
正しく言えば、彼は「大学時代に所属していた演劇サークルの後輩・Hの友人」にあたる。
キチソンくん自身も演劇好きで、自分の通っていた(つまり僕らがいた大学とは異なる)大学に演劇サークルまで作ってしまった。
Hもその劇団に所属していたことがあるらしく、一度だけ見に行ったことがある。
Hがスヌーピーの役を演じていたのは覚えているのだけれど、キチソンくんの演技は(そもそも出演していたのかすら)まったく印象に残っていない。
まったくもって失礼な話で申し訳ないのだけれど。
あとで聞いた話だと、その芝居の演出を担当していたのが、ほかならぬキチソンくんだったらしい。
とにかく、気がついたらキチソンくんは僕らの演劇サークルに顔を出すようになっていた。
毎年、9月にやっていた合宿にも参加していたし、オリジナル作品の発表会にも出演していた。
たぶん、その頃にはもう何の違和感もなく、「僕らの仲間」という意識を持っていたのだと思う。
それから10年近くが経った今、僕は結婚披露宴の招待席に座っている。
もちろん、高砂に座っているのはキチソンくん。
その横にいるのは妻であるakichi嬢。
晴れがましい二人の笑顔を見るにつけ、人の縁とはなんと不思議なものかと思わずにはいられない。
前述のように、キチソンくんとは同じ舞台に立ったことがない。
まあ、僕はあまり熱心な演劇部員ではなかったから、それも仕方のないところだ。
僕の先輩である「もりま様」は、しかしキチソンくんとの縁が深い。
同じ芝居に出演していたし、何よりもキチソンくんは「もりま様」のことを尊敬していた。
いつだったか、僕とキチソンくん、そしてHの3人で鴻上尚史の芝居を見に行ったことがある。
キチソン&Hは、根っからの鴻上ファン。
観劇中、何度も感涙にむせていた。
芝居の後、近くの居酒屋であれこれと話し込んだ。
その時に、僕はこんなことを聞いた。
「劇団M(僕らがいた演劇サークル)の中で、役者として尊敬しているのは誰?」
上下関係の厳しいサークルであれば、彼らは一も二もなくこう答えただろう。
「それはもちろん“とみしゅう”さんですよ!」
ところが、彼らはそんな世渡り上手ではない。
少し考えて、彼らは共通した答えを出した。
「“もりま様”ですね」
いつの日か“もりま様”を褒めちぎる文章を書いてみたいと思うのだけれど、それはまた別の話。
ともあれ、彼らは芝居を愛し、鴻上尚史を愛し、僕も尊敬する先輩を尊敬していた。
つまるところ、愛すべき後輩たちということである。
とはいえ、ただ単なる先輩・後輩という間柄、しかも演劇でのつながりがほとんどない状況で、10年以上もの交流が続くわけがない。
僕とキチソンくんとをつなげてきたもの、それはテレビゲームだった。
このブログにも何度となく書いていることだが、ここ数年“もりま様”のお宅を借りて、ほぼ月例のゲーム大会を開いている。
要は、いい歳した大人たちがテレビゲームに興ずる集いである。
そうはいっても大人だから、酒も飲むし、人生も語るし、解散も深夜になることが多い。
“もりま様”の妻・もとちさんも、演劇サークル時代の後輩である。
つまり、ダンナが僕の先輩、ニョーボは僕の後輩なのだ。
ともに、縁浅からぬ関係である。
さらに、もとちさんも僕に似て、なかなかのテレビゲーム好き。
そんなわけで、月に一度の集会所としてお宅を使わせていただくという、無茶を聞いてもらえているわけだ。
キチソンくんは、そんなゲーム大会の常連として、愛車に乗って来てくれていた。
『サクラ大戦』をこよなく愛するキチソンくんは、ゲーマーとしての腕前も相当なものである。
生来のホスピタリティ(もてなしの心)+演出家としてのプランニング能力+大ファンである伊集院光譲りのギャグセンス。
これだけの才能を有する彼を、世の女性が放って置くわけはない。
と思い続けてはや幾年。
ついに彼を認めた(=彼が認めた)女性が現れることとなった。
akichiという名前を初めて目にしたのは、たぶんキチソンくんが管理人を勤める掲示板でのことだったと思う。
当然キチソンくんの友人の一人ではあったのだろうけれども、僕にとっては見ず知らずの人。
特に掲示板上で絡むこともなく、「“空き地”という漢字を連想させるハンドルネームだなぁ」くらいの印象しか持ってはいなかった。
詳細はまったく覚えていないのだけれども、とにかくキチソンくんが某月某日のゲーム大会に、「彼女を連れて行きます」と宣言したことがあった。
おぉ!ついにキチソンに春が来たか!と、もりま様一家ともども、「まだ見ぬ君」の登場を心待ちにしていた。
そうして現れたakichi嬢は、初対面という緊張感を差し引いても、朗らかで利発な女性であることがよく判った。
もっと突っ込んだ言い方をしてしまうと、「あぁ、この人もバカなんだなぁ」と感じた。
ここで言う「バカ」という表現については、ぜひとも補足しておきたい。
TBSラジオの名物番組「コサキンでワォ!」を聞いておられるかたなら、「バカでぇ~」という表現が上級の褒め言葉であることをご理解いただけると思う。
この番組における褒め言葉は、世間一般のそれとは大きく異なる。
すなわち、小堺一機さん&関根勤「意味ねぇ~」「バカでぇ~」「くだらねぇ~」を口にする時は、その対象物を罵倒しているのではなく、むしろ面白がっている(高く評価している)のである。
ナンセンスなものとは、その言葉通り「意味のない」ものである。
意味がないからこそ面白い、というものがこの世には数多く存在する。
石の中から玉を探し出す能力は、笑いにおいてもとても大事なことだと僕は思っている。
キチソンくんは、もちろんその能力に秀でていたし、その彼が認めたakichi嬢もやはり「笑いのわかる女」だった。
ゲーム大会そのものは昼から始めるのだけれど、ほとんどの場合は皆で夕食を一緒にとる。
つまり、その時間までは確実にゲームをやっているってことだ。
で、akichi嬢が初めてゲーム大会にきたその日は、確かキチソンくんの車でファミレスに行ったと記憶している。
その帰り道、いつものように僕が皆から言葉責め(?)を浴びせられていたのだけれど、akichi嬢もその輪にちゃんと加わっていたことを覚えている。
会って数時間しか経っていない人間を、愛をもっていじることができる。
これはなかなかできるものではない。
僕は表面上歯軋りをしながらも、内心では「さすがはキチソンくんの彼女だなぁ」と感心していた。
どれだけ仲のよいカップルであっても、ただそれだけを持って結婚にこぎつけるわけではあるまい。
経済的・精神的な事情。諸々のタイミング。
数多くの不確定要素が、愛し合う二人の足元に常に横たわっているわけだ。
その後、何度なくゲーム大会にやってきた二人は、穏やかで暖かな空気を醸し出しつつも、テレビゲームにおいては容赦なく敵対するような「大人の恋愛関係」を僕らに提示してくれた。
そんな二人を見るたびに、僕は「幸せそうなカップルだなぁ」と思った。
しかし、その関係の先にあるものについては、特に言葉にして聞こうとは思わなかった。
もちろん、「この二人が、このまま結婚してくれたら素敵だよなぁ」と一方的な願望は抱いていたのだけれど。
そう…そして今、その願望は現実のものとなった。
バージンロードを、お父様とともに歩いてきたakichi嬢。
どうやら打ち合わせと違う行動を取ってしまったらしいお父様に、「義父(おとう)さん、義父さん」と小声で突っ込みを入れていたキチソンくん。
永遠の愛を誓う二人の姿に、僕もこう呟いた。
「笑いの神様、どうかこの二人に最大の祝福を」
コメント一覧

とみしゅう

キチソ\ン

hiromu

とみしゅう

様

キチソ\ン
最新の画像もっと見る
最近の「友人」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事