つらつら日暮らし

10月15日 興聖寺開堂の日

今日は10月15日であるが、我々曹洞宗の僧侶からすると、高祖道元禅師(1200~1253)が、宇治・興聖寺で開堂されたことを忘れてはならない。

寛喜3年(1231) 『弁道話』執筆
天福元年(1233) 深草の極楽寺旧址(観音導利院)に落ち着く(『伝光録』第51祖章)
文暦元年(1234) 懐奘禅師、観音導利院で道元禅師に弟子入り(『伝光録』第52祖章)
嘉禎2年(1236) 10月15日、興聖寺を開堂して集衆説法(『永平広録』巻1冒頭)


『弁道話』について、江戸時代の面山瑞方禅師は安養院での執筆を主張しておられるが、現在の『弁道話』流布本では、執筆場所を示さない。陸奥正法寺に伝わる草案本では、興聖寺だとするが、それは間違いである。

それから、1233年に極楽寺旧址に入ったことは、瑩山紹瑾禅師『伝光録』など、古伝が等しく認めるところで、更にいえば、この段階で『正法眼蔵』の執筆(最初は「摩訶般若波羅蜜」巻、続いて「現成公案」巻)が始まるため、何かしら、落ち着ける環境になったのだろう。

そこで、今日採り上げたいのは、10月15日の興聖寺開堂の話である。「開堂」とは寺院の法堂を開くことを意味し、そこで説法(上堂)を行うのである。この時、説法の功徳を、国や天皇(皇帝)に奉る場合を「祝国開堂」などという。

なお、道元禅師におかれては、以下のような状況だったと知られる。

師、嘉禎二年丙申十月十五日に於いて、始めて当山に就いて集衆説法す。
    祖山本『永平広録』巻1冒頭


このように、「祝国」などの文字は見えずに、「集衆説法」とあるのみなので、参学人が集まり、その者達のために説法されたことのみが理解出来るのである。ところが、別系統の『永平広録』になると、以下のように変わる。

師、嘉禎二年丙申十月十五日に於いて、始めて当山に就いて開堂拈香、聖を祝し罷って。
    『永平略録』冒頭、卍山本『永平広録』巻一冒頭


繰り返しになるが、祖山本『永平広録』では「集衆説法」だったのが、『永平略録』や江戸時代の学僧・卍山道白禅師による編集の『永平広録』(卍山本と呼称)では、「開堂拈香、祝聖し罷って」と、開堂の説法になっている。成立としては、『永平略録』が古いので、おそらくは祖山本から『略録』までの間に何らかの変更があったのか?或いは、『略録』を編集した、中国曹洞宗の無外義遠禅師による修整なども考えられるが、良く分からない。

なお、『宏智録』などは、「開堂」とはしても「祝国」とはしないので、この辺は良く分からない。「祝聖開堂」は同時代の臨済宗の祖師方の語録に見られるが、果たして、宗派によっての違いがあったのかどうか、この辺ももう少し詳しく調べないと分からない。

開堂は訳経院之儀式を、開堂と云なり、梵経を翻訳する時、諸士・百官、各各訳経院に列次して、拈香聖寿無彊を祝延す、今本朝で入院の儀式に香を拈じて、聖寿無量を祝すること、相似たる故に、亦開堂と云、詳に百丈清規に見へたり、
    『永平略録虵足』


江戸時代の学僧・天桂伝尊禅師によるとされる『永平略録』への註釈書では、以上の通り示されている。訳経院の話は非常に興味を引くが、参考のために挙げておきたい。

さて、興聖寺開堂の日、会下にいた僧衆はどれほどの数かは知られていない。後には、瑩山禅師が『伝光録』で指摘するように、50人以上になったが、それはまだ先の話であろう。それどころか、『正法眼蔵随聞記』では、開堂と同年の除夜(12月30日)に、興聖寺最初の首座として懐奘禅師が拝請される経緯を伝えるが、道元禅師は懐奘禅師に対して、「衆のすくなきにはばかる事なかれ。身、初心なるを顧みる事なかれ。汾陽は纔に六・七人、薬山は不満十衆なり。然れども仏祖の道を行じて是れを叢林のさかりなると云ひき」(巻5)と指摘される。

つまり、10月に開堂したものの、その年の年末では上記のような人数、10人以下でもって、興聖寺が運営されていた可能性もある。しかし、叢林の盛衰は、その僧衆の数では無くて、どれほどに「仏祖の道を行ずるか」に掛かっている(『永平広録』巻2-128上堂に見える「大叢林・小叢林」の議論に注目されたい)。その観点から見れば、大衆の数は基準にはならないと言えよう。

以上、記事としては申し上げたが、曹洞宗の叢林修行が「10月15日」に始まったことを明記し、記事を終えたい。

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