著者は、「記憶の果て」で第5回メフィスト賞を受賞。
少々、分厚く、多重人格を扱った小説だが、難しくなく、最後まで一気に読める。
「アラビアンナイト博物館」国立民族学博物館編集 東方出版発行
本書は、国立民族学博物館で2004年9月9日から12月7日まで開催されている<特別展・アラビアンナイト博覧会>の図録である。
いわゆるアラビアンナイトの物語は、9世紀か10世紀ころのバクダードでその原型がつくられ、少しずつ物語が追加されてゆき、15世紀ごろのカイロで最終的なかたちにまとめられたという。また、アラビアンナイトの物語は中東世界のコーヒーハウスなどで演じられる口承文芸でもあった。ところが、アラビアンナイトの物語は中東のアラブの人びとからしだいに忘れられてゆく。1704年にフランスの東洋学者のアントワーヌ・ガランが、アラビア語の写本を翻訳して、『千一夜』を出版する。ガランの『千一夜』は、パリでベストセラーになり、ヨーロッパ諸語に翻訳された。アラビアンナイトの名称は、1706年のガランの英語版翻訳『アラビアンナイト・エンターテイメント』に由来しているという。西洋では、その後アラビアンナイトにたいして性愛文学と児童文学の二つのアプローチがおこなわれるようになった。
本書はアラビアンナイトをとおして西洋がイスラム世界をどのように想像し、そして理解してきたかについて、多角的な視点から論じている。
「もののけ Ⅰ・Ⅱ」山内昶著 法政大学出版局発行
「もののけ」ということばは、おそらく映画『もののけ姫』によって現代の日本ではひろく知られるようになった。本書は、日本語の「もののけ」ということばの概念の考察から出発し、「もののけ」とは、「個々の存在物を存在させ、運動させる自然エネルギーの発現形態(エピフアニア)、不可視のカオス的力の顕示形態(ヒエロフアニア)」と定義する。したがって、「もののけ」の探究は文化を介した人間と自然との関係のあり方の探究なのだ。
本書では「もののけ」をキー概念にして、日本、「未開社会」、そして西洋のそれぞれの文化が比較研究されている。文化人類学が「未開社会」の研究から導き出した「マナ」の概念が、日本語の「もののけ」に相当することが本書で論じられている。「もののけ」や「マナ」に相当する西洋の概念として「悪魔」がとりあげられ、西洋における「悪魔」の歴史が概観される。
本書は、人類文化の壮大な比較研究であるが、本書で提示されている方法論は、文化にかかわる多くの現象にも適用が可能と思われる。
「帝国の視線」松田京子著 吉川弘文館発行
1903年3月1日から7月31日にわたって、現在の大阪・天王寺一帯で第5回内国勧業博覧会が開かれた。本書は、この博覧会のもつ負の側面に注目し、博覧会の開催にともなう「貧民街」住民の強制的な移転と、植民地パビリオン台湾館の形成に焦点をあてている。これら二つのテーマは、19世紀末から20世紀初期の日本において、自分たちとは異なるとみなされる人びと=「他者」がどのように語られ、提示され、そして認識されていったかという問題でつながっている。現在でも博覧会は観光と強くむすびついているが、本書は博覧会にひそむ政治性・歴史性について再考をうながしている。
「民話の地理学」佐々木高弘著 古今書院発行
ふつう地理学者は、人間と「場所」とのかかわりを、その地理学者に見える景観をとおして分析する。ところが本書の著者は地理学者でありながら、伝説や昔話の語り手には記憶されているが、研究者などの外部の人間には「見えない景観」の分析を試みている。本書は「見えない景観」の分析によって、荒唐無稽な妖怪伝説が、じつは古代の土地情報を伝えていることを論証している。また、本書は近代化によって変容した人間と「場所」とのかかわりかたについて、『千と千尋の神隠し』などの映画を例にして論じている。本書についている英語のタイトル『The Grounding of Imagination』が、本書のテーマを端的にあらわしている。
「エコミュージアムへの旅」大原一興著 鹿島出版会発行
地域全体をミュージアムに見立てるエコミュージアムの考え方は、1960年代後半にフランスで生まれたとされるが、わが国でも各地で関心がもたれ、実際の取り組みが行われている。本書は、エコミュージアムの基礎概念や誕生、成立とその後の展開、世界各地の実例に関して、豊富な写真や図を利用して述べており、地域がもつ資源や環境を大切にする地域づくりやツーリズムを考える、あるいは、実践する際に多くを学べるであろう。