ANEMONE SELECT

大好きなヴィンテージコンパクトやなんか好きなこといろいろ

鏡を見るマイラ~映画『哀愁』より

2009-04-05 17:04:21 | Weblog
お母さんが化粧をしている様子を見たりするのって、女の子はみんな好きなものですね。また母の目を盗んで、こっそりドレッサーに座って、たどたどしく口紅やアイシャドウを塗ったりって、女の子の登龍門みたいなもの。お化けみたいな顔になって、結局、母親に小言を言われながらクレンジングクリームで落としてもらう…みたいなこと、私もよくやらかしました。
その私の母が娘時代に嵌って三度も映画館で観たというのが、ヴィヴィアン・リーの『風と共に去りぬ』だったそうで、私も母の言葉につられて嵌りました。
私が初めて『風と共に去りぬ』を観たのは、中学生の確か二学期の中間試験の真っただ中のテレビ放映で、ヴィヴィアン・リーことスカーレット・オハラは、栗原小巻さんの吹き替えでした。
一夜漬けで乗り切るはずの試験勉強がまったく手につかず、試験中もスカーレットがあれからどうなるのか、そのことが気になって頭から離れなかったのを、そして試験が悲惨な結果だったこととあわせて、よーくよーく覚えています。
その母いわく、『風と共に去りぬ』のヴィヴィアン・リーもいいけれど、『哀愁』のヴィヴィアン・リーはさらに美しかったと…。
私の年がバレバレですが、まだビデオが普及していなかった時代、私にとってヴィヴィアン・リーの『哀愁』は幻の映画だったんですね。それから10年以上の時を経て、『風と共に去りぬ』のスカーレットとは対照的に、運命に翻弄される薄幸な女性マイラを美しく演じるヴィヴィアン・リーを観るに至ります。母の言葉に嘘はなく、眩いばかりの美しさと、エレガントな身のこなしのヴィヴィアン・リーにため息がでした。(このサイトで映画のストリーに併せてたくさんの美しきヴィヴィアン・リーの画像が掲載されています)

そんな『哀愁』での、私にとって印象的なシーンがこれ。マイラが戦地に赴いている婚約者ロイの母親との対面を待つ緊張の中でのカフェの席、それがこの小さな鏡を覗くシーンです。



最近、あらためて『哀愁』を観たわけですが、時を経てあらためて観てみると、また違った見方をするものなんですね。
はじめてこの映画を観たときには、どうしてマイラは再会したロイとの結婚に踏み切らなかったんだろうと、単純に思ったものですが、でも、酸いも甘いも噛み分けざるを得ない年代になると、苦しい心模様がわかり、違って見えてしまうのが不思議です。

『哀愁の』マイラは、『風と共に去りぬ』のスカーレットとはまるで対照的に見えるキャラクターなのですが、今回あらためて観てみると共通点もあることに気づきます。
スカーレットは、プライド高き資産家の娘。欲しいものは何でも手に入れなかければ気が済まない、いわゆるタカビーですね。一方のマイラは、類まれな美貌を持ちながら、笑顔までもがもの悲しく、薄幸オーラなんですね。
ロイが結婚の許しを得るために、慌ててマイラに身上を聞くシーンがありました。唯一マイラが自分の生い立ちについて話すシーンのマイラの言葉によると、バーミンガムの生まれで、父親は学校の校長だったけれども、既に両親とも他界していると。(ちなみに、コンパクトの王者・ストラットン社は、このバーミンガムの地で創業されています)

しかし性格は対照的ながら、恋愛を成就できない不幸は、二人に共通しています。さらにもうひとつの共通点。スカーレットは、生きるか死ぬかの逆境の中、殺人に手を染めてまでも、一族とタラの地を守り、一方のマイラは、生きるか死ぬかの逆境の中、娼婦へと身を落とします。二人とも、生死の淵で人として大事なものを捨て、犠牲にしてしまうわけです。

『哀愁』は、1940年の映画で、物語は1917年という設定。マイラとロイとの出会いは、空襲のサイレンが鳴り響くウォータルー橋でのこと。避難所へ駆け出すバレエ団後方部にいるマイラの小さなバッグの蓋が突然開いて中味が炸裂します。散らばったバッグの中身を拾い助けるロイとマイラは、そのまま避難所でも一緒に過ごし、その夜のマイラのバレエ公演にロイが出向いて二人は恋におちていきます。
その日の別れ際、ロイはこんなことをマイラにつぶやきます。
 
ロイ 「会った時から気になっていた事だ
    君はまだ若くてきれいなのに
    人生に何も期待していない気がする」

マイラ「その通りよ」
 
人生に期待を持たないことで、心の平安を保っていたマイラですが、翌日、突然のロイの強引なプロポーズに、ついに心をときめかせてしまいます。しかし幸福の絶頂は一瞬のことで、彼女が恐れていた通り、運命の悪戯に翻弄され、そこから彼女は転落していきます。

実は今回気が付いたのですが、マイラが娼婦に身を落としたときにも、手鏡を覗くシーンがありました。さっきのシーンとはまるで表情が違います。



そしてこの直後に、戦死したものとあきらめていたロイに再会し、戦死は誤報であったことを知ります。マイラとの再会を手放しで喜び、またもやせっかちに結婚話を進めようと、ロイは電話をかけに席を立ちます。その合間、マイラは娼婦としての自らの装いを気にして、一生懸命に口紅を落とすシーンがこれ。



鏡は顔の表情を通して、心も映し出してしまうものなんですね。

ロイの家は名家で、このまま嫁ぐことができればマイラはいわば玉の輿の人生が待っているわけです。しかし彼女は、身を落としたことを隠し通すことがいたたまれなくなり、人生を悲観し、ついに哀しい結末を迎えます。

『哀愁』が公開された1940年は、第二次世界大戦が始まった頃で、ヴィンテージコンパクトが花開き始めた時代ですが、描かれているのは第一次世界大戦中ですので、まだ白粉コンパクトらしきものはなかった時代なのでしょう。
なんでもない四角い鏡ですが、とても印象的でした。

商品一覧
ヴィンテージコンパクト・白粉おしろいケース・お粉入れ・パウダーケース 

ANEMONE SELECT