八時三十分頃、私は国際教育センターの理事長室に入った。
村田理事長、中津二人ともとても疲れた様子でソファに座っていた。
理事長の机にある灰皿に、タバコの灰がらは一杯溜まっていた。部
屋の中も煙草の匂いが充満していた。
私は急いで窓を開け、灰がらをゴミ箱に捨てた。その後、二人にコ―
ヒを入れた。
「詩音さん、昨夜いろいろと大変だったらしい。ご苦労さん。よくしてくれ
た。ありがとう」と村田はコ―ヒをひと口飲んで言った。
「詩音さんのお陰で、大変助かった。本当にありがとう」と中津もお礼を
言ってくれた。
「いいえ、こちらこそ。新年を迎える時にこんな大きい迷惑を掛けてしま
って、本当に申し訳ございません」
私は思わず涙を流しながら、劉雲の身元保証人と警察官にお詫びし
た。
「劉雲、劉雲、どうしてこんな時、こんなバカなことを・・・」
私は心の中で劉雲に腹が立った。
考えてみれば、亡くなった人は実に楽で幸せな者だ。生前のすべて
の愛しさ、憎しみ、悲しみ、苦しみ、悩み等は、自殺という行為によっ
て、生命の消失とともに消えてしまった。しかし、亡くなった者によって
生まれた新しい悲しみ、苦しみ、悩み、悔しさなどは、亡くなった者の
肉親、友人等の生きている人たちに残し転嫁した。不本意ながら、これ
らの生きている人たちは、死ぬまでずっと世間の冷たい視線を耐えなが
ら、生きて行かなければならない。
自分の手で二度とない尊い命、ただ一回限りの貴重な人生を絶つこと
はあまりにも身勝手な行為で、家庭にも、社会にも自分自身にも無責任
な行為だと思わざるを得ないだろうか。
私が幼い頃、長い間ずっと貧困、病気と闘いながらわたしたち兄弟を
育てきた母はいつもこう教えてくれた。
「世の中命より大事なものがない。親は言葉で表現できないいろいろな
苦労を耐えて、あなたたちを生み育てきた。命を粗末したり、命を勝手に
捨てたりするようなことは、一番の親不孝で、みっともない行為だ。いくら
何があっても、絶対に命を捨ててはいけない。命さえあれば、希望がある。
希望さえあれば、生きていけるんだ。自分の手で二度とない命を絶つこと
が出来るなら、世の中で乗り越えない困難はない・・・」
村田理事長と中津の前で、私は再び母の生前の教えを思い出した。
続く
村田理事長、中津二人ともとても疲れた様子でソファに座っていた。
理事長の机にある灰皿に、タバコの灰がらは一杯溜まっていた。部
屋の中も煙草の匂いが充満していた。
私は急いで窓を開け、灰がらをゴミ箱に捨てた。その後、二人にコ―
ヒを入れた。
「詩音さん、昨夜いろいろと大変だったらしい。ご苦労さん。よくしてくれ
た。ありがとう」と村田はコ―ヒをひと口飲んで言った。
「詩音さんのお陰で、大変助かった。本当にありがとう」と中津もお礼を
言ってくれた。
「いいえ、こちらこそ。新年を迎える時にこんな大きい迷惑を掛けてしま
って、本当に申し訳ございません」
私は思わず涙を流しながら、劉雲の身元保証人と警察官にお詫びし
た。
「劉雲、劉雲、どうしてこんな時、こんなバカなことを・・・」
私は心の中で劉雲に腹が立った。
考えてみれば、亡くなった人は実に楽で幸せな者だ。生前のすべて
の愛しさ、憎しみ、悲しみ、苦しみ、悩み等は、自殺という行為によっ
て、生命の消失とともに消えてしまった。しかし、亡くなった者によって
生まれた新しい悲しみ、苦しみ、悩み、悔しさなどは、亡くなった者の
肉親、友人等の生きている人たちに残し転嫁した。不本意ながら、これ
らの生きている人たちは、死ぬまでずっと世間の冷たい視線を耐えなが
ら、生きて行かなければならない。
自分の手で二度とない尊い命、ただ一回限りの貴重な人生を絶つこと
はあまりにも身勝手な行為で、家庭にも、社会にも自分自身にも無責任
な行為だと思わざるを得ないだろうか。
私が幼い頃、長い間ずっと貧困、病気と闘いながらわたしたち兄弟を
育てきた母はいつもこう教えてくれた。
「世の中命より大事なものがない。親は言葉で表現できないいろいろな
苦労を耐えて、あなたたちを生み育てきた。命を粗末したり、命を勝手に
捨てたりするようなことは、一番の親不孝で、みっともない行為だ。いくら
何があっても、絶対に命を捨ててはいけない。命さえあれば、希望がある。
希望さえあれば、生きていけるんだ。自分の手で二度とない命を絶つこと
が出来るなら、世の中で乗り越えない困難はない・・・」
村田理事長と中津の前で、私は再び母の生前の教えを思い出した。
続く