「無警戒国家」の恐怖・・
「善意」が脅かす国益!
【軍事情勢】 「平和/友好」を安易に乱発されると胡散(うさん)臭さを感じる。平和・友好的でない2国間で叫ばれるケースが多いからかもしれない。「平和/友好」の大安売りは、チェコでもあった。米国がミサイル防衛(MD)の一環としてレーダー基地を築こうとしているチェコで、メディアや非政府組織(NGO)、政治家の一部か政治家の一部から計画反対の火の手が上がったのだ。ロシアとの「平和/友好」を阻害するとの主張も繰り返された。チェコ情報当局は、反対活動はロシア諜報(ちようほう)機関に因(よ)る扇動だと公表している。わが国でも、先端兵器やスパイ防止法を整備しようとする度に、左翼のみならず、中道・保守勢力からも「近隣諸国に脅威を与える」「国民を弾圧し、軍国主義社会に戻る」と、邪魔が入る。そもそも「近隣諸国に脅威を与えない」兵器は抑止力になり得ない。チェコのケースと同様、国防力を骨抜きにしようとたくらんでいるとしか思えない。
■“善意”が脅かす国益
そういえば、1976年にソ連戦闘機が函館空港に強行着陸、操縦士が亡命した際、与党の大物政治家は首相や各政党を訪ね、機体検査前のソ連返還を説いて回った。米国の強い要請もあり機体検査だけは実施したものの、飛行実験をしないままソ連に返し、ソ連は胸をなで下ろしたという。
以上のような、意図的な「敵性国家への利益誘導」に加え、“善意”だと信じて国益を脅かしている例もある。何しろ、間諜(かんちょう)としての自覚がないのだから、情報流出量は前者とは比較にならぬほど深刻だ。しかも、日本のような「無警戒国家」では日常的に行われている。
中国は日本の大学・研究所との先端技術交流に向け、盛んに秋波を送ってきている。太陽の中心密度の4倍という核融合の世界記録を打ち立てた日本の大学研究所との、レーザーにかかわる交流にはCIA(米中央情報局)が動いた。レーザーは核融合も起こせる武器そのもので、交流相手は中国人民解放軍系研究所なのだから、この大学の無警戒は「学者バカ」で済まされない。この種の学術交流には文部科学省が資金援助している場合が少なくなく、あきれる他はない。さらに、人民解放軍系企業も、日本の化学・薬品会社買収に触手を伸ばすなど、手口は一層積極的になっている。一方、ロシアも、元諜報機関員が設立したIT企業が、セキュリティー・ソフトの開発・販売で日本企業と接触しており攻勢が際立つ。
■国防になじまぬ経済性
軍部や諜報機関が育成し、後ろ盾となる、中露の政府系企業や経済・技術交流代表団は情報・技術奪取が目的。資金が豊富で利益をあげる必要もないから、官公庁などの競争入札ではしばしば、日本企業を蹴散らしている。オウム真理教系のコンピューター・ソフト開発会社が2000年、防衛庁(当時)など官公庁やメディア、大手企業の業務システムを作成していた事実が露見したが、手掛けた先は約 190組織・ 210システムにのぼっている。防衛庁は当時、Aランクに格付けした企業44社を対象に競争入札を実施、内1社と契約した。成約した会社の孫請けの一つがオウム系だったのだ。料金が3割安く、仕事は迅速かつ正確であった。「公正性」「経済性」は組織、とりわけ税金を使う官公庁で優先されるのは当然だ。指名競争や随意契約を認めない傾向も、それなりの正当性を持つ。だが「公正性」「経済性」は、国家の「安全」や「国益」を阻害する事態も時に引き起こす。防衛省にはなじまない部分が多い。
■スパイが望む日本勤務
「民間への業務委託」も「公正性」「経済性」の御(み)旗の下に進められている。米国のNSA(国家安全保障局)が通信傍受記録の翻訳を委託した先は中国諜報機関のダミー会社であった。NSAは暗号解読など海外情報通信の収集・分析や政府の情報通信システムを外国諜報機関から守る、暗号・セキュリティー技術では世界最高峰の組織。そのNSAが、中国諜報機関を、自ら内部へと誘ってしまったのだ。
防諜(ぼうちよう)大国・米国にして、中国の間諜攻勢にやり込められている。まして、防諜意識が欠落する日本の組織など、赤子の手をひねるがごとしだ。先端メーカーを見学すれば、工程を事細かに説明した図が張ってあったり、パンフレットに掲載されていたり-外国間諜の大多数が、実績を上げられる「日本勤務」を熱望するほどの無警戒ぶりだ。
日本の官公庁は保有するパソコンを一斉点検してみるべきだ。「事業仕分け」のあおりを受け、先端情報奪取をうかがう国家が製造国であるパソコンを、競争入札で安易に大量購入したとすれば、内部の「仕掛け」まで精査する必要がある。
(政治部編集委員 野口裕之)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/352095/
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