降りしきる雨の中、家路を急ぐミハ。かろうじて傘は持参していたので濡れることはなかったが、ふと視線を上げると、雨の中にたたずむ見慣れた美しい横顔。
「アルト!?なにやってんだよ、こんな雨の日に傘もささないで……!?」
文字通り、水も滴るいい男となったアルト、緩慢に視線をミハに送る。その思いがけず恍惚とした表情に一瞬、息を呑むミハ。そんな彼に気づいているのかいないのか、アルトは雨粒の流れ落ちる形のいい唇を開く。
「……風の日は風に吹かれ、雨に日は雨に降られる。思わざればはn……」
うわごとのように幼少時より刷り込まれているのであろう言葉を紡ぎだすアルト。ミハは意識的に現実的に幻想的な雨の中、お姫様の目を覚ます。
「はいはい、ストーップ!俺に東洋のナンセンス押し付けようとしても無駄だぜ。ったく、お前が倒れたら誰が面倒見ると思ってんだよ」
はっ、と気がついたような光をその黒檀の瞳にひらめかせたが、アルトは誤魔化すようにその切れ長の瞳を落とす。
「べ、別に、お前に看病してもらわなくても……」
相変わらずのお姫様に軽くため息をつくと、騎士たるミハはアルトの手をとった。
「いいから中入れ」
連れ立って寮の中に足を踏み入れると、雨音に包まれた屋内は人気がなく、まるで本当に二人きりのような気がする。機械的な音を立てて二人の部屋のドアを開け、半ば強引に濡れたままの華奢な背中を押し込む。
「早く脱げよ。びっしょりじゃないか」
「…………」
心配をかけたことが明白であるので、アルトはミハに促されるまま、もう肌も透けるほど濡れそぼったシャツのボタンに手をかける。
雨に晒されたままでいた理由は自分でもわからない。一人で部屋にいると雨音が静寂の密度を増していき、たまらなくて飛び出したのが事の顛末。そして当たり前のように見つけてくれた彼は今もてきぱきと無駄なく狭い寮の部屋を動き回る。
「お前さ、浮世離れしてるのはいいが、自分の身体のことくらい考えろよ。ほらタオル」
「……ああ」
「ほらミルク。あったまるぞ」
「……ありがと」
ホットミルクを両手で包み込み、ふうっと湯気に息をかける。そんな姫を見て、ミハは目を細める。雨に潤ったままの陶器の肌、艶を増すばかりの漆黒の素直な髪、これを愛でずに入られる人間が果たしているのだろうか。目の前に座る正当すぎる理由のせいにしてミハは存分に自分だけの眼福を享受する。
が、あまりにも穏やか過ぎる。不慮の事態に慣れすぎた経験がひと時の幸せに不安の水滴を落とす。時を止めるわけにもいかず、その情景は心にとどめるのみにすることにして、ミハはまた現実に戻る。こうして溺れそうになる一歩手前でいつも踏みとどまる。
「んで?雪の日には何をすることになってるんだ?」
雪、のキーワードに反応するように暖かな湯気に埋まっていた顎を上げるアルト。記憶をたどり、引きずり出すように言葉がその可憐な唇を割って流れ出す。
「……雪の日は降り積もる雪に感謝し、かまくらを作り、中で兄さんとおしるこ……」
「お前それ、洗脳されてんじゃないのか(゜д゜)!?」
矢三郎「にやり」
「アルト!?なにやってんだよ、こんな雨の日に傘もささないで……!?」
文字通り、水も滴るいい男となったアルト、緩慢に視線をミハに送る。その思いがけず恍惚とした表情に一瞬、息を呑むミハ。そんな彼に気づいているのかいないのか、アルトは雨粒の流れ落ちる形のいい唇を開く。
「……風の日は風に吹かれ、雨に日は雨に降られる。思わざればはn……」
うわごとのように幼少時より刷り込まれているのであろう言葉を紡ぎだすアルト。ミハは意識的に現実的に幻想的な雨の中、お姫様の目を覚ます。
「はいはい、ストーップ!俺に東洋のナンセンス押し付けようとしても無駄だぜ。ったく、お前が倒れたら誰が面倒見ると思ってんだよ」
はっ、と気がついたような光をその黒檀の瞳にひらめかせたが、アルトは誤魔化すようにその切れ長の瞳を落とす。
「べ、別に、お前に看病してもらわなくても……」
相変わらずのお姫様に軽くため息をつくと、騎士たるミハはアルトの手をとった。
「いいから中入れ」
連れ立って寮の中に足を踏み入れると、雨音に包まれた屋内は人気がなく、まるで本当に二人きりのような気がする。機械的な音を立てて二人の部屋のドアを開け、半ば強引に濡れたままの華奢な背中を押し込む。
「早く脱げよ。びっしょりじゃないか」
「…………」
心配をかけたことが明白であるので、アルトはミハに促されるまま、もう肌も透けるほど濡れそぼったシャツのボタンに手をかける。
雨に晒されたままでいた理由は自分でもわからない。一人で部屋にいると雨音が静寂の密度を増していき、たまらなくて飛び出したのが事の顛末。そして当たり前のように見つけてくれた彼は今もてきぱきと無駄なく狭い寮の部屋を動き回る。
「お前さ、浮世離れしてるのはいいが、自分の身体のことくらい考えろよ。ほらタオル」
「……ああ」
「ほらミルク。あったまるぞ」
「……ありがと」
ホットミルクを両手で包み込み、ふうっと湯気に息をかける。そんな姫を見て、ミハは目を細める。雨に潤ったままの陶器の肌、艶を増すばかりの漆黒の素直な髪、これを愛でずに入られる人間が果たしているのだろうか。目の前に座る正当すぎる理由のせいにしてミハは存分に自分だけの眼福を享受する。
が、あまりにも穏やか過ぎる。不慮の事態に慣れすぎた経験がひと時の幸せに不安の水滴を落とす。時を止めるわけにもいかず、その情景は心にとどめるのみにすることにして、ミハはまた現実に戻る。こうして溺れそうになる一歩手前でいつも踏みとどまる。
「んで?雪の日には何をすることになってるんだ?」
雪、のキーワードに反応するように暖かな湯気に埋まっていた顎を上げるアルト。記憶をたどり、引きずり出すように言葉がその可憐な唇を割って流れ出す。
「……雪の日は降り積もる雪に感謝し、かまくらを作り、中で兄さんとおしるこ……」
「お前それ、洗脳されてんじゃないのか(゜д゜)!?」
矢三郎「にやり」