今日は【比較口承文芸論】という試験がありました。
そこで“授業中に説明した類話について1つ選び、説明せよ”というのがありました。
予め勉強してまとめていたので、せっかくなので今日はそれをUPしたいと思います。
グリムのKHM(1)に『ルンペンシュテュンツヒェン』(Rumpenstünzchen)というお話があります。これは『がたがたの竹馬小僧』というお話になり、版を重ねる毎に微妙にその内容が変わりました。
『ルンペンシュテュンツヒェン』では、むかし小さい娘が亜麻を紡いで糸玉を作ろうとしても、それがどうしても金になってしまう(2)、と悲しんでいると、どこからともなく一寸法師(小人)が現れて、「わしがお前を難儀からたすけてやる。若い王子さんが通りかかってお前と結婚してつれてゆくだろう。だが、お前は初めての子をわしのものにしてくれると約束しなくちゃいけない」として、小さい娘に約束(契約?(3))します。
その後、美しい年若な王子さまが通りかかり、小さい娘をお妃にします。一年後、彼女は可愛らしい男の子を産みます。すると例の一寸法師がどこからともなく現れて、彼女の子供を欲しがるので、彼女はこの子の変わりにありったけの高価なものを並べて見せましたが、一寸法師は何ひとつ受け取らず、彼女に三日の猶予(4)だけを与えて去りました。最後の日になっても小人の名前が分からなければ、小人に子供をやらなければならないのでした。そして幾ら考えても名前が分からなかった彼女は、女中に頼んで一寸法師がやってきた森(5)へと行かせます。女中はそこで夜、大きな火の周りをぐるぐるまわっている一寸法師を見つけます。
「王子のお妃めに、わしの名が『ルンペンシュテュンツヒェン』だってえことが分かったらなぁ」
女中は急いでこれを妃に伝えます。三日目、一寸法師は現れますが、名前を知った妃は初め、色々な名前を言っておどけてから、最後に「もしかしたらお前、ルンペンシュテュンツヒェンと言うのじゃなくて?」と答えます。一寸法師はこれを聞き、ビックリ仰天、「悪魔が教えやがったに違いない」と捨て台詞を残して、おたまに乗って窓から外へ飛んで去っていきました。
これは『がたがたの竹馬小僧』では小さい娘の父親が登場し、それで王様に謁見したあと、娘が藁を黄金に変えられる力を持っているという話で進みます。実際に、そんな力はないのですが、一寸法師のお陰で小さい娘は助けられ、妃になります。でもやはりここでも一寸法師の援助という行為は、妃の子供との交換が条件でした。一寸法師の名前を知るきっかけも、王様が狩から帰ってきた後、一寸法師の歌を聞いた、という話を受けて、名前をしることが出来ます。
「名前の魔力」は、日本では『大工と鬼六』という類話があり、いずれも主人公に対して超自然的な存在なもの(一寸法師、鬼、巨人など)が援助を施してくれるということです。しかしそれは無償ではなく、契約であり何かとの交換が条件です(例えば妃だったら子供、「大工と鬼六」ならば目玉など)。しかしさらに面白いのは、それらの交換は超自然的存在なものたちの“名前”を知ることで、契約破棄と同じ効力を発揮します。また名前を当てることで、超自然的存在のものを思うように扱える力を得ることになります。それはつまり、名前を知らないと、逆に相手に思うようにされてしまう、ということも考えられます。
たとえば「陰陽師」(6)という小説でも、安倍晴明(7)が人の名前は「呪」と同じ、と言っているような部分があるのですが、それもこの民話に照らしあわすことが出来ると思います。
僕は子供を欲しがったのは、子供は女性からしか生まれてくることが出来ないという点で、身体の一部を奪われるよりも大切なものだと考えます。なので大工と鬼六の場合、大工は男性で、目玉をとられたのではないか、と考えます(ちなみに「鬼六」は川の守り神、水神的存在と考えられます)。
《注釈と感想》
(1)『グリム兄弟の子どもと家庭のためのメルヒェン集』=「いわゆるグリム童話集」
Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm. (=KHM) 1812/15
(2)亜麻が金になって、高価になっていると言うのに哀しい、というところがいかにもメルヒェンw
(3)たとえば魔女になるための条件も、悪魔との「契約」による。『ハウルの動く城』も、火の悪魔カルシファーと契約したハウルは、自らの心臓をカルシファーに与えている。
(4)三日の猶予:3という数字に何らかの意味があるのか? 日本では奇数を陽数ともいう。
(5)森は、中世ヨーロッパでは異界扱い。墓場など。異次元空間扱い。『コープス・ブライド』は良い例。『ハリー・ポッター』では禁じられた森、などと言われている。
(6)夢枕獏『陰陽師』文春文庫
(7) 921-1005. 平安中期の陰陽師。式神を使い、あらゆることを未然に防いだとされる。
(8)TOP絵『大工と鬼六』:「デジタル絵本サイト」よりhttp://www.e-hon.jp/index.htm
そこで“授業中に説明した類話について1つ選び、説明せよ”というのがありました。
予め勉強してまとめていたので、せっかくなので今日はそれをUPしたいと思います。
グリムのKHM(1)に『ルンペンシュテュンツヒェン』(Rumpenstünzchen)というお話があります。これは『がたがたの竹馬小僧』というお話になり、版を重ねる毎に微妙にその内容が変わりました。
『ルンペンシュテュンツヒェン』では、むかし小さい娘が亜麻を紡いで糸玉を作ろうとしても、それがどうしても金になってしまう(2)、と悲しんでいると、どこからともなく一寸法師(小人)が現れて、「わしがお前を難儀からたすけてやる。若い王子さんが通りかかってお前と結婚してつれてゆくだろう。だが、お前は初めての子をわしのものにしてくれると約束しなくちゃいけない」として、小さい娘に約束(契約?(3))します。
その後、美しい年若な王子さまが通りかかり、小さい娘をお妃にします。一年後、彼女は可愛らしい男の子を産みます。すると例の一寸法師がどこからともなく現れて、彼女の子供を欲しがるので、彼女はこの子の変わりにありったけの高価なものを並べて見せましたが、一寸法師は何ひとつ受け取らず、彼女に三日の猶予(4)だけを与えて去りました。最後の日になっても小人の名前が分からなければ、小人に子供をやらなければならないのでした。そして幾ら考えても名前が分からなかった彼女は、女中に頼んで一寸法師がやってきた森(5)へと行かせます。女中はそこで夜、大きな火の周りをぐるぐるまわっている一寸法師を見つけます。
「王子のお妃めに、わしの名が『ルンペンシュテュンツヒェン』だってえことが分かったらなぁ」
女中は急いでこれを妃に伝えます。三日目、一寸法師は現れますが、名前を知った妃は初め、色々な名前を言っておどけてから、最後に「もしかしたらお前、ルンペンシュテュンツヒェンと言うのじゃなくて?」と答えます。一寸法師はこれを聞き、ビックリ仰天、「悪魔が教えやがったに違いない」と捨て台詞を残して、おたまに乗って窓から外へ飛んで去っていきました。
これは『がたがたの竹馬小僧』では小さい娘の父親が登場し、それで王様に謁見したあと、娘が藁を黄金に変えられる力を持っているという話で進みます。実際に、そんな力はないのですが、一寸法師のお陰で小さい娘は助けられ、妃になります。でもやはりここでも一寸法師の援助という行為は、妃の子供との交換が条件でした。一寸法師の名前を知るきっかけも、王様が狩から帰ってきた後、一寸法師の歌を聞いた、という話を受けて、名前をしることが出来ます。
「名前の魔力」は、日本では『大工と鬼六』という類話があり、いずれも主人公に対して超自然的な存在なもの(一寸法師、鬼、巨人など)が援助を施してくれるということです。しかしそれは無償ではなく、契約であり何かとの交換が条件です(例えば妃だったら子供、「大工と鬼六」ならば目玉など)。しかしさらに面白いのは、それらの交換は超自然的存在なものたちの“名前”を知ることで、契約破棄と同じ効力を発揮します。また名前を当てることで、超自然的存在のものを思うように扱える力を得ることになります。それはつまり、名前を知らないと、逆に相手に思うようにされてしまう、ということも考えられます。
たとえば「陰陽師」(6)という小説でも、安倍晴明(7)が人の名前は「呪」と同じ、と言っているような部分があるのですが、それもこの民話に照らしあわすことが出来ると思います。
僕は子供を欲しがったのは、子供は女性からしか生まれてくることが出来ないという点で、身体の一部を奪われるよりも大切なものだと考えます。なので大工と鬼六の場合、大工は男性で、目玉をとられたのではないか、と考えます(ちなみに「鬼六」は川の守り神、水神的存在と考えられます)。
《注釈と感想》
(1)『グリム兄弟の子どもと家庭のためのメルヒェン集』=「いわゆるグリム童話集」
Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm. (=KHM) 1812/15
(2)亜麻が金になって、高価になっていると言うのに哀しい、というところがいかにもメルヒェンw
(3)たとえば魔女になるための条件も、悪魔との「契約」による。『ハウルの動く城』も、火の悪魔カルシファーと契約したハウルは、自らの心臓をカルシファーに与えている。
(4)三日の猶予:3という数字に何らかの意味があるのか? 日本では奇数を陽数ともいう。
(5)森は、中世ヨーロッパでは異界扱い。墓場など。異次元空間扱い。『コープス・ブライド』は良い例。『ハリー・ポッター』では禁じられた森、などと言われている。
(6)夢枕獏『陰陽師』文春文庫
(7) 921-1005. 平安中期の陰陽師。式神を使い、あらゆることを未然に防いだとされる。
(8)TOP絵『大工と鬼六』:「デジタル絵本サイト」よりhttp://www.e-hon.jp/index.htm