つらつら日暮らし

日蓮聖人が示す「五戒」と「五常」の関係について

以前、【五戒と五常の関係について】という記事を書いたことがあったのだが、その斜め上的な続編記事である。

 問て曰く、何を以て之を知る。仏法いまだ漢土に渡らざる已前の五常は、仏教の中の五戒たること如何。
 答て曰く、金光明経に云く、一切世間の所有善論は皆此の経に因る。
 法華経に云く、若し俗間の経書・治世の語言・資生等を説かんも〈資生の業等を説かんも〉、皆正法に順ぜん。
 普賢経に云く、正法をもって国を治め人民を邪枉せざる、是れを第三の懺悔を修すと名く。
 涅槃経に云く、一切世間の外道の経書は、皆是れ仏説にして外道の説に非ず。
 止観に云く、若し深く世法を識れば、即ち是れ仏法なり。
 弘決に云く、礼楽前きに駆せて真道後に啓く。
 広釈に云く、仏三人を遣はして、且く真旦を化す。五常を以て五戒之方を開く。昔、大宰、孔子に問て云く 三皇五帝は是れ聖人なるか。孔子答て云く、聖人に非ず。又問ふ、夫れ子是れ聖人なるか。亦答ふ、非なり。又問ふ、若し爾らば誰か是れ聖人なる。答て云く、吾聞く、西方に聖あり。釈迦と号す。
 周書異記に云く、周昭王二十四年甲寅の歳四月八日、江河井泉池、忽然として浮き張る。井水並びに皆溢れ出づ。宮殿人舎、山川大地、咸悉く震動す。其の夜、五色の光気あり。入て太微を貫き、四方に遍す。昼の青紅色となる。昭王、大吏蘇由に問て曰く 是れ何の怪ぞや。蘇由対へて曰く 太聖人あり。西方に生まれたり。故に此の瑞を現ず。昭王曰く 天下に於て何如。蘇由曰く 即時に化なし。一千年の外、声教此土に被及せん。昭王、即ち人を・門に遣はして石に之を記して埋む。西郊天祠前にあり。穆王五十二年壬申の歳二月十五日、平旦に暴風忽ちに起りて発人舎を損し、樹木を傷折るし、山川大地皆悉く震動す。午後天陰り雲黒し。西方に白虹十二道あり。南北に通過して連夜滅せず。穆王、大史扈多に問ふ。是れ何の徴ぞや。対へて曰く 西方に聖人あり。滅度の瑞襄相現るのみ〈已上〉。
 今之を勘ふるに、金光明経の一切世間の所有善論は皆此の経に因る。仏法いまだ漢土に渡らざれば、先づ黄帝等、玄女の五常を習ふ。即ち全玄女の五常に因りて久遠の仏教を習ひ、黄帝に国を治めしむ。機、いまだ熟さざれば五戒を説くも過去未来を知らず。但現在に国を治め、至孝至忠にして身を立つる計りなり。余の経文以て亦是の如し。亦周書異記等は仏法いまだ真旦に被らざる已前一千余年、人、西方に仏あること之を知る。何に況んや、老子殷の時に生まれ周の列王の時にあり。孔子亦老子の弟子、顔回亦孔子の弟子なり。豈に周の第四の昭王・第五の穆王之時を知らずして、蘇由・扈多、多く記す所の、一千年の外、声教此土に被及せん、文をや。
 亦内典を以て之を勘ふるに、仏、慥かに之を記したまふ。仏聖人を遣はして、且く真旦を化す。仏、漢土に仏法を弘めん為に先に三菩薩を漢土に遣はし、諸人に五常を教へて仏教の初門と為す。此れ等の文を以て之を勘ふるに仏法已前の五常は仏教之内の五戒なることを知る。
    日蓮聖人『災難興起由来』


以上の内容について、「今之を勘ふるに」以下は、日蓮聖人御自身の見解である。そこで、その内容を要約すると、日蓮聖人は仏法がまだ中国に来ていない時には、「五常」を習ったとしている。ただし、「即ち全玄女の五常に因りて久遠の仏教を習ひ、黄帝に国を治めしむ」とあるのが良く分からないが、久遠の釈迦を原理的に考えると、時代や空間の限界を超えているということになるのだろうか。

ところで、「五常」とは、儒教で説く5つの徳目であり、「仁・義・礼・智・信」とされる。そして、これは、「仏教の初門」であると位置付けている。つまり、人として生きるための徳目としては、仏教のそれと矛盾しないということであろう。

それから、日蓮聖人がいう、「仏聖人を遣はして、且く真旦を化す。仏、漢土に仏法を弘めん為に先に三菩薩を漢土に遣はし、諸人に五常を教へて仏教の初門と為す」とは、『摩訶止観』巻六下の「我れ三聖を遣わし彼の真丹を化す。礼儀前に開き、大小乗経然る後に信ずべし」を受けたものであるらしい。

つまり、中国仏教界の中には、仏教の公伝前に、儒教や道教などの祖をブッダが遣わして、先に礼儀を教え、その後に、仏典が伝わるための土台を作ったということである。よって、日蓮聖人は仏法が伝わる前に実践されていた「五常」は、仏教に於ける「五戒」に相当すると、判断しているのである。

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