その上で、現実的に採られる方策もある。今日はその辺を見ておきたい。
三、戒名
一度、授戒につけば、必ず戒師様から血脈に戒名をつけて下ることであるから、此次に入戒する時には、是非それを寺院に持参して、帳場へ申出るが宜しい。また入戒したことのない方でも、逆修と云つて、既戒名の貰てある方は、其を紙に書いて、帳場へお持ちになれば、帳場では、直にそれを帳面につけますが、若し其時に申出でがないと、又後で、戒名を一つ貰ふことになり、一人で戒名が二つも三つも出来て、自身が困るばかりでない、仏法を軽んずることになりますから、之は意を注けて貰はねばなりませぬ。
来馬琢道老師編『曹洞宗授戒会戒弟の心得』(鴻盟社・明治38年)3頁
さて、この一節から、幾つかのことが理解出来る。まず、来馬老師は或る檀信徒が授戒せずに亡くなってしまった場合、その方に授ける名前のことを「法名」と呼んでいた。一方で、上記一節の通りで、授戒会で貰う名前のことは、明確に「戒名」であるといっている。ここで、来馬老師が使い分けを考えていたことが分かる。
それから、上記一節のような、複数の戒名を貰う可能性がある場合に、それを避ける方法については、既に【授戒会を繰り返し修行した際の戒名の扱いについて】で紹介した通りで、指月慧印禅師が主張されていた。よって、来馬老師は、上記で参照した文献を直接読んだかどうかは分からないが、当時、現実的な対応策として、上記のことが行われていたのだろう。
また、ここから先ほど述べたような問題について、「戒名が複数付いてしまうこと」については、来馬老師は明らかに問題だと考えていたようである。この辺については、更に他の資料も当たってみたいところであるが、今回の記事はここまでである。
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