つらつら日暮らし

洞門行持に於ける旧暦と新暦の11月1日

今日から11月である。和名では「霜月」などとも呼称するが、先月の「神無月」に比べると、その理解は極めて容易である。

◎十一月 和名を霜月と云は、霜ふり月を略せると也。
    三田村鳶魚先生『江戸年中行事』中公文庫、54頁


まぁ、何の感想も無いくらい明確で、霜がよくふる月になるから、「霜月」である。いよいよ冬も真ん中である(旧暦の「冬」は、10~12月と決まっていた)。

それで、以前はこの日に、「10月1日と迷うんだよなぁ」とかいいながら、「開炉」の話をしていたと思う。要するに、叢林の主要な伽藍に炉(ストーブ)を入れ、用い始めることなのだが、何故迷うかというと、旧暦と新暦で扱いが違うからである。そういえば、この辺、余りちゃんと記事にしていなかったので、まとめておきたい。

◎瑩山紹瑾禅師『瑩山清規』「年中行事」1324年成立
10月1日:開炉
11月1日:記載無し


◎面山瑞方禅師『洞上僧堂清規行法鈔』巻3「年分行法」1753年版
10月1日:開炉・謝掛搭
11月1日:記載無し


◎曹洞宗務局『〈明治校訂〉洞上行持軌範』巻中「年分行持」1889年刊
10月1日:僧堂換簾
11月1日:閉旦過・戒臘簿調認・開炉


以上である。

実は、この3つを並べただけで、それぞれ何が違うのかが理解出来る。まず、鎌倉時代の宗門最初となる「年中行事」の記録としては、「開炉」のみである。これは、おそらくは道元禅師の時代と同じであり、若い頃永平寺で修行された瑩山禅師は、そのご様子を伝えられたと考えるのが妥当であろう。該当する本文を訓読すると、「十月一日 開炉の前夜、僧堂・諸堂、開炉す。一衆、叉手袖内、頭帽を許すべし」となり、「開炉」を行って、冬支度をするだけではなくて、修行僧の叉手を直裰の袖の中に入れたり(今時は「衣手」と呼ばれる)、帽子をかぶっても良くなったのである(仏殿での法要などでは外す)。

ところで、道元禅師も瑩山禅師も、安居は「夏」のみで、いわゆる「冬安居」をされていない。しかし、江戸時代になると夏冬二安居が一般化し、そのため、江戸時代中期の洞門学僧である面山瑞方禅師が構築された清規を見ていくと、「開炉」は『瑩山清規』と同じだが、「謝掛搭」が加わっている。これは、「掛搭を謝す(この場合の「謝」は謝ることではなくて、「謝絶」の「謝」と同じで「断る」の意)」であり、いわば冬安居の「掛搭」は10月中(夏安居であれば、3月中)に叢林に来なければならないことを意味している。つまり、「冬安居」が加わったため、項目が増えたのである。

さて、江戸時代までは「11月1日」の記載が何も無いことを確認したが、明治期の『洞上行持軌範』では、江戸時代までの「10月1日」の内容が、「11月1日」へと移動した様子が分かる。これは、従来の太陰暦での明治5年12月3日を、太陽暦の明治6年1月1日へと変更したのであった。よって、『洞上行持軌範』の時には、既に太陽暦(新暦)へと改暦されていたのである。

ところで、「10月1日」に「僧堂換簾」があるが、これは僧堂の前後門に掛かる簾を、涼簾から暖簾へと換装することをいうが、旧暦では9月1日に行われることが多かった(面山禅師『僧堂清規』ではそうなる)。よって、これは9月から10月に移り、そして、10月の行持が11月へと移ったわけである。

「閉旦過」とは、色々な言い方があるが、「謝掛搭(止掛搭とも)」と同じ意味である。つまりは、それ以降の安居僧の受け入れを中止することを指すが、受け入れた安居僧を含め、叢林内の各僧侶の「戒臘簿」を「調認」することも、この日に行われ、そして「開炉」も行う。つまり、江戸時代の清規に於ける、「冬安居」準備と「開炉」とが11月に移ってきたのである。

まぁ、実際のところ、東北地方にある拙寺などは既に「開炉」済みであって、季節感や気温に左右される行持は、その時々で変更してしまって良いものである。今後、温暖化が進めば、「開炉」は形だけ、とかにもなるのかもしれない。さておき、以上の通り、年代によって「清規」の内容も異なることをご理解いただければ幸いである。

ついでに申し上げれば、旧暦中の「清規」の場合、主たるものは「冬至(だいたい11月後半に実施するが、かなりずれることもあった)」くらいで、後は冬ごもりの準備期間の印象である。ところが、明治期以降は、上記の通り、11月は行持が増え、一方で10月は5日の達磨忌程度となってしまったのであった。この辺の変動は、本当に興味深いところである。

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