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別冊・鱗から目

作った物(のうち、電子的な方法で陳列できるもの)の置き場でもある

なろう小説のタイトルを論文風にしよう

2020年08月04日 | 雑記

 「なろう小説」をご存知だろうか。日本最大の小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿される低俗な小説のことである。次のような特徴的なタイトルがついていることが多いので,本屋で見ても一発でそれとわかる。

  • おい、外れスキルだと思われていた《チートコード操作》が化け物すぎるんだが。 〜実家を追放され、世間からも無能と蔑まれていたが、幼馴染の皇女からめちゃくちゃ溺愛されるうえにスローライフが楽しすぎる〜
  • マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件
  • 弱者と呼ばれて帝国を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました 〜魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大国に進化させます〜

なんともいえない恥ずかしい気持ちになってくるので,このへんでやめておこう。

 なぜなろう小説ではこんな感じのタイトルが好まれているのだろうか。言うまでもなく「タイトルを読めば内容が分かる」からである。なろう小説の読者は忙しいので,期待はずれの結末を迎える物語を読む暇などないのである。もちろん,中には意味深な言葉遊びで興味をひくようなタイトルもあるにはあるが,上記のように内容を要約しているものが大半である。これはもう,お作法として確立されているようだ。

 さて,タイトルから内容が分かるとありがたいものといえば論文である。特に医学・生命科学系では,「つまり何が言いたいのか?」を要約した10〜20語程度の文をそのまま論文のタイトルにするのが一般的になっている。

  • The Neuroinvasive Potential of SARS-Cov-2 May Play A Role in the Respiratory Failure of COVID-19 Patients
    (SARS-Cov-2の神経侵襲性はCOVID-19患者の呼吸器不全におけるある役割を担っている可能性がある)
  • Single-Strand Consensus Sequencing Reveals that HIV Type but not Subtype Significantly Impacts Viral Mutation Frequencies and Spectra
    (一本鎖コンセンサスシーケンシングによりHIVのサブタイプではなくタイプがウイルスの変異頻度とスペクトルに有意な影響を与えることが明らかになった)

まさになろう小説のタイトルと同じではないか! ということは,なろう小説のタイトルは簡単に論文風にできるのでは?

 さっそく,一番上に挙げたやつでやってみよう。

おい、外れスキルだと思われていた《チートコード操作》が化け物すぎるんだが。 〜実家を追放され、世間からも無能と蔑まれていたが、幼馴染の皇女からめちゃくちゃ溺愛されるうえにスローライフが楽しすぎる〜

まず語彙に注目しよう。「おい」や「〜なんだが。」などの話し言葉を論文に使ってはいけない。「めちゃくちゃ」も「非常に」とかに言い換えるべきだが,「溺愛」に強意の意味が含まれているので,思い切って削ってしまったほうがいい。次に主観的な表現を削除するか,客観的なものに置き換えるかする。類似表現もどれか一つを残して削る。そんでもって「、」を「,」にするなどいくつか記号を置きかえる。比較的こまかい情報はコロンで区切って書く。

外れスキルと思われていた“チートコード操作”は非常に有用である:家族からも世間からも無能と評価されていたが,幼馴染の皇女から溺愛され,スローライフが楽しくなった

とりあえずこんな感じ。少し手を加えただけでグッと論文のタイトルっぽくなったのではないだろうか。こうしてみると,どうやらこの論文は症例報告(クリニカル・レポート)のようだ。年齢・性別を入れるとよりそれっぽくなる。主人公の情報を求めてプロローグを読んでみると

18歳になると、誰もがスキルを与えられる。
 剣聖の息子――アリオス・マクバは、……

とあるので,タイトルは

外れスキルと思われていた“チートコード操作”は非常に有用である:家族からも世間からも無能と評価されていたが,幼馴染の皇女から溺愛され,スローライフが楽しくなった18歳男性の例

これで決まりだ。文句のつけようがない立派なタイトルができた。これならお堅い先生方も「おっ,読んでみようかな」と思うのでは? この調子で全文を論文調にまとめてみたい気もするが,著作権の問題があるのでここには書けそうにない。暇な人はやってみるがよかろう。

 最後に,論文検索画面にこの論文(英語)が表示されたという設定の画面を作ってみた。なかなかなじんでいる。


2 コメント

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Unknown (特急秩父路)
2020-08-07 21:40:11
なろう小説に限らず、最近の小説は読者を引き寄せるためにインパクトのあるタイトルが多いですね。
かく言う私はタイトルよりジャケットのデザインに惹きつけられてついついレジに…なんて経験も少なからず(笑)
ターゲット層に合わせた表現方法を利用して相手の心を掴む技法はぜひ見習いたいです。
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Unknown (uroko-kara-me)
2020-08-08 12:04:20
新書とか自己啓発本とかはけっこう煽るタイトル多いですね。
私もけっこうジャケ買いしてしまうたちなのでわかります...中身が期待と違うことのほうが多いので控えようと思ってるんですが。この絵だけ欲しいなみたいなことが多々あります。
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