『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『なんとなく、クリスタル』 田中康夫

2014-12-07 | Books(本):愛すべき活字

『なんとなく、クリスタル』
田中康夫(日:1956-)
1981年・河出書房
1983年・河出文庫
2013年・河出文庫(新装版)

++++

「アーシー」

・・・earthy 本来は、「土のような」という意味ですが、「アーシー」というと、非常にコンクリート・ジャングルの中の土色というイメージになります。


「レイ・ブラッドベリー」

・・・S・Fですよ、S・F作家。でも、「たかがS・Fです」とか、「S・Fには賞をやれない」なんて、大人気<おとなげ>ない註を付けるような「純」文学作家面はしませんから、ご安心下さい。


「クレージュ」

・・・1965年、ミニ・スカートで注目されたアンドレ・クレージュは、南フランス生まれで土木工学科出身の異色デザイナー。ジスカールデスタン大統領夫人御愛用ブランド。なぜか日本では、パステル調の原色セーターと、お弁当箱型バッグのみに人気が集中。


「フィラデルフィア・ソウル」

・・・つい数年前には、ザ・スリー・ディグリーズ等、軟弱ソウルの代名詞として軽蔑的に使われていたこの言葉も、テディ・ベンダーグラスの変身により、尊敬のまなざしの言葉となりました。


「ハマトラ」

・・・ヨコハマ・トラッドの略。P18の早苗の服装は、その代表的着こなしのひとつ。フクゾーのトレーナー、キタムラのバッグ、チャーリーのくつも、ハマトラの基本的ワードローブ。この箇所の服装は、自由が丘のチャ・チャや原宿のマーシー・マーシーといったショップで販売される商品を思い浮かべていただくとよい。


「言問団子」

・・・向島五丁目は隅田川べりにある団子屋さん。茶色、白色、黄色と三色のお団子のうち、なぜか黄色はおいしくないという通の方もいらっしゃいます。


「紀ノ国屋オンリーというのも能がない」

・・・1980年末に吉祥寺店がオープンし、大変イメージがおかしくなりました。もうこれからは、シェル・ガーデンの時代です。註118も参照のこと。


「私の小さな丘」

・・・クリトリスのことです。


「フクゾー」

・・・いつ行ってもトレーナーが品切れで、予約する際の店員の態度のひどさは、beyond description だと怒る少女も多いのです。”驕る平家は久しからず”お客様には100%サービス精神で、接しましょうね。 

++++


おもしろいから、本文じゃなくてNOTESの方から抜粋(↑)しちゃいました。

いやー、どれも捨てがたくて、思わず全文掲載しそうになっちゃったぜ。

時を忘れて読んじゃいますねぇ。


これ、俺、リアルタイム(1981年)で読んでないので。

さっそうと田中康夫(一橋大学の学生)が現れた当時の、本書の社会現象化、

そして文壇や保守層からの反発、

・・・についての論評は省略します。


著者ノート(あとがき的なもの)で田中康夫自身が触れてるし、

なにより、俺的にとっても信頼している高橋源一郎が解説で

「唯一無二である」

どころか

「マルクスが生き延びていたら、彼が『資本論』の次に書いたのは、『なんとなく、クリスタル』のような小説ではなかったろうか」

とまで言ってるんだから、まあ、これ以上、書き加える言葉はございません。


34年経って読んでる俺からしたら、感じるのは

「時は流れるんだな」

「80年間か90年間生きて、みんな必ず死ぬんだな」

ってな無常観で。


当時、本書に反発した人たちは、主人公の女子大生・由利はじめクリスタルな若者たち、

つまり由利の言葉を借りれば、

「なんとなく気分のよいものを、買ったり、着たり、食べたりする。

そして、なんとなく気分のよい音楽を聴いて、なんとなく気分のよいところへ散歩しに行ったり、遊びにいったいする。

二人が一緒になると、なんとなく気分のいい、クリスタルな生き方ができそうだった」

な登場人物たちに嫌悪感を覚え、

「中身が無い」

「空虚」

「軽薄」

と批判した訳ですが。


今読んで湧いてくるのは、

批判された/した人たちの両方が今じゃもうお年を召していて、場合によっては死んでたりするんだろうなー、ってな感慨で。


作中に数えきれないほど列挙されたブランドたちは、役割を終えて消えていったモノもあれば、生きてはいるけどすっかり色褪せちゃったモノもある。

当時の風俗(エロい意味じゃないほうデス)をこんだけつまびらかされちゃうと、

しかもその生き生きした描写を30年以上経って読むと、

なんだか逆に、死の方を意識させられてしまう。


1980年6月に20歳だった由利が、実在してれば今年で54歳。

間違いなく、彼女は今も東京に住んでいるだろう。

果たして彼女の暮らしぶりは、今でもクリスタルなんだろうか?


※54歳を年寄り扱いしてるわけではないけど、ハタチの時とは違うはずなんで、クリトリスじゃなかった、クリスタルのその後を知りたい。

ってなコトで、先月(2014年11月)発売された『33年後のなんとなく、クリスタル』でも読んでみよっかぁ。


<Amazon>

なんとなく、クリスタル (河出文庫)
田中康夫
河出書房新社
なんとなく、クリスタル (1981年)
田中 康夫
河出書房新社
33年後のなんとなく、クリスタル
田中 康夫
河出書房新社
なんとなく、クリスタル (新潮文庫)
田中 康夫
新潮社
新装版 なんとなく、クリスタル (河出文庫)
田中 康夫
河出書房新社
なんとなく、クリスタル (1983年) (河出文庫)
田中 康夫
河出書房新社




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