ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

河野裕子さんに。

2010-08-13 23:09:23 | 雑感
河野裕子さんが逝去された。なんとも言い難い感情が胸に渦巻いている。私は彼女の短歌がとても好きでとても嫌いだ。彼女の身体全部で感受する愛おしい人に対する感情。真っすぐで疑い無く突き進む生き方。もちろん本人にしか預かり知らぬ葛藤も沢山あっただろうが。どこかで私は私が強く望んでも得られなかった母の愛を見せ付けられている気がしていたのだろう。しかし、反面その真っすぐな母の愛を読むことで欠落感を埋めていた。だからこそ、彼女が好きだった。心と歌の距離がとても近く、リズムが胎内で聞く鼓動のように心地好い歌。もう新たにそれらが生まれることのないことに、私は深い衝撃を受けている。

短歌人八月号「鵺」藤田初枝

2010-08-13 08:44:55 | クンストカンマー(美術収集室)
初キスのその日もいつか戦前と呼ばるるならん入道雲よ

入道雲は台風や集中豪雨を伴うことが多い。そんな雲に呼び掛けるのは、初キスがもはや戦前と呼ばれるようになったことである。多分、その日からたくさんのことがあったのだ。そんな様々な歴史を含めた感慨深い呼び掛けだろう。下句の「ばるるならん」も気分を上昇させ爽やかさを感じさせるリズムである。