漆工芸・スクラッチボード画/前田浩利のブログです。

日本の線画―前田浩利の仕事/銅版画・スクラッチボード画のすべて。

日本の漆/前田浩利・衝撃の大震災を刻画。―(8)

2015年07月21日 | 漆工芸/前田浩利

 2011年3月14日午後2時46分
 東日本大震災/巨大地震マグニチュード9・0が襲う― 
 〈漆〉
  
    〈手帳日記〉


 《手の平サイズ50頁の手帳》
 有り合わせの和紙を切り揃えて、50頁ほどの手帳を仕立てました。流れる映像を
 見ての衝撃は“生死”という文字でした。
 (2011・3・14日)







 《千年に一度の大震災―》
 最初に飛び込んできた言葉は“千年に一度の―”という繰り返しの言葉です。
 全てはこの言葉で象徴される衝撃の大きさをを予感し、思わず手にした筆は支離滅裂の文字になりました。
  (2011・3・15日)
 





 《津波の怖さを知っているあなたが-》
 傷ついた子供を抱き抱えた若い母親の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
 東日本、東北の皆さん!―、津波の怖さを一番よく知っている筈のあなたがどうして---
 逃れることが出来なかった悔しさと悲しみ、やり切れなさがこみあげて
 筆にしてはいけない文字を書きました。
 (2011・3・20日)
                                                  
 
 
 
 

 《命の水が命を奪う―》
 地震発生時から次つぎと提供されるリアルタイムの映像を、デジカメで6千枚ほど撮影し、
 その後震災動画の映像集46本をパソコン内に収録しました。 豊かな命の水がすべてを破壊し尽くし、
 さらに命が奪われる。

 (2011・3・27日)








今日からデッサンを開始します。
被災動画の映像から瞬間素描400枚のスケッチを描く。(素描画面・ハガキ大)





 
《 瞬間素描は残像との闘い―》
瞬間素描は、凄まじい破壊現場の一瞬を脳裏の奥に焼き付かせ、その残像が消えぬうちに、
素早くスケッチとして描き残します。カメラのシャッターと同じで念を込めて“映像のエキス”を眼底に写しとります。
動画は一瞬一瞬の連続です。一本の動画を3回は見直し素描しています。
今日は震災から1年目が経過した日です。デッサンを始めました。
(2012・3・14日)
 
 

  
  

 
《 素描からデッサンへ―》
 瞬間素描のスケッチを見て、崩壊現場の直感を大切にしながら、誇張ではない真実の造形たり得ているか
 何度もデッサンを描き直します。


 

 
《 デッサン画から漆塗り原版へ)
完成したデッサン画を漆塗り本番使用の大きさに拡大する (漆原版サイズ90×60㎝)



 
《 漆工芸/沈金制作》

《 岩手県釜石市の崩壊する市街地 》
市街地を崩壊させる濁流、大津波の猛威が想像を超えた被災現場となって眼前に繰り広げられた。
 






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《 漆工芸/沈金制作 》
  《岩手県陸前高田市/濁流の猛威に崩壊する集落》
 


 漆塗りの鏡面は、世界で最も堅牢な塗装です。
 私の線刻描法は、一本の線にこだわり、その線の集積で絵画の三大要素である質感、重量感、遠近感などの
 諸要素を捉えようとします。私にとって造形デッサンの概念とは「線画」そのものです。
 濁流と崩壊してゆく集落の被災画は線を引く(削る)行為のみによって成立します。



現在まで大版6点が完成しました。
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次なる作品もぜひご覧下さい。前田浩利 ・記


E-mail:maeda8@ion.ocn.ne.jp

























  





漆工芸/前田浩利 3・11大震災を刻画。―(7)

2015年07月18日 | 漆工芸/前田浩利
3・11宮城南三陸町―崩壊の7分間。

 
〈漆〉                       
宮城県本吉郡南三陸町―なだらかな傾陵に広がる美しい集落の
 あらゆる構造物は、海側から丘を乗り越えて来た津波によって、2分で崩壊が始まり7分で壊滅した。


 濁流の轟音、瓦礫の木っ端微塵に崩れる音、崩壊する民家の土煙りのなかで
 鳴り響くサイレン、人々の絶叫、悲鳴が--------なだらかな丘の集落は、一舜にして瓦礫の丘と化した。
   作品原版の大きさ(70×45㎝)・ 部分


  荒れ狂う小波は濁流となって―

  丘を越えた津波は、複雑な小波となって右に左に跳ね回り、はげしく構造物に直撃する。
  複雑に破壊された瓦礫は固まりとなって、さらなる瓦礫を砕く。
  (部分)
  


 



 
  
  
  私の漆工芸は「沈金」という技法です。
  大版の漆塗りの原版に、小刀を当て線を刻み、その刻みに生漆を擦り込んだ後、
  金銀粉や色彩粉を蒔き完成します。小刀は、世のあらゆる鉄ペンやナイフを応用し、自分流に研ぎ直し
  形を整えて使用しています。漆工芸1500年の歴史の中で考案された伝統の「沈金刀」は存在しますが
  私は使用していません。私の線刻画「沈金」は、一本の線にこだわり、その線の集積によってあらゆる対象、
  風景を描出し、三次元的な絵画空間を演出します。
  (部分拡大)
  
  
  
   


 
  早い!津波は早い!―
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  凄まじい早さで集落を崩壊してゆく映像を見て「私の出来ることをしょう―」
  皆がそう決意して立ち上がることでしょう。漆線刻画一筋の40年です。
  砂煙と瓦礫の中で死にゆく人びとを、私の技術が力量不足でも描かずにはいられない。
  「命がおわる、命が奪われる」 この真実をわたしなりの手段で伝え残そう。
  私の漆工芸・沈金の技法こそは、それにふさわしいと信じつつ。 前田浩利・記