれば面白いと思うのですが、建物自体はどんどん風化してるようでもったいないことです。
 
 どうも建築のことを書くつもりが船のはなしになってしまいましたが、船と建築デザインはずいぶん深い関係があります。このことはいづれまた。
 「船をとりまくアール・デコ」の展示は6月6日までです。お見逃しなく。
 


真の省エネ住宅

2010-04-17 | 建築・住宅

 いままでアール・デコ建築のことを書いてきましたが、ちょっと違う話題を。新聞で気になる記事を見つけたのです。(アール・デコのはなしは続きますけど)
 
 それは政府が、新築する建物に省エネルギーを義務付ける法律を作ることを検討する、というニュースです。今でも一定の省エネ基準を満たした住宅に対し、補助金などの優遇がありますが、さらに省エネ基準を満たすことを義務化するというもの。
 建築コストが上がるという問題(これも大きな問題ですが)を除いては、一見環境のためにもよさそうな法律です。しかし、これは建材メーカーや大手住宅メーカーには有利ですが、我々のようにオリジナルな建物をオーダーメイド、いわば手作りで作っている中小の設計業者、施工業者には大きな制約になる可能性があります。具体的には、ペアガラス入りの断熱アルミサッシ、大量の断熱材、省エネタイプの給湯器などを使用することが必要になり、昔ながらの建具職が作った木製サッシやスチールサッシなどは使うことが出来なくなるかもしれません。大きなガラス面や、トラディッショナルな真壁(柱をあらわした壁)は使いにくくなるでしょう。
 しかし、製造や輸送、廃棄の際のエネルギー消費も含めてを考えた場合、電気を大量に使ってつくるアルミサッシや化学工業製品の断熱材の使用は、真に省エネになっているか慎重に考える必要があります。

 私の知り合いの大工のKさんは、アルミサッシやウレタン、グラスウールといった断熱材、高分子防水シートなどを原則として使いません。これらの工業製品、特に石油化学製品がトータルに見て地球環境によくないと考え、それを使わないというポリシーを持っているのです。以前Kさんに頼まれ、南信州で一軒の家を設計したことがあります。Kさんのポリシーに沿って、一切普通の断熱材は使わず、壁は竹小舞(竹を格子状に編んだもの)に土を塗って漆喰で仕上げ、床下には断熱蓄熱用に土を塗り、窓は建具屋さんが作った懐かしい木製格子戸になりました。暖房は薪ストーブです。


 南信州と言っても、冬は氷点下10度近く下がるところなのですが、建て主のSさん夫妻と4人の子供たちは快適に暮らしている、と言っています。無垢の木材や土による放射熱などにより、数値上の温度より暖かく(夏は涼しく)感じるということもありますし、Sさんたちが寒さに慣れているということもあるでしょう。考えてみれば、昭和30年代まで、東京の私の実家では暖房は木炭のコタツがひとつあるだけで、断熱材はなく、窓はやはり木製枠で隙間風だらけ、という状態でした。それが当時普通だったんです。だから住む人間の感覚次第で、必要な住宅の性能も変わってきますし、工業製品を多く使う家を建てるより、住む人が厚着をしたほうがトータルではずっと地球環境にいいかもしれません。
 椅子のデザインなどで有名な建築家チャールズ=イームズは格子状の工場用スチールサッシを鉄骨フレームに取り付け、透明感のあるファンタスティックな自邸をつくりました。イームズはジャーナリストにこの家の暖房システムについて質問されたとき、黙って自分の着ていたセーターを指差したとのこと。

 私が前記の記事を見て危惧するのは、このK棟梁がつくったSさんの家のような建物が、法的につくれなくなることなのです。


アールデコってなんだ2

2010-04-15 | アールデコ
 前回の話の続きなんですが、装飾がなくても「これってアールデコだよね」という建物はたくさんあります。書店の洋書売り場に行くとART DECO」というタイトルの本を見かけます。それらの本には大抵コルビュジェによる20年代の住宅が載っています。時にはオランダの建築家ヨハネス=ダウカーのゾンネストラールサナトリウムなど、「いくらなんでもこれはアール・デコじゃないだろう」というモダニズムの作品も載っていたりします。つまり1930年代のスタイルと言う広義の意味でアール・デコをとらえているのですね。
 でもやっぱり、ダウカーの作品を見てアールデコは感じませんよね。一方、前回例にあげた、マレ=ステファンやオリバー=ヒルの作品にアール・デコを感じるのはなぜでしょうか。確かに彼らの設計した建物は、1925年のパリでの装飾芸術展(アール・デコ展)のパビリオンなどと全然違いますから、藤森照信氏の言うように、狭い意味ではアール・デコじゃないと見られるかもしれません。でも、ダウカーのような純粋な(?)モダニズムの建物とはちょっと違った、象徴性やある種の古めかしさ、機能より視覚的な美を求める態度、時代性をあらわした優雅さ、といった何物かが付加されているのです。
 ヒルの代表作ミッドランドホテルを見ると、部分的に装飾が在りますが、全体としてはモダニズムと言ってもいいシンプルな建物です。しかし、ゆるやかに湾曲した平面が女性的エレガントさを出していて、水平線を強調した庇や象徴性をもった階段塔など、悪く言うと俗っぽさ、よく言うと一般のモダニズム建築よりも優美さがあります。内部は明らかにアール・デコの装飾があるのですが、装飾をはずしてもこの雰囲気は「アール・デコ」としか言いようがありません。この湾曲した平面はヒルの特徴で、ほかの作品にもくりかえし現れるのですが、原美術館の湾曲した平面はヒルの影響もあったのではないかと、前々から思ってました。もっとも、湾曲した平面はヒルだけが採用していたのではないので、証拠はありませんが。
 ちなみにミッドランドホテルは廃業して荒廃していたところを、トラスト運動のような形で市民の協力を集めて復活し営業を再開しているようです。さすが英国ですね。このホテルは、TVドラマの「名探偵ポワロ」に登場します。このシリーズは実は1930年代建築の宝庫で(なにしろドラマの設定が1930年代)フーバー工場とか、ロンドン動物園ペンギンプール、ハイアンドオーバー、ハイポイントアパートなどなど数々の傑作建築がロケに使われ、なかなか見られない内部も撮影されているので、この時代の建築ファンは必見です。