あの山脈に沿うて沼沢地があり、その毒気が、これまで開拓した場所をすっかり害っている。
あの腐った水溜りにはけ口を作るという最後の仕事が同時に最高の開拓事業なのだ。
おれは数百万の人々に、安全とはいえなくとも、働いて自由に住める土地をひらいてやりたいのだ。
のは緑に蔽われ、肥えている。人々も家畜もすぐさま新開の土地に気持ちよく、大胆で勤勉な人民が盛りあげたがっちりとした丘のすぐそばに移住する。
外側では潮が岸壁まで荒れ狂おうとも、内部のこの地は楽園のような国なのだ。
そして潮が強引に侵入しようとして噛みついても、協同の精神によって、穴を塞ごうと人が駆け集まる。
そうだ、おれはこの精神に一身をささげる。
知恵の最後の結論はこういうことになる。
自由も生活も、日毎にこれを闘い取ってこそ、これを享受するに価する人間といえるのだ、と。
従って、ここでは子供も大人も老人も、危険にとりまかれながら、有為な年月を送るのだ。
おれもそのような群衆をながめ、自由な土地に自由な民と共に住みたい。
そうなったら、瞬間に向かってこう呼びかけても良かろう、留まれ、お前はいかにも美しいと。
この世におけるおれの生涯の痕跡は、幾千代を経ても滅びは住まい。ーーーー
このような高い幸福を予感しながら、おれはいま最高の瞬間を味わうのだ。
(ファウスト、うしろに倒れる、死霊たちが彼を抱き止めて、地面に横たえる)
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この世の知識の全てを身につけ、贅沢を味わい尽くし、それでも人生に満足しなかったファウスト博士が最後に得た最高の瞬間とは。これが答えだったとゲーテが書いています。
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