***
夜が好きだ。好きになった。昼が嫌いなわけではないけれど。夜のほうが好きになった。夜の世界に魅せられた。
夜の世界というと、水商売みたいだけれど。
閑静な郊外のアパートに借りた。少し歩けば繁華街の煌びやかなビル群が見える住宅地の中で、家賃も安い分、駅から少し距離があるから昼間もそううるさくはなかった。むしろ工事の音が谺(こだま)するくらい、都会の中の静かな場所を借りられたと思う。ビジネスや歓楽の音ではなく、生活の音や匂いのする地区だった。
昼でこうだから、夜はなお静まり返る。地理からいってこの辺りは騒々しいと思っていたけれど……
それが良かったのか否か。
そういう地区のアパートで、深夜帯になると近くの小道を通るバイクの音や、遠くの救急車のサイレンが聞こえるくらいの静寂のなか、俺は居間からドアスコープを見ていた。星空にしては妙に空虚で、たったひとつ、光ってみえる小さな穴を。
暗闇と静けさは「死」をイメージさせる。この時間帯は、死後の世界とリンクしているような。
そのうち、ドアノブが動いた。インターホンはない。ノックもない。本来は、恐ろしい話だと思う。けれど、この"現象"を、俺は待ち侘びていた。
***
お題に沿いませんでした。このあと夜に溶けていっちゃう感じで。