つらつら日暮らし

今日は父の日(令和6年度版)

今日は父の日である。由来はアメリカのドッド(Dodd)夫人が「母の日」に倣い、父親に感謝するために白いバラを送ったのが始まりとされる。なので、余り仏教とか関係ないのだが、拙ブログの立場上、その辺で書くしかないので、今日は釈尊の父親に関する記事としておきたい。

宋居士沮渠京声(?~464、『衆経目録』では「北涼世安陽侯」とある)の訳とされる『仏説浄飯王般涅槃経』一巻(『大正蔵』巻14所収)を簡単に見ておきたい。

このお経の経緯としては、釈尊の父親である浄飯王が臨終を迎えようとしているときに、以下のような歎きを漏らしたという。

我が命逝くと雖も、以て苦と為さず。但だ、我が子、悉達に見えざることを恨むのみ。又た、次子難陀に見えざることを恨む。貪婬・世間の諸欲を除くを以てす。復た斛飯王子阿難陀に見えざることを恨む。仏の法蔵を持して、一言も失せず。又た、孫子羅云に見えざることを恨む。年、幼稚なると雖も、神足純備して、戒行に欠けること無し。吾れ設い是の諸子等に見えることを得れば、我が病、篤きと雖も、未だ生死を離れず、以て苦と為さず。

要するに、浄飯王は出家してしまった自分の子供たちに会いたいと願っているのである。この願いについて、釈尊は天耳で浄飯王の願いを聞き、周囲にいた親族と、浄飯王の寿命がもう永くないことを話し、会いに行こうと決めるのである。この時、かなりの距離を隔てていたようだが、釈尊たちは神足を用いて、浄飯王がいたカピラ城に姿を現した。

浄飯王は釈尊が来たと聞くと、病身を顧みることなく部屋から出て相見し、釈尊に会えた喜びを偈頌にして讃歎すると、そのまま崩御してしまった。

そして、その場にいた出家していないシャカ一族の者が、ご遺体を浄め、葬儀の準備を進める中で、難陀や阿難陀、羅睺羅は、浄飯王の棺を背負いたいと釈尊に願い出るのである。それに対して、釈尊は以下のように思案した。

爾時に世尊、当に来世の人民凶暴にして、父母育養の恩に報いざる者を念じ、是の不孝の者の為に、是れ当来衆生の等の為に、礼法を設けるが故に、如来身を躬めて、自ら父王の棺を担がんと欲す。

このように、釈尊は後の者達が、父母養育の恩に報いないかもしれないことを問題視し、自ら棺を担ぐのである。そして、世は無常であると説示しつつ、火葬を行ったのであった。なお、四天王は釈尊を讃歎し、これは慈悲の行いだとするのである。

その後、浄飯王について、以下の問答が行われた。

 時に諸の大衆、同時に声を発し、倶に仏に白して言く、「大浄飯王、今ま已に命終せんとす。神、何れの所に生ずるや。唯だ願わくは世尊、分別して解説せよ」。
 時に世尊、衆会に告げて曰く、「父王浄飯、是れ清浄の人、浄居天に生ず」と。
 衆会、是の語を聞き已りて、便ち愁毒を捨つ。


これは、残された者達が、浄飯王の来世はどうなるのか?という疑問を呈した。そして、釈尊に対し、教えてくれるように願ったのである。釈尊は、浄飯王は清浄なる人であったから、浄居天に生ずると示した。この浄居天とは、清浄なる聖者が住む天であるとされ、まさに浄飯王に相応しい場所であるといえよう。

人々は釈尊の言葉を聞いて、非常に納得し、浄飯王を失ったことによる憂いすぎる状況から回復したという。いわば、この問答は、グリーフケアとして考えることが出来るのである。

さて、本経典は、その位置付けが難しい。そもそも神通力を用いて浄飯王の崩御の場面に居合わせること自体が、フィクション的ではある。また、我々は釈尊が葬儀に修行者が出ることを否定したのではないか?とか、親との孝の話は、儒教的ではないか?等と考えてしまう。ただし、『律』などを見ると、釈尊は出家の条件に親の理解を要する旨示している。そうなると、ただの縁切りとして出家があったわけではないことが分かる。

この辺を知ってか、江戸時代の儒学者・富永仲基は、仏教で「孝」が否定されたのは、中国に来て儒教に対応するためだったとし、インドでは孝は否定されていなかったと推定している(『出定後語』)。或いはもちろん、この経典が訳出か、製作かは分からないが、少なくとも仏典として伝えられる背景には、中国に於ける仏教批判に応えるためだったことは想像に難くない。

今日は父の日であったから、釈尊が父・浄飯王の死に際して行ったとされる「伝承」について、採り上げてみた。

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