
5月に入り,朝晩の肌寒さもいくぶん和らいできた。このぐらいの陽気になると,夜,外に出たときに何かが振動しているような「ジーーーー」というノイズが聞こえるのに気がつくだろう。私たちの脳は連続した音はある程度カットしてしまうので意識しないと聞こえないが,これはまあまあ大きい音なので(注1),ちょっと耳を澄ませさえすればすぐに分かる。田舎であれば家の中にいても聞こえるし,都会でも静かな場所で集中すれば「もしかしてこれのこと言ってる?」となるはずだ。この音の正体は何であろうか。たぶん虫だろうとは思ったが,春に鳴く虫って何がいたっけ? 夜に鳴く虫といえば,コオロギ,マツムシ,スズムシなどどれも秋の虫しか知らない。
調べたところ,クビキリギスという虫の鳴き声であるようだ。名前の由来は,首のところの構造が弱いので,咬まれたのを引き剥がそうとすると首を残して体だけもげてしまうことから。ちょっと趣味が悪い仕掛けだ。バッタの仲間で,見た目は大きいショウリョウバッタという感じだが,裏返すと口の周りが赤い。たまにピンクのものがいて「色違いバッタ」として話題になる。鳴き声で見つけるのはなかなか難しい。というのも,夜に外に出てジーと鳴き声のするほうに行けば見つかるというものではないからだ。この不思議な鳴き声がまっすぐ前から聞こえてくると思っても実際には真横の方向にいるとか,目の前から音が出ていると思って音源たる虫を探しても見つからず,実際は20mも先の方にいるとかいう体験談が後をたたないらしい。なかなか愉快な虫だ。蛍光灯が古くなってくるとジーって音がするけど,さしずめクビキリギスが免疫機構の弱った蛍光灯を狙って寄生しているんだろうな。
注1:80dBぐらい出しているらしい。目安は電車の車内,水洗トイレを流す音,電話のベルが聞こえないぐらいとか。
身近なことでも知らないことや調べると面白いことが転がっていますね