この家を建てて今度の夏で40年目を迎える。
その頃は四方は山と畑ばかりで、家などというものはいっさいなかった。時の流れは早いもので、今ではまわりは家ばかり。どこからでも見えた東北新幹線も、今となってはどこからも見えなくなってしまった
その年に市内で買った椿の苗木。
この冬早い時期に間引きをしたので、そのせいか今年の花はひときわ大きいように思える。
原産地は日本で、九州から青森の海岸地帯に自生する椿。「日本のバラ」と最初に言ったのは、どこのどなたであろうか。
椿はその花を観賞するものであるが、そのつややかな葉にも古来から関心をもち、これから「艶葉木(つやばき)」の意でツバキと呼ぶようになったらしい。
一番古い記録は日本書紀に、685年天武天皇時代に吉野の人が白海石榴(しろつばき)を奉ったことが記されている。その後万葉集には9首詠まれている。江戸時代には1733年に231種と当時の「地錦抄附録」に記録が残っている。
西洋ではポトンと落ちる姿をいさぎよいと感じているようだ。そっくり一花が音を立てて落ちる姿かららしい。が、わが国では忌み嫌うと昔から武士の世界では思っていた。人の首が刀で切り落とされるように思われていたものだから、戦の時などはこの花を床の間に飾るなどはもってのほかなどと侍の家では特に注意を怠らなかったようである。現在、アメリカ合衆国ではわが国の何十倍という椿同好者を擁しているが、どうもその辺に日本の一般家庭に普及していない理由があるのだろうか。
花言葉は控えめな美しさ。
なるほどと思った。とてもきれいだけど、匂いがないのはきっと控えめなためだろうか。冬の庭に赤や白の艶やかさを見せてくれ、落下してもあおむけに着地し、花の形を残すのは、桜といかにも対照的である。
観賞用のほかに木目が細かいことからお椀などの挽き物細工に。 大きな種子からは椿油を採る。以前は日本髪の油として正月の人気者であった。そして炭としては日本伝統工芸にはなくてはならない材料とのこと。
この椿もいつの間にかわが家になくてはならない一員になってしまった。この華麗なる姿をあと何年見られるのか。
桜ではなく、今日は椿にそんなことを思ってみた。
「季節の花(16) 椿は薄ピンク色が好き」