百合子とか、さくらとかいう名前を聞くと、いつも優しい控えめな女性を思いおこしてしまう。それは先入観というものなのだろうか、その名は日本女性の代表のようにさえ勝手に思いこんでいる。なかにはそうはあらじと、バリバリ東奔西走されているご婦人もおられるようではあるけれど。
人間には花のような名前がけっこうある。桃子もすみれも、えりかも茜も、親がその花のように、きれいに優しく育ってほしいとの意をこめて名付けたのだと思う。浜木綿に子を付けたした女優の浜木綿子さんは、おそらく本人が付けたのかもしれないが。
だがいくら花がきれいでも、イメージから名前としては見かけない花もたくさんある。同じ百合でも、鉄砲百合や鬼百合がそうだ。ボケやクズやドクダミなどは、人の名前としてはまず見当たらない。勝手に人間に好きなように名付けられて、花の名前に対する利用価値が決まってしまうとは、気の毒といえば気の毒だ。
反面、花にも人間のような名前がある。
紫式部などはその典型的な例だろう。
家の庭の片隅に今年も所狭しといっぱい花を咲かせた。紫色の実のような花は、人目を引くのだろうか。だいぶ前にも近所の奥様から、これって何という名前の花なんですかと聞かれたことがある。
正式名をコムラサキといい、60~120cmくらいになる落葉の低木で、花色は淡紫色のムラサキシキブ。
葉の付け根に小形の花が集まって開く。日の当たる所なら、土壌を選ばず生育する。とにかく名前に似合わず、強い花だ。生命力強く、どんどん増える。
紫色の美しさを、平安時代の才媛とうたわれた紫式部にたとえて付いた名前らしい。良い名を頂戴したなと、この花が咲くたびに思う。植物名利につきるというもの。けれど、源氏物語にも万葉集にもこの花はいっさい出てこないのは気の毒な気がする。
このムラサキシキブの先端には、よく虫が付く。薬で予防や駆除をしても、またいつの間にか虫が付いている。
誰かが言っていた。「美人に虫が付きやすいのは、いつの時代だって同じだ」って。
「季節の花(32)ムラサキシキブ」