漆工芸・スクラッチボード画/前田浩利のブログです。

日本の線画―前田浩利の仕事/銅版画・スクラッチボード画のすべて。

日本の漆芸 《沈金・前田浩利》大震災を描く―(4)

2015年05月18日 | 前田伝統漆工房
  

   《 漆工芸・沈金 》 ―
 ――床の間文化の装飾、室礼品から造形絵画の世界へと引き継ぐ
   新しい創作の旅へ出かけよう。


   3・11東日本大震災 真実の記録・第4弾 ――岩手県宮古市田老町の防潮堤防。

                   
            ”田老の防潮堤防が崩れた”
   この第一報は、東日本全域に驚きと戦慄を持っ伝えられた事でしょう
   それほど、この防潮堤防は地域安全の支えであったし、安全神話の象徴、精神的支柱だったのです。
   明治29年6月の明治三陸津波と、昭和8年大津波被害を契機に太平洋に向かって史上最大といわれる
   堤防の建設を開始し、1958年3月に完成します。海面から10mの高さで総延長2433mに
   達し田老町の街を取り囲むように建設されました。津波の一撃は、最も海辺に近い一角の堤防から
   崩壊してわずかな鉄筋の構築物を残し、街を全滅させました。防潮堤の安全を信頼していた
   住民の皆さんは自宅避難者となって被災したのです。

   
 



   
田老の街並みは、この防潮堤防のすぐ脇まで寄り添うように建てられていました。







   
小高く豊かな里山に囲まれた平和郷、田老の街並みも10mを越える津波によって壊滅します。






   
   大版の漆塗りの原版に小刀で絵を刻み、その刻みに生漆を擦り込んだ後、金銀粉や色彩粉を蒔き
   完成します。小刀は世のあらゆる鉄ペンやナイフを応用し、自分流に研ぎ直して形を整えて使用します。
   漆工芸1500年の歴史の中で考案された「沈金刀」は存在しますが、私は使用していません。
   伝統的な装飾図案を描くには適していますが、表現する対象を伝統の工芸的表現から自由奔放な絵画的
   表現をしてゆく過程で“前田流沈金刀”を考案しました。

 





   
   この大震災制作の漆板は大版サイズで制作しています。
   この大震災の沈金作品シリーズは、大版の漆塗り(90㎝×60㎝)を使用し、塗りは越前漆器の
   匠の技による見事な鏡面です。伝統的な漆工芸界では信じられない大きさですが大震災を克明に描く
   には、この大版が私にとって気持ちになじみます。漆塗りの鏡面は世界一堅牢な塗装です。
   鋭利な小刀でもかなりの力を要します。




    
   このシリーズで発表している作品は、私が制作しながら片方の手でデジカメで撮影したものです。
手ぶれを生じたり、部屋の一角が画面に写り込んだりしています。ご容赦ください。

   ●私の作品の技法は、漆工芸〈沈金〉です。全ては小刀で削りながら線で描く線画になります。
    点のみで描くことはありません。小刀は常時20本ほど揃えています。漆板に当てる刀の角度や、
    腕の位置等、古来より伝承されてきた技法とは違います。
   ●今後、私の沈金線刻描法を積極的に公開していきたいと思っています。 


    前田伝統漆工房/前田浩利
     制作工房/〒554-0002/大阪市此花区伝法2-1-54
             TEL/06・6468-1588