出だしのアカペラは、悲劇を予感させる無力感や虚無感の漂う少年の独白だ。バラードは、人を殺したという衝撃の告白、懲罰への恐怖と人生をふいにした苦悩、そしてその中で、母親に謝り気遣いしながらも甘えている少年の声だ。
オペラでは、掛け合いで少年の内面の葛藤を描き、ロックでは逆切れして居直る。そして最後のバラードは、出てくる言葉は前のバラートと似ているが、その響きは初めの虚無感とは異なり、諦めたのか覚悟したのか、葛藤を越えた姿を感じさせる。
この歌の作詞・作曲・ボーカルはFreddie Mercuryだ。彼はタンザニアで生まれ、後にインドで過ごし、16歳の頃にタンザニアに戻るが、すぐに革命の混乱から逃れてイギリスに移住した。家庭は豊かだが厳格だったようだ。
よくある解釈は、Freddieがゲイを隠す偽りの自分を殺し生き抜くという筋書きだ。日本文学でいえば、島崎藤村の「破戒」のように。英文学の観点では、HamletやMacbethに描かれた迷いや無力観との類似点も指摘されている。
でも、これらでこの歌の言い知れぬ魅力を説明できるとは思えない。この歌は誰もが通ってきた少年時代の苦悩を描いている。そして、記憶の沼底に眠っていた化け物を目覚めさせ、一気に浮上させて魂を揺さぶるのだ。(続く)