やっつけ仕事

EverQuest2に登場する"本"を勝手に集めた場所。一部日記有り。08/06/20更新終了。管理は続行

ブラッド・オブ・ベア(3部作)

2006年05月24日 | EQ2 本
■ブラッド・オブ・ベア 第一部

伝説とはいにしえの過去について語るものである。
ノースランドの語り手たちはこの物語を伝説として扱っているが、その内容は比較的最近の出来事である。

“成長”の季節が巡りくると、木々の梢には鳥たちの姿が戻り、陽は空高く昇るようになる。
そしてノースランドの子らは、クマたちの目醒めによっていよいよ“成長”の季節が訪れたことを知るのである。
冬眠から醒めたばかりのクマは、腹を空かしてしばし人里まで下りてくる。
このため、村々で選ばれた家族が番人となり、クマたちを里に近づけないようにするのであった。

ある日、Kivaという若い女性が薪を集めに森へ行った。
家に帰る途中、氷に足を滑らせて転んでしまい雪の上に薪を撒き散らしてしまった。
立ち上がろうとする彼女に大きな手が差し出された。
彼女がその手を取り見上げると、そこには、彼女が今まで見たこともないような背の高さの男が立っていた。

「脅かすつもりはなかったんだ」と男は言った。
声量豊かな声にはどこか、Kivaの耳には聞き覚えのない奇妙な抑揚が感じられた。
男は彼女の手を取っていとも易々立たせると、散らばった薪をまた拾うのも手伝ってくれた。
薪を運びさえしてくれた。

ふたりは一緒に帰途を歩き、Kivaの野営地のはじのところまで帰ってくると、男が彼女に微笑みかけた。
「あなたは、だれ?」とKivaが問う。
「私はBennoという者だ」と男は応えた。
「お役に立ててよかったよ」そう言ってBennoは頭を深く下げ、Kivaに向かってお辞儀をすると、現れた時とまたおなじように静かに森へと姿を消した。

Kivaの家庭は村のクマ番の役目を受けていた。

彼女も番人の一員だ。
Kivaは夜番の見張りをするのが好きだった。
槍をかたわらに腰をおろして、村を守るため外を見張る。
そうして長い夜を過ごす。

彼女はいつも夜の見張りの番に就くのを楽しみにしていた。
キャンプに燃える焚き火の光が届くか届かないかのところに落ち着いて、星々を眺めるのが好きだった。
“成長”の季節の訪れはいたるところに感じられたが、それでも夜は長かった。

空気は体が引き締まるように冷たく、澄みわたっていた。
星の瞬きはまぶしいほどのものだった。
手を伸ばしたら触れられるのではないかというほど輝いていた。

ある夜座って番をしていると、近くの茂みに葉のすれるような物音が聞こえた。
彼女はさっと立ち上がり、すぐそばの槍をぐっと構えて握り締める。
「そこにいるのはだれ?」そう声を放つと、用心しながら音の聞こえたあたりに近付いた。
けれどもそこには何もいなかった。

雪の表にクマのいた跡がわずかな光に照らし出されているだけだった。
Kivaは少しだけ眉をひそめると、村に注意を配っておくことにしようと思った。
しばらく空を眺めるのはやめだ。

見張りのあいだ、KivaはずっとBennoのことを考えていた。
あの人は村の者ではない、それはわかった。
彼の口調には、どこのものともよくわからない奇妙な抑揚が含まれていたから。

だが彼はKivaと同じく、ちゃんとハラス語で話をしていた。
それになによりBennoはハンサムな人だった。

夜空を見上げて星を眺め、彼はいったいどこから来た人なのだろうかと考えた。
またあの人に会うことはできるのだろうかと。

そのときだ。

先ほどクマの痕跡があった茂みから再び物音が聞こえてきた。
Kivaはしっかり槍を構えて、物音のほうへとにじり寄っていく。
相手に気取られないように、音をたてないようにして。

森のはじにはBennoが立っていた。
Kivaを認めると、彼はにこりと微笑んだ。
「迷惑に思われないといいのだが、きみにもう一度会いたいと思っていたんだ」思わず顔を赤らめたKivaに、Bennoは少しだけ歩み寄る。

「焚き火の脇に腰を下ろして、きみは夜空を見上げていたね。
それを初めて見かけたときに、きみは私とおなじなのだとわかったよ。想像の翼をはばたかせるのが好きなのだなと」

そのとき突然、すぐそばの藪の中からクマの気配が届いてきた。

Kivaは即座に槍を構え、音のした方に向きを変える。
だがBennoは彼女の腕に手を置き、それを制した。

「クマは命を奪うために来たんじゃない。
様子を見るために来たんだよ」Bennoの声色は柔らかだった。

「クマたちは、北の民の中に仲間を探しにくるのだという話だよ。
仲間を見つけ、力をわかちあうためにだそうだ」森の中から現れたのは体の大きな毛むくじゃらのクマだった。

クマはしばらくKivaとBennoを眺めていたが、やがてのっそりとした足取りで再び森へと消えていった。

「ほらね。危害を加えに来たわけじゃないんだ」Bennoはそう言って微笑むと、軽く手を振って森の中へと消えていった。

それから何日かの間、Kivaは彼のことを探しつづけたが、Bennoの姿を見つけることはできなかった。
そうするうちに、森で薪を集めたあの日、転んで頭を打ったのだろうと彼女は考えるようになった。
本当は実在しないBennoという男と、空想のなかで語らっていたのだろうと。

ノースランドにも“成長”の季節は訪れた。
けれどこの地のものごとの移ろいは、遠い南方の地ほど速やかなものではない。

そのような折の来訪を迎えれど、雪や氷は大地をあまねく覆いつくす。
だが深く知る者の目から見てみれば、これでもだいぶ大地は目覚めてきたほうだ。

侵略者の手によって、散り散りとなったノースランドの子供らは、新たな季節を向かえるごとに強く心に思いを描く。
いま訪れるこの季節こそ、故郷を取り戻せる時節となるのだと。
侵略の手はKivaの村にはいまだ届いていなかった。



■ブラッド・オブ・ベア 第二部

ノースランドの民の間で語り継がれる伝説の第二部。
“戦禍の時代”にもかかわりをもつ物語である。
第一部にて、Kivaは異邦人Bennoと出会った。

侵略者の手はKivaの村までいまだ届いてはいなかったけれど、村の者たちは怠ることなくさまざまな備えを用意していた。

“成長”の季節も訪れて、これまで通行不可だった道の数々も、いまでは容易に歩むことができる。
人々は深く掘り下げた塹壕に鋭く仕上げた釘や杭など隙間なく敷き詰めた。

毎夜監視も抜かりなかったが、ひと時とはいささか趣きも変わり、ひとり目覚めたクマへの用心のためでなく、侵略者の現れるいかなる兆しをも見逃さないためのものでもあった。

Kivaが再びBennoの姿を目にしたのは、川の近くでさらに材木を採集しているときだった。
Bennoは一人で、溶けかけた氷の端に立ちどまり、なにやら水中を凝視しているところだった。

Kivaが挨拶に声をかけようとしたその矢先、Bennoは水中に腕を伸ばし、目にも止まらぬ一撃を放った。
すると凍った川のほとりには魚が打ち上げられていて、ぴちぴち飛び跳ねているのであった。

捕らえた魚を拾い上げようとかがんだところで、Bennoは自分を見ているKivaに気がついた。
「そんなふうにして魚を捕まえる人なんて見たの、初めてよ」Kivaはそう言うと、久しぶりに会えたBennoのところへ近寄っていく。

その感想を耳にして彼はおかしそうに笑う。
それからKivaに向かって、ほとりの凍ったところから少し離れているようにと言った。
そうして川岸に身構えて、水の深みの暗いところをじっとにらむ。

身動きひとつしなかった。
そうやってあまりに長い時間が経ったので、彼がその場に凍りついてしまったのではないかとKivaは不安になってしまう。

するとふとBennoは突然思い出したように前傾姿勢の構えをとると、目にも止まらぬ勢いで水中に腕を突き刺した。
はたして岸に目をやると、また一匹、魚が飛び跳ねているのだった。
「私のクランだと魚はこうやって釣るものなんだ」Bennoは魚を手にとって、腰に帯びていたぼろぼろの袋に放り込む。

Kivaは笑った。

「そんなのいままで見たことないわ。
あなたのクランというのはきっと、この辺りの人たちではないのね」Bennoがちらりと彼女の顔を見る。
「いや、そんなことはない」そう言って振り向き、立ち去ろうとしたのだがやはり留まって、ためらうように口を開いた。

「私のクランがどこから来たのか、興味はあるかい?」 Kivaはすぐには返事をせずに、しばしの間考えこんだ。
「遠いところなの? あたし、見張りの番をしなくちゃいけなくて。暗くなるまでに帰らなくてはならないの」Bennoはうなずいた。
「暗くなるまでには戻れるさ」それからなんの注意もなしに、彼女の腕を抱えると、Bennoはいきなり川を歩いて渡ろうとしはじめた。

「Bennoったら! 川の氷は溶けているのよ!」Kivaはおどろいて息が止まってしまうかと思った。
「水は冷たいわ。つかると痛いくらいでしょう。気は確かなの?」Bennoは愉快そうに大笑いした。
「こんなのなんて何でもないさ。私とて北の民なんだ!」 雪の積もった枝をいくつも幾つもかきわけ、Bennoは前へと進んでいく。

雪はまだ深く、枝という枝が雪の重みで川岸のところまで垂れ下がっているほどだった。
Kivaはこれまで川のこちら岸を歩いたことがなかった。
生まれて初めて目にする景色にすっかり魅了されたかのように、あたりをきょろきょろ見回しながらBennoのすぐ後を付いていく。

森の樹々は高く太く成長し、密に茂っている。
上のほうでは枝と枝とがあまりに密集しているものだから、地面には雪が積もっていないほどだった。

そうしてようやく二人がたどりついたのは、ものすごく大きな一本の巨木だった。
Bennoがかがみこみ、足元の茂みを脇にどける。
すると地面に穴が現れた。

Kivaはけして背の高いほうではないのだが、それでも穴は背中を丸めて身をかがめなければ入っていけないくらいの大きさだった。
これではBennoは中に入るのに、そうとう窮屈な思いをしていることだろう。
なにしろBennoはノースマンでも一番長身な者よりも背が高かった。

だがそのBennoがしじゅう出入りしていることが示しているように、いったん中に入ってしまえば背筋をを伸ばして楽々と立っていることができた。

洞窟のような穴はどこまでもどこまでも続いているようだった。
Bennoはロウソクに明かりを灯すと、Kivaに蜂蜜酒を勧めてくれた。

あったかくて豊かな味わいだった。
おまけに乾燥ベリーもくれた。

「他の人たちはどこにいるの?」とKivaが尋ねると、Bennoの表情に暗い影がよぎる。
口を開いた彼の声は、落ち着きのあるやわらかなものだった。

「私は一族最後の生き残りなんだ」そう言ったあとに少し考え、口にしたばかりのことを訂正するように、一言つけ足した。
「一族というよりは、親族だな」座りこんだBennoはしばらく黙ったままでいた。
「“成長”の季節には、私たちはここを生活の場にしていた。

だが他の季節はよそで暮らしていたんだ。
そして侵略者に目をつけられた。
生き延びたのは私ただ一人だけだった」 「ごめんなさい、そんなこと聞いてしまって」Kivaは謝った。

「でも侵略者はまだ、ここまで来てはいないから」「だがそれも時間の問題なのだろう」Bennoは静かに言った。
「とはいえ、やつらがこれ以上望むままものを手に入れることはない。

やつらとて、一敗地にまみれ敗れ去る時がきたんだ。

やつらを追い払ったら、私はどこかのクランに入れてもらおうと思っている。
私の手にした力は、新しい仲間たちの力になるんだ」 Bennoはひとしきり空っぽのほら穴を見回した。
そうしておもむろに顔を上げる。

「さあ、行こう! そろそろ戻る時間だ。君を待っている人々のところへ」彼は立ち上がり、Kivaの手をとる。

するとしばらく静止して、検分でもするかのようにまじまじとその手を眺めていた。
彼の手のひらと比べると、Kivaの手のひらは子供のように小さかった。

Bennoは彼女に微笑みかけると、入り口の茂みをかきわけて、森へ続く道を導いていった。

■ブラッド・オブ・ベア 第三部

ノースマンの勝利に貢献したKivaとBennoが登場するノースランドの伝説の最終章である。


川のところまで戻ってくると、Bennoは体ごとKivaを抱え上げ、凍てつくような冷たい流れを渡ろうとした。
その時ひゅっと矢が飛んできて、二人の脇をかすめていった。
はっとするうち、放たれた矢がまた1本と空気を裂く。

Bennoは彼女を降ろすことなく踵を返し、すぐさま森に引き返す。
彼が発した怒りの声は、獣の咆哮のようだった。

“地獄の軍団”の魔の手がとうとう、ノースランドのこの地に届いてしまったのだ。

「下流から渡ることにしよう」 昏いBennoの瞳には燃えるような光が宿っていた。
「君のことは必ず、村まで送り届ける。奴らの狙いは私だ」
「あいつらは殺す相手なんて選ばないわ」 Kivaは言ったが、Bennoは首を横に振った。

「奴らは私の姿を見た。私がどこの者なのか、もうばれてしまっている」
抱え上げていたKivaの体をゆっくりと降ろし、Bennoは両手で彼女の顔を包んで言った。

「私の種族がわかるかい?」 そう言われてKivaははっと息をのむ。
ようやく彼女にもわかったのだった。
Bennoはクマの血族の者だった。

Bennoは頷いた。

「そうだ。私はクマなんだ。初めて姿を目にした刹那から、君とは一緒にいなくてはいけないと感じたよ。
だから私はこの身をいまの姿に変えたんだ。さあ、急がなければ。“地獄の軍団”はこの血を手に入れるため必死に私を追っている。連中はクマの血を飲むことで力が得られると思っているんだ……。そんなことでクマになることなどできないのに」

そうしてBennoは、Kivaの額に口づけをした。
「これで君にクマの印がついた」 Kivaは真剣に耳を傾けた。

Bennoが額に印をつけてくれたことにより、彼女はクマの鋭い聴覚を手に入れたのだということだった。

ずっとさかのぼった川上のほうで侵略者たちが悪態をつく声さえ聞きとれるようになっていた。
彼女はBennoのすぐ後について森の中を進んでいく。

川を安全に渡れそうな場所に着くと、BennoはふたたびKivaを抱え上げ、川を渡って村のほうへと向かっていった。

「私の洞穴に避難すれば、しばらくは君たちも安全だ」 Bennoの言葉にKivaは大きくかぶりを振った。
「いいえ、私たちは隠れはしないわ。奴らはノースランドすべてを手に入れられると思っているけど、絶対にそうはさせない。
あいつらをここで倒せば、わたしたちの仲間みんなに勇気を与えられる」 Bennoは頷いた。

「それならば私も戦おう」 2人はKivaの村へと急いで戻り、皆に警告をしていった。

村人たちが計画を練るあいだ、砦にいた者たちは一斉に動き始めた。

「“地獄の軍団”が川まで来ています。オークだけのようです。ただ……何かを怖がっているようにも見える」 Kivaが手短に紹介を済ませると、村の長老たちに向かってBennoが告げた。

「よし、やつらを打ち倒す時が来たぞ。
ハラスの向こうまで押し返すのだ」 村の指導者たちも賛同の声をあげた。

今回はこちらから攻撃を仕掛け、やつらを倒すのだと。
Bennoは一同の顔を見た。

「私も手伝います。これで……仲間たちの仇討ちができる」
「あいつらを川に落として、凍えさせてしまいましょう。一度川に入ったら、あの重い装備が災いして川岸にたどり着けなくなるでしょう」

Kivaのことばに、Beenoが続ける。

「私が川を渡り、敵の注意を引く。奴らがそれに気を取られている間に、攻撃を仕掛けてください」

短い話し合いの後、長老たちは計画の実行を決断した。
全滅とまではいかなくとも、直接剣を交えて戦うオークの数は減らせるだろうと考えたのだ。

かくして村人たちは川へ向かって進軍した。
ほどなく一行は川岸に群居している“地獄の軍団”をの姿をみとめた。
敵軍は川を渡ろうとしているが、どのように渡るかで揉めているようだった。

Bennoは1人離れて進み、対岸へ向かう。
森の近くにいるBennoを見つけたオークたちは雄叫びを上げながら槍や矢の雨を次々と放った。
だが攻撃がぎりぎり届かない位置に立ち、Bennoは挑発を続けたのだった。
「今よ!」と勇ましく声をあげると、身を隠していた村人と共にKivaも突撃していった。
驚いたオークたちはいったいどこに逃げればいいのかわからず戸惑う。
あるオークは川に飛び込み、またあるオークは村人へと向かっていった。

村人たちは力を合わせ、混乱したオークをすべてを凍りつく川に突き落とした。
凍え、あるいは溺れ、オークの軍勢は力尽きていった。

このときの勝利は“地獄の軍団”との戦いにおける転換点となる。

村人はすぐに勝利を仲間たちに伝えた。
その知らせに皆は勇気づけられ、故郷は取り返せるという希望が生まれた。

ハラスを取り返すため、そうしてクランどうしが協力し固い同盟が生まれたのだった。

後にKivaとBennのふたりは結ばれた。
そのおかげでクマの力強さがノースマンの血にも流れるようになったのだ。


■蛇足:バーバリアン=クマという認識になりました。


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