ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

【火曜日【禍】壇】 十二歳。に。矢嶋博士

2010-08-31 06:00:32 | クンストカンマー(美術収集室)
十時には十二歳来る来るならむを、わがこころほそくをりにけるかも

自転車に去り行くみれば、最後の角。曲がる刹那にふりかへり、せり

私は既に矢嶋さんを知っている。だから矢嶋さんというサングラスをかけているようなものだ。そのサングラス越しにこの歌を読むとこの歌はより切なさを増す。
二首目の句読点は時間の経過を伝える。
最後の角。(休止)曲がる刹那にふりかえり、(小休止)せり

北からの風、女(短歌研究新人賞応募作)

2010-08-30 07:06:21 | 雑感
北からの風、女(短歌研究新人賞応募作)

駅までを冬の濃霧のただ中に急ぐあなたの影なき背中

満員の電車のなかの距離感は恋人達とまるで同じで

腕時計外側に巻く君ならばこんなに深く愛さなかった

オレンジに染まる川沿い指先が触れてあなたは北風になる

タイミングだけが足りない僕たちの背中を押した混み合う人等
北風のようなあなたを捕まえるために握った右のてのひら

饒舌な君が突然黙り込み唇を噛む顔を見ている

るるるるとあなたが夜に堕ちるなら背中を僕が押したのだろう
浴槽に君を立たせて正座して愛撫するとき懺悔の姿勢

鮮烈な光とともに爆ぜるとき愛はひとつの頂きを越ゆ

ブラジャーのホックを探す時の間に消えてしまったピアスの一つ

テトリスのように体位を変えてする長い夜にはわたくしは消ゆ

どんぐりを集めて数を競うよう互いに傷を見せ合う夜明け

二回目の夜から愛は冷めてゆく
冬は無言のまま冬である

逢うという漢字は夜の匂いして君を抱きたい時だけ使う

二つ切りされた苺の断面をした後濡れたあれかと思う

手づかみでじゃれあいながらお互いの口へと苺入れ合う真昼

長い指とても綺麗と告げたときかすかに動く小鼻を見たり

ゴーギャンの描く女のような眼で見られ続けている恐ろしさ

背中から君を抱くとき捕われた蛙のような抵抗をする

「今日だけは抱かれたくない」そう言った人を無理矢理犯す優しさ

早朝のバスを並んで待つ君は椿の如くただ無口なり

どこまでも繋がれぬまま過ぎてゆき君を抱けない夜に伸びる髭

よく晴れた冬の日君の下手くそな鼻歌聴きにドライブに行く

唇で放電するということも冬の二人の約束とした

柔らかな胸に頭を押し付けてそうして寒い冬は終わった

停まってるエスカレーター昇るよう君の記憶を反芻してる

波のある性欲ももう謎になり月光深く湖を射す

風かなと思えばあなた、あなたかと思えばいつも風、風が吹く