白ぺん黒ぺんやあい (伝説・高知県中村市)
とんとむかし、中村の町はずれの大物川のそばに、作十という猟師がおったそうな。
おかみさんも子どももいないひとりもので、二ひきの犬に、白ぺん、黒ぺんという名をつけて、まるで、わが子のようにかわいがりよった。
ある日、作十はいつものように、その二ひきの犬をつれて、川上の山の中へはいっていった。
ところが、どうしたことか、その日にかぎって、一ぴきのえものもとれなんだ。あっちのみね、こっちの谷間とあるくうちに、へとへとにつかれてきた。ふと、道のまん中に、大きな木がたおれておるのを見て、
「どれ、いっぷくしようかのう。」
と、こしをおろした。すると、きゅうに、ワン、ワンと白ぺんと黒ぺんがほえはじめた。
「なんじゃ、なんぞおるのか。」
作十はあたりを見まわしたが、なにもおらん。それで
「こりゃあ、さわぐな。」
と、犬たちをしかって、たばこをすいはじめた。ところが、そのとき、ずるずるっと、こしかけていた大木がうごきはじめたそうな。
「おやっ。」
たまげた作十が、よく見ると、大木とおもうたのは、なんともすごい大蛇じゃった。
ふといかま首を、にゅうっともちあげて、赤いしたを、ぺろぺろはきだしている。作十はあわてて鉄砲をとりあげると、大蛇の目をねらって、ダーンと一ぱつうちこんだ。
たまは、みごとにめいちゅうした。大蛇はくるしんで、ばたばたのたうちながら、草木をへしおり、石ころをはねとばしてあばれまわり、ごろごろっと下の谷底へおちていった。
作十はおそろしさに、ぶるぶるとふるえながら、いそいで山をかけおりて、家へもどってきた。
そこへ、となりのばんばさん(おばあさん)がやってきて、
「どうしたじゃろうかのう、まえの川の水がまっかになっちょるが。」
という。それで作十は山であったことをはなすと、
「おおの、こわや、こわや。」
と、ばんばさんもふるえあがって、家の中へすっとんでいった。
作十も、家の戸をしめきって、そのまますぐに、ねてしもうたそうな。
その晩、夜中ごろになって、戸口のそとで、白ぺんと黒ぺんが、けたたましくほえはじめた。
作十は気にはなるが、おそろしいので、そとへでることもできず、ふとんの中で、じいっとしておったと。
二ひきの犬のなき声は、だんだんと、おく山のほうへきえていく。
たすけをよんでいるようだが、作十はどうすることもできん。ひと晩じゅうねむれんと、夜をあかしたそうな。
朝になると作十は、すぐに家をとびだして、山の中へはいっていった。そして、大声で、
「おうい、白ぺん、黒ぺんよお。」
と、犬たちの名をよびながら、さがしまわった。けんど、どこにも、犬のすがたはなかったと。
作十は、のまず食わずで、なん日もなん日も、いっしょうけんめい、山じゅうをさがしまわっているうちに、つかれきって、とうとう、たおれて死んでしもうたそうな。
それからまたなん日かたって、村の人たちが、
「作十の顔を、ちっとも見かけんが、どうしたことじゃろ。」
と、うわさをしはじめて、家の中をのぞくと作十がおらん。それで村じゅう総出で、山さがしをはじめた。
「作十やあい。もどれよお、作十よお。」
かねやたいこをならしながら、みねから谷へと、みんながさがしまわったが、どうしたことか、作十のかげもかたちも見えざったと。
ところが、それからひと月ばかりたってのことじゃそうな。村でそま(木こり)のしごとをしておるひとりの人が、山へ木をきりにいった。
ひとしごとして、木のかぶにこしをおろしてやすんでおると、ふと、山のむこうから、
「白ぺーん、黒ぺーん。」
と、犬をよんでいるような声がきこえた。
(ああ、ありゃあ、ひょっとしたら作十じゃなかろうか。)
そうおもうた そま は、村へとんでかえって、みんなに、このことをはなしたそうな。
村人たちも、さっそく山へいってきいてみると、たしかに、
「白ぺーん、黒ぺーん。」
ときこえる。
「おお、よびよる、犬をよびよる。」
けんど、ようききよると、どうやら鳥のなき声みたいじゃったので、
「ありゃあ、作十のたましいが、鳥になって、かわいい犬をよびよるがじゃろう。」
と、みんながいうようになった。
いまでも大物川のそばのふかい森の中で、「白ぺーん、黒ぺーん」と、なきつづける声がするそうな。
その鳥は、高知県の県鳥になっている、八色鳥のことだという話である。
(再話・久保 喬 たかし)
【「高知県の民話」日本児童文学者協会編 偕成社】
とんとむかし、中村の町はずれの大物川のそばに、作十という猟師がおったそうな。
おかみさんも子どももいないひとりもので、二ひきの犬に、白ぺん、黒ぺんという名をつけて、まるで、わが子のようにかわいがりよった。
ある日、作十はいつものように、その二ひきの犬をつれて、川上の山の中へはいっていった。
ところが、どうしたことか、その日にかぎって、一ぴきのえものもとれなんだ。あっちのみね、こっちの谷間とあるくうちに、へとへとにつかれてきた。ふと、道のまん中に、大きな木がたおれておるのを見て、
「どれ、いっぷくしようかのう。」
と、こしをおろした。すると、きゅうに、ワン、ワンと白ぺんと黒ぺんがほえはじめた。
「なんじゃ、なんぞおるのか。」
作十はあたりを見まわしたが、なにもおらん。それで
「こりゃあ、さわぐな。」
と、犬たちをしかって、たばこをすいはじめた。ところが、そのとき、ずるずるっと、こしかけていた大木がうごきはじめたそうな。
「おやっ。」
たまげた作十が、よく見ると、大木とおもうたのは、なんともすごい大蛇じゃった。
ふといかま首を、にゅうっともちあげて、赤いしたを、ぺろぺろはきだしている。作十はあわてて鉄砲をとりあげると、大蛇の目をねらって、ダーンと一ぱつうちこんだ。
たまは、みごとにめいちゅうした。大蛇はくるしんで、ばたばたのたうちながら、草木をへしおり、石ころをはねとばしてあばれまわり、ごろごろっと下の谷底へおちていった。
作十はおそろしさに、ぶるぶるとふるえながら、いそいで山をかけおりて、家へもどってきた。
そこへ、となりのばんばさん(おばあさん)がやってきて、
「どうしたじゃろうかのう、まえの川の水がまっかになっちょるが。」
という。それで作十は山であったことをはなすと、
「おおの、こわや、こわや。」
と、ばんばさんもふるえあがって、家の中へすっとんでいった。
作十も、家の戸をしめきって、そのまますぐに、ねてしもうたそうな。
その晩、夜中ごろになって、戸口のそとで、白ぺんと黒ぺんが、けたたましくほえはじめた。
作十は気にはなるが、おそろしいので、そとへでることもできず、ふとんの中で、じいっとしておったと。
二ひきの犬のなき声は、だんだんと、おく山のほうへきえていく。
たすけをよんでいるようだが、作十はどうすることもできん。ひと晩じゅうねむれんと、夜をあかしたそうな。
朝になると作十は、すぐに家をとびだして、山の中へはいっていった。そして、大声で、
「おうい、白ぺん、黒ぺんよお。」
と、犬たちの名をよびながら、さがしまわった。けんど、どこにも、犬のすがたはなかったと。
作十は、のまず食わずで、なん日もなん日も、いっしょうけんめい、山じゅうをさがしまわっているうちに、つかれきって、とうとう、たおれて死んでしもうたそうな。
それからまたなん日かたって、村の人たちが、
「作十の顔を、ちっとも見かけんが、どうしたことじゃろ。」
と、うわさをしはじめて、家の中をのぞくと作十がおらん。それで村じゅう総出で、山さがしをはじめた。
「作十やあい。もどれよお、作十よお。」
かねやたいこをならしながら、みねから谷へと、みんながさがしまわったが、どうしたことか、作十のかげもかたちも見えざったと。
ところが、それからひと月ばかりたってのことじゃそうな。村でそま(木こり)のしごとをしておるひとりの人が、山へ木をきりにいった。
ひとしごとして、木のかぶにこしをおろしてやすんでおると、ふと、山のむこうから、
「白ぺーん、黒ぺーん。」
と、犬をよんでいるような声がきこえた。
(ああ、ありゃあ、ひょっとしたら作十じゃなかろうか。)
そうおもうた そま は、村へとんでかえって、みんなに、このことをはなしたそうな。
村人たちも、さっそく山へいってきいてみると、たしかに、
「白ぺーん、黒ぺーん。」
ときこえる。
「おお、よびよる、犬をよびよる。」
けんど、ようききよると、どうやら鳥のなき声みたいじゃったので、
「ありゃあ、作十のたましいが、鳥になって、かわいい犬をよびよるがじゃろう。」
と、みんながいうようになった。
いまでも大物川のそばのふかい森の中で、「白ぺーん、黒ぺーん」と、なきつづける声がするそうな。
その鳥は、高知県の県鳥になっている、八色鳥のことだという話である。
(再話・久保 喬 たかし)
【「高知県の民話」日本児童文学者協会編 偕成社】
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます