竪琴的試写室 aperto!!

お気に入りの映画、忘れたくない映画をレビューしていきます。

ザ・コミットメンツ THE COMMITMENTS '91 英

2004年10月31日 09時50分31秒 | サ行
監督 アラン・パーカー
脚本 ディック・クレメント イアン・ラ・フレネ ロディ・ドイル
DATA
英アカデミー作品賞、監督賞=A・パーカー 脚色賞=D・クレメント、I・ラ・フレネ 編集賞=R・ドイル原作/ロディ・ドイル
CAST ロバート・アーキンズ マイケル・エイハーン アンジェリナ・ボール マリア・ドイル デイヴ・フィネガン ブロナー・ギャラガー フェリム・コームリー グレン・ハンサード アンドリュー・ストロング ケネス・マクラスキー ジョニー・マーフィ ディック・マッセイ コルム・ミーニイ

アラン・パーカー監督には珍しい青春もの。貧しい猥雑なダブリンの空気が画面を通して伝わってきそうです。エネルギーをもてあました若者たちの青い若さがほとばしってます。アイルランドを語りだしたらきりがないわたくしですが(笑)、この映画はアイルランドの貧しいながらもどこか楽観的なトコロがうまく語られていると思います。

青春をかけるのは何でもいい、できればかっこいいもの!っていう軽いノリでスタートするバンド活動。集まってきたのは素人ばかり。何をやりだすんだ・・・と当然家族も呆れ顔で。おとーちゃんだけは自分もバンドに入りたくてオーディション受けに来たりするんですけどね(笑) ソウル・バンド結成という夢に向かってすったもんだがあるわけですが、見終わった後は「なんでもいいやん!青春は無駄なものに時間と魂を注ぐためにある!!」ってすがすがしい気持ちになります。音楽の方も、素人臭さの中にも本格的なものが垣間見れて鋭いキャスト選びだなぁと思いました。セミプロの人が中心らしいです。サントラも◎

主人公ジミーのお父さんを演じたコーム・ミーニーさんはアイルランド映画には欠かせない存在でよく見かけます。あの万年ビールかっくらってそうな赤ら顔がいいです(笑) ケルトっぽい映画で言うとフィオナが恋していた頃「ウェールズの山」「遙かなる大地へ」などに出てました。「ダイ・ハード2」なんかにもチラッと出てきたような気が・・・。監督はどちらかというと社会派といわれているアラン・パーカー。熟年夫婦の危機に迫る「シュート・ザ・ムーン」('81の作品ですよ?このころからアメリカでは熟年カップルの問題があらわになっていたんですね・・・)とか、実話をもとにした刑務所での精神的苦痛を描いた「ミッドナイト・エクスプレス」とか、ベトナム帰還兵の青年にフォーカスを当てた「バーディ」とか。「バーディ」は大好きな作品ですね。マシュー・モディンとニコラス・ケイジがいいです。マドンナがアルゼンチン大統領夫人に扮した「エビータ」もこの人。最近では「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」が話題になりましたよね。ケビン・スペイシーのやつ。こういう社会派に埋もれがちなんですが、わたしはダウンタウン物語やこの「ザ・コミットメンツ」「ケロッグ博士」のような「オモシロ路線」がしっくりくるんですねぇー(笑) 普段真面目な作品が多いせいか、いい意味で中途半端なオカシサっていうんでしょうか。真面目な人が真面目にドジ踏んで笑いを誘っちゃう・・・的なおかしさがあります。

劇中でアラン・パーカー自身の監督作品をバカにするシーンがあったりします(笑) ちょっぴりホロ苦いラストも雰囲気にぴったり☆ソウルがお好きな方はぜひどうぞ!

貧しさこそ贅沢だ!度 ★★★★☆

誘う女 TO DIE FOR '95 米

2004年10月30日 09時09分45秒 | サ行
監督 ガス・ヴァン・サント
DATA ゴールデングローブ・主演女優賞=N・キッドマン
CAST ニコール・キッドマン マット・ディロン ケイシー・アフレック イレーナ・ダグラス アリソン・フォランド ダン・ヘダヤ ウェイン・ナイト ホアキン・フェニックス

ニコール・キッドマンがお天気お姉さんに扮したサスペンスです。サスペンスと言ってもドキュメンタリーの手法を取り入れていて、ドラマがぐっと進む場面と、突然登場人物がインタビューを受けているカットが入ったりと、重苦しい感じがなくすすすすすっっと見られる映画です。


ニコール・キッドマンは人から注目されていなくては気がすまないらしく、お天気お姉さんを皮切りにテレビ界にのし上がろうとする人で、邪魔になったダンナ(マット・ディロン)を殺してしまう・・・。正確に言うとちょっと違うんですけど。そこはナイショ。ニコール・キッドマンのアイス・ドール的美しさと、自己顕示欲が見せる幼さが面白いです。


ガス・ヴァン・サントという監督さんはゲイで有名な方で、男性を美しく撮らせたら天下一品との呼び声も高く・・・(笑)。でもでも、本作ではニコールをちゃんときれいにきれいに撮ってます。男性陣の方はわたし的には好きな役者さんがずらっと並んでいるのですが、「美少年」タイプはいませんねぇ。ホアキン・フェニックスは、「スタンド・バイ・ミー」で主役をやっていたリバー・フェニックスの弟で、リバーが若くして衝撃的にこの世を去ったときもたまたま居合わせたということで、ショックも大きく仕事にもずいぶん影響したらしいです。この「誘う女」くらいから元気取り戻した感じです。ホアキンは最近では何と言っても「グラディエイター」の皇帝!あれはすごかったです(サッカー・イタリア代表FWのビエリに見えてしょうがないのですが・・・)。
このクレジットの中で特に好きなのはイレーナ・ダグラスとダン・ヘダヤ。2人とも名サイド・プレイヤーです。いろんな映画に顔を出してますよぉ!


幕切れもつめたーいものが伝わってきますが、実はこれ、実話を元にしているそうです。こわ~。実際にはお天気お姉さんではなく、中学校の先生だったそうですけど。余計怖いな・・・。

ひんやり度 ★★★★★

殺人に関する短いフィルム KROTKI FILM O ZABIJANIU '89 ポーランド

2004年10月29日 09時13分24秒 | サ行
監督 クシシュトフ・キエシロフスキ
DATA カンヌ映画祭パルムドール・ノミネート、審査員賞、国際映画批評家連盟賞=K・キエシロフスキ ヨーロッパ映画賞・作品賞=K・キエシロフスキ
CAST  ミロスワフ・バカ クシシュトフ・グロビシュ ヤン・テサシ バーバラ・ドゥズィーカン アレクザンダー・ベドナルズ ジャージィ・ザズ

タイトルどおりある衝動的な殺人事件に関する話です。加害者の青年(21才だったか・・・なんか微妙な年齢だったように記憶しています・・・)、被害者のタクシー運転手、事件を手がける弁護士の3人がひとつの事件によって絡み合っていく様子を淡々とつむぎだしたドキュメンタリータッチな作品です。もともとこの監督はドキュメンタリー出身の人で、他の作品も個性あふれるものが揃っています。「ふたりのベロニカ」も大好きなんですが、これも同じ名前の違う場所で生まれたベロニカという2つの視点からお話が交差していく・・・というものでした。こちらもオススメですねー。


ええと、「殺人に関する・・・」の方ですが(この監督の作品って、独特の色をしています。オレンジかがっているんです。なんでだろ?)、テレビシリーズでモーゼの「十戒」現代版のような番組を作ったことがあるらしく、そのうちの1つを映画として再編集したということです。同じシリーズからの「愛に関する短いフィルム」というのも見たことありますが、見やすさでいうと「愛に関する・・・」でしょうけれど、衝撃度、作品の強さからいくと断然「殺人に関する・・・」だと思います。


とことんリアルです。事件の様子から、被害者が事件にあうまでの普通の一日を追った部分、極刑のシーンに至るまで・・・。ポーランドという国の背景はナチス侵攻くらいしか知りませんので、わたしなどはただひたすらリアルなシーンの連続に引き込まれ、驚くばかりでしたが、現代のワルシャワが抱える問題を浮き彫りにした・・・という評をあちこちで読んだことがあるので、ドキュメンタリー作家としての腕が冴え渡った作品なのでしょうね・・・。コレが作られたのが'87ですから、東西冷戦終結までにはもうちょっと・・・といったころですか。社会には矛盾と問題点が満ち溢れていたのでしょう。きちんとお勉強してもう一度見たい感じです。


この監督も'96に若くして急死されています。遺稿となった「ヘヴン」は「ラン・ローラ・ラン」で注目を浴びたトム・ティクヴァ監督があとを継いで完成されました(この前録画しそびれた・号泣)。

キエシロフスキ FILMOGRAPHY~ヘヴン(2002) 脚本 キェシロフスキ:I’m so-so(1995) 出演 トリコロール/赤の愛(1994) 監督/脚本 トリコロール/白の愛(1994) 監督/脚本 トリコロール/青の愛(1993) 監督/製作/脚本 ふたりのベロニカ(1991) 監督/脚本 愛に関する短いフィルム(1988) 監督/脚本 デカローグ(1988) 監督/脚本 殺人に関する短いフィルム(1987) 監督/脚本 終わりなし(1984) 監督/脚本 偶然(1982) 監督 アマチュア(1979) 監督/原作/脚本 傷跡(1976) 監督/脚本 ある党員の履歴書(1975) 監督

リアル度 ★★★★★

死刑台のエレベーター ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD '57 仏

2004年10月28日 09時12分28秒 | サ行
監督 ルイ・マル
DATA 音楽/マイルス・デイビス
CAST モーリス・ロネ ジャンヌ・モロー ジョルジュ・プージュリー リノ・ヴァンチュラ ヨリ・ヴェルタン ジャン=クロード・ブリアリ シャルル・デネ

スピード感も派手なアクションもCGもなし、B&Wの古い古い映画なのですが、研ぎ澄まされてます!渋いです!偶然がつむぎだすシンプルなお話なのですが、ドキドキしました。


主人公のジュリアンは社長の奥さんとデキています。社長を殺して2人で幸せになろうと完全犯罪を計画します。すべてうまく行くかに見えた計画がたった一本の電話で歯車が狂いだし、偶然につぐ偶然でとんでもない結末になってしまいます。不倫カップルのほかにもう一組重要な若いカップルが登場して、社長婦人、ジュリアン、若いカップルの3つの視点からお話が進んでいくのですが、どの矢印を見てもどんどん不信感が膨れ上がっていって、ハラハラします。


ルイ・マルといえば大富豪の息子としても有名ですが、25歳でこんな渋い映画を作っちゃったんですねぇ。マイルス・デイビスの即興トランペットでも有名な一本ですね。切ない空気が漂ってよいですよ。見ていて「をを!!!」と思ったシーンは、ジュリアンが取調べを受けるときの構図です!!遠近法というのかな?真っ暗な画面に3人いるのですが2人が手前にいて、あと1人がすぅーっと奥に消えていくんです。んで、またふーっと出てくる。それだけなのに、すごい緊張感が伝わってきます。取調べをする刑事さんの一人が「冒険者たち」のリノ・バンチュラ!ジャガイモみたいな顔してますが(笑)、名優です。古きよきフィルム・ノワールでニコリともしない冷酷な殺し屋とかやってます。


さらに・・・どんだけキレイねん!ジャンヌ・モロー。美人度はどちらかというと低い方かもしれないのですが、あの雰囲気はなんともいえませんー。顔立ちはキャシー・ベイツに似てると思うのですが(笑)。最近のジャンヌ・モローも、もうおばあちゃんですがキレイですー。リノ・バンチュラといい、フランスの俳優さんって男女を問わず飛び切りの美男美女でなくても品格があってよいですね。整形する人もあんまりいないし、ありのままに年をとっているのもよいです◎

狭所恐怖度 ★★★★☆

シャイン SHINE '95 豪

2004年10月27日 09時27分57秒 | サ行
監督 スコット・ヒックス
DATA 音楽/デヴィッド・ハーシュフェルダー アカデミー主演男優賞=J.ラッシュ NY批評家協会賞、LA批評家協会賞・男優賞=J.ラッシュ ゴールデン・グローブ男優賞=J.ラッシュ 英国アカデミー賞・主演男優賞=J.ラッシュ 他
CAST ジェフリー・ラッシュ ノア・テイラー アレックス・ラファロウィッツ アーミン・ミューラー=スタール リン・レッドグレーヴ ジョン・ギールグッド グーギー・ウィザース

これは劇場でも見ました。最近久しぶりに見直しました。よかったですー。しみじみー。


デイビッド・ヘルフゴッドという実在のピアニストの物語。父親の溢れすぎる愛の大きさのために、親子ともども潰れてしまい、息子は精神病を患います。そして再び光を取り戻すまでのお話です。全編を通してさまざまな形で「水」が登場します。スプリンクラーだったり、雨だったり、シャワーだったり、蛇口から滴るしずくだったり、プールだったり・・・。バスタブの水の中で幸せそうにくるまっている姿を見ると、父と息子の話なのに「母性」を思わずにいられなかったりします。子宮の中の羊水にぷかぷかと幸せそうに浮かんでいる胎児の存在するだけで無垢な魂=デイビッドが本当に望んでいた姿・・・という感じです。


「世界一難しいピアノ曲」とされる「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番」をモチーフに、この曲に懸ける親子の情熱が描かれているわけですが、この厳しくも哀しい父親にアーミン・ミューラー=スタール。東ドイツ出身で元は音楽の先生と聞いたことがあります。ユダヤ人の役が多いですねー。印象に残っているのは「マイセン幻影」かなー。この「シャイン」では愛しすぎて期待しすぎて息子を手放せない独占欲と独自欲の塊で、最後は孤独な死を遂げる哀れな父親を演じ、素晴らしかったです。デイビッドは子供時代、青年時代、中年期~現在と3人の俳優さんで演じられたのですが、結局は現在までを演じたジェフリー・ラッシュの作りこみの成功なのかな・・・と思います。3人の面影の重なり具合がすごくよかったです。


監督さんはオーストラリアのスコット・ヒックスさん。寡作の人ですが、この後に工藤夕貴ちゃんを大抜擢した「ヒマラヤ杉に降る雪」とかアンソニー・ホプキンス主演の「アトランティスのこころ」などなど静かで染み入る作品を撮っています。「ヒマラヤ杉」は原語で原作も読んだなぁー。よかったなぁー。「シャイン」もお話の筋は重いはずなのに、なぜかぐいぐいと引き込まれて見てしまいます。シナリオがいいんだろうなぁ。あとはオーストラリアの映画が好きな理由に「垢抜けないこと」があるのですが(笑)、この映画もどこか「いい塩梅に」野暮ったいんです。すごくステキ(笑)。


デイビッドが父親と距離をおいて生活しながらも、絶えず父親の存在におびやかされ、恐れつつも愛し続けたのがとても痛ましいです。閉ざされた世界の中でしか練習をしたことのないデイビッドを引っ張り出してくれた音楽コンクールの審査員、アメリカへの留学を父親に阻止された彼を地元オーストラリア国内でレッスンを受けられるよう取り計らってくれた下宿のおばさん、ロンドンの王立音楽学校で人生の師とも呼べるピアノの先生といった、成熟した大人たちとの出会いの中でなんとかバランスを保ってピアノに打ち込みます。父親の夢でもあったラフマニノフを見事に弾きこなしたある日、彼は倒れてしまうのです(涙)。後半は病気のためにピアノを弾くことを禁じられた彼が、再びピアニストとして輝きを取り戻すまでを描いています。まだ半分は父親の影におびえているのですが、自分のためにピアノに向かう姿が感動的です。重いテーマなはずなのになぜかカラリとしています。


さて、この主役のジェフリー・ラッシュさん。ここまでは本国オーストラリアで舞台を中心に活躍していたそうですが、この後は「恋に落ちたシェークスピア」や「クイルズ」のマルキ・ド・サド公爵、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の幽霊!とまぁバラエティに富んだフィルモグラフィーをお持ちで(笑)。確か「ファインディング・ニモ」のナイジェルの声もやっていたような。「バンガー・シスターズ」でも脚本家くずれのへんてこな中年男の役をやっていましたっけ。演出家としても手腕があるそうですよ。今後にも乞う、ご期待なのでした。

※後日記(二日後記)
乞う、ご期待にこんなに即答してくれるなんて(笑)。かのピーター・セラーズの人生を描いた「ライフ・イズ・コメディー」で主演されたそうな!もうすぐ公開だそうな!もうー、これは劇場へレッツラ・ゴーですっ。

ピアノの弦ってホントに切れるの?度 ★★★★★

ジュリー&ジュリア JULIE & JULIA '09

2004年10月26日 09時12分00秒 | サ行

監督 ノーラ・エフロン
脚本 ノーラ・エフロン

DATA
音楽/アレクサンドル・デスプラ

CAST
メリル・ストリープ エイミー・アダムス スタンリー・トゥッチ クリス・メッシーナ リンダ・エモンド メアリー・リン・ライスカブ ジーン・リンチ フランシス・スターンハーゲン ヘレン・ケアリー ジョーン・ジュリエット・バック クリスタル・ノエル ヴァネッサ・フェルリト ジリアン・バック ブライアン・エイヴァーズ

さすがノーラ・エフロンだなぁ~な一品。クラシックカーが走る今よりちょっと昔、パリに駐在する外交官夫人のジュリアと、NYはクイーンズ、ピザ屋の2階で描いていた夢とは程遠い生活をしているジュリーを対比させながら2人の女性の成長ぶりを描く佳作です。

ジュリア役のメリル・ストリープの演技は各方面で大絶賛されたようですが、わたしはちょっとうっとおしく思えてつらかったです…。もっともっとさりげない演技をしていた頃のメリル・ストリープが好きだったのです。「ソフィーの選択」とか「恋に落ちて」とか、北欧系独特の白い鼻の先がふぅーっと赤くなるだけで「あぁ、泣くんだ…この人」とわかるような演技をしていた頃。最近は実在の人物とかもたくさんやってるし、大きな演技がベテラン女優の貫録と言ってしまえばそれまでなんだけれど。わたし的にはジュリーを演ったエイミー・アダムスがとってもチャーミングでした。一時のメグ・ライアンのような清潔感のある色気があり、より茶目っ気・知性も感じさせる女性だなーと思いますね。それに一連の出演作を観ていると、作品ごとに「あー、この人…化けるなぁ」と器用さも抜群!

ジュリーもジュリアも実在の人物で、その人生をうまく絡めつつ、2人が料理と対峙した足跡を追ってお話が進みます。ジュリアのエピソードが「食べること」中心なのに対して、ジュリーの方は「作ること」がテーマ。ジュリーには物書きになるという夢があったのに、地味な仕事に落ち着いて、旧友とのランチでも引け目を感じてばかり。ある時ふとしたきっかけで大好きなジュリア・チャイルドの料理本レシピを1年間で片っ端から作り、そのエピソードをブログで語ろうと決心します。何もかも中途半端だった自分と決別する!と奮闘するジュリー。うまく行ったり行かなかったり、母親の一言一言にいらっとしてみたり、コメントの来ない日々に誰に語りかけているのかを見失いそうになったり(笑)

2人の女性の夫君たちが素晴らしいのです、これがまた。先日観た「ラブリー・ボーン」では気色悪い変質者の役だったスタンリー・トゥッチがジュリアの旦那さん。彼はショーン・コネリーの色気とベン・キングズレイの清潔感と両方持っているすてきなオハゲさんだなぁと再認識しました。ジュリーのダーリンはウディ・アレンの「それでも恋するバルセロナ」に出ていた人です。この旦那さんもステキだったなぁ。ケンカもするけどジュリーの一番の味方。

残念ながらジュリーはブログを書き続けることで憧れのジュリアに不快感を与える結果になってしまうのですが、最終的にきちんと成長を遂げステップ・アップしていきます。その姿がとてもキュートでいじらしくて逞しい。自分の人生と向き合って、やりたいことを見つけてやり通した2人の女性に乾杯なのです。

料理がうまくなりたい度 ★★★★★

十二人の怒れる男 12 ANGRY MEN '57 米

2004年10月26日 09時11分51秒 | サ行
監督 シドニー・ルメット
DATA ベルリン映画祭金熊賞
CAST ヘンリー・フォンダ(8)、リー・J・コッブ(3)、エド・ベグリー(10)、マーティン・バルサム(1)、E・G・マーシャル(4)、ジャック・クラグマン(5)、ジョン・フィードラー(2)、ジョージ・ヴォスコヴェック(11)、ロバート・ウェッバー(12)、エドワード・ビンズ(6)、ジョセフ・スィーニー(9)、ジャック・ウォーデン(7)

アメリカの陪審員制度をテーマにした密室劇です。陪審員12人が話し合う部屋の扇風機が壊れている、という設定でじっとぉ~~~~~~とした暑苦しさといらだたしさが白黒の画面を通してひしひしと伝わってきます。評決にかけられるのは一人の少年。映画はある殺人事件の公判が終わり、判事が陪審員たちに評決を出すように促すところから始まります。容疑者の少年は一瞬ちら・・・と写るだけ。この演出がまたあとで効いてきます。評決は12人全員一致になるまで確定できません。 12人の会話の端々から、容疑者の弁護士があまり熱心でなかったこと、少年が札付きのワルだったこと、目撃者がいたことなどが伺えます。みんなの気持ちは「有罪」の色が濃く、長くても10分ほどで評決に至るはずだったのに・・・。たった一人「無罪・・・とは思わないが、納得がいかない点がある」と言い出した男がおりまして。


そこからいつ終わるとも知れぬ話し合いが始まります。みんなそれぞれに事情あり、生活あり、早く終わらせて帰りたい・・・。一人は今夜のヤンキースのチケットが気になり、またある人は極端な不良嫌い。自分も容疑者の少年と同じ貧しいところで育ったという人。行き詰る密室の中で、それぞれの都合と、もしかしたら無実かもしれない少年の真実に迫るために動き出せるか否か??という心理劇が続いていきます。民主主義万歳!的な評価をよく受けている作品ですが、人間くさい12人のキャラクターの方が際立っていておもしろいです。キャストの名前のあとの数字は「第○番陪審員」の番号です。


少しずつ証拠のあいまいさが顔を覗かせ始めるのですが、少年が不良だったことが繰り返し繰り返し語られます。「育った環境が悪かった」「その日も父親に殴られた(被害者は父親)」「あんなワルたちは野放しにしちゃいけない」・・・そんな風に少年のことが語られるたびに、映画冒頭で写った少年がどんな子だっけ??と気になり(笑)。頑なに有罪を主張する高圧的な男のせりふ「無実かもしれないが、もし有罪だったら?」には背筋が凍りつきました。ホントだ・・・そうなんだ・・・。汗が出ちゃいます。


「無罪」の言いだしっぺはヘンリー・フォンダ。あまり好きな俳優さんじゃないんですが、この役はカッコよいですね。ヘンリー・フォンダの娘さんは永遠のセックス・マシーン「ジェーン・フォンダ」。女優さん辞めてもいつまでも美しすぎ。息子はイージー・ライダーのピーター・フォンダ、んでもってその娘(ヘンリーから見ると孫娘)がブリジッド・フォンダ(「シングルス」「アサシン」「カミーラ、君がいた夏」などなど)。
監督は社会派を撮らせたらピカイチのシドニー・ルメット!骨太のよいドラマを作ります。できれば暑ーい夏の夜に見てください。じっとり寝汗をかきながら・・・。

体感湿度 ★★★★★

ジョンQ 最後の決断 JOHN Q '02 米

2004年10月25日 09時26分54秒 | サ行
監督 ニック・カサベテス
CAST デンゼル・ワシントン ロバート・デュヴァル ジェームズ・ウッズ アン・ヘッシュ エディ・グリフィン キンバリー・エリス ショーン・ハトシー レイ・リオッタ ダニエル・E・スミス ケヴィン・コナリー ポール・ヨハンセン ヘザー・ウォールクィスト ローラ・ハリング

なんか・・・この作品、評価低いんですけど(笑)。でもわたしは好きですー。だってデンゼル・ワシントンがかっこいいんだもーん。この人は黒人俳優さんの中でピカ一の「品」がありますね!今回は背広の似合うホワイト・カラーではなくて、強く、優しく、もろさを覗かせる父親像がとっても印象に残る役どころです。


あらすじはと言いますと、親子3人で貧しいながらも仲良く暮らしている家族がありまして、子供が野球の試合中に突然倒れてしまうんです。病院に運んだところ、深刻な心臓病であることがわかり、治療には莫大な料金が。進んだ医療と遅れた社会制度のギャップを浮き彫りにすると共に、父親が取った最後の手段を中心にお話が進んでいきます。最後の手段=病院を乗っ取ることだったわけですが・・・。


確かに主人公が切羽詰るまでの緊迫感が足りなさ過ぎるとか、誰に感情移入したらよいかわかりにくいとか、まとまりがよくないとか言われているけれど、デンゼル・ワシントンが子供のために「正しいことをしている!!」と思い込もうとするあたりの戸惑いなんかがすごくよかったなと思います。人質の皆さんにもだんだんと支持を受けることになり、交渉人を務めるロバート・デュバルなんかも完全にジョンQサイドにいます。彼の人柄があらわになるにつれ、どうしても応援したくなっちゃいますね。


サスペンスフルな展開ゆえ、ネタばれになっちゃうと面白くないので後は内緒にしておきます。豪華な出演陣はニック・カサベテスのお父さんへの尊敬を表したものなのでしょうかね。お父さんのジョン・カサベテスもいい作品を一杯残し、尊敬されていた名監督なのですが、残念なことに60才という若さでこの世を去りました。ジョン・カサベテスの奥様にしてニックのお母さんもジーナ・ローランズという渋い渋い素敵な女優さんでございます。

さらにニックにがんばってもらいたい度 ★★★★☆

シングルス SINGLES '92 米

2004年10月24日 09時25分51秒 | サ行
監督 キャメロン・クロウ
脚本 キャメロン・クロウ
DATA 音楽/ポール・ウェスターバーグ 撮影/ウェリ・スタイガー タク・フジモト
CAST キャンベル・スコット、キラ・セジウィック、ブリジット・フォンダ、マット・ディロン、シーラ・ケリー、ジム・トゥルー=フロスト、ビル・プルマン、ジェームズ・レグロス、アリー・ウォーカー、エリック・ストルツ、トム・スケリット、ポール・ジアマッティ、ジェレミー・ピヴェン

アメリカでもっとも住みたい街に選ばれるシアトルが舞台の青春群像劇ですー。イチローも住んでますね(笑)。ちょっと前・・・1995年くらいかな?はここが舞台の映画が結構目立ちまして、トム・ハンクス&メグ・ライアンの「めぐり逢えたら」なんかでも雨の多い街・・・としてインプットされた方も多いんではないでしょうか。この映画原題はずばり「SLEEPLESS IN SEATTLE」でした、確か。大“カルト”ヒットしたデビッド・リンチのTVドラマ「ツイン・ピークス」もここの山奥の町スノカルミーが舞台でしたねー。ツイン・ピークスってDVD化されてないんですね。ずっと探しているんですが。WOWOWで録画したビデオ、もー見すぎて見すぎて擦り切れちゃいそうです。

で、「シングルス」ですが(笑)、これはカワイイです。舞台劇のノリで、明るくて、爽やかで、せつなくて、うれしくて、はずかしい・・・そんな作品です。シアトルにあるめっちゃおしゃれなアパートメントに住む、年齢もさまざまな「独身者たち」が入り乱れていろんな恋愛が語られます。監督のキャメロン・クロウは後に「ザ・エージェント(トム・クルーズ主演)」でどっかん!と来た人です。音楽畑出身だけあって、どの作品も音楽の使い方がす・ば・ら・すぃ~~。シナリオもリズミカルで楽しいです。レビューにもあげてあります「セイ・エニシング」もこの人の作品ですね。


撮影がタク・フジモトという日系の方なんですが、この人を初めて認識したのは「羊たちの沈黙」かなー。その後結構好きな映画のエンドロールで名前を見かけます。「シックス・センス」とか「フィラデルフィア」もそうだったと思いますねー。「すべてをあなたに」もかな。あと幻想的だった「青いドレスの女」。結構渋い監督さんに好まれているような気がします。この「シングルス」と「すべてをあなたに」は珍しく軽い感じだけれども。


ヒロイン=ふわふわ頭のキーラ・セルジックが大好きなんですが、彼女のご主人はケビン・ベーコンというこちらも若手時代から渋い脇役を固め続けている素晴らしい役者さんです。キーラの恋人になるのがキャンベル・スコット。彼はものすごーく有名な俳優さんの息子さんなのですが、いつもおおらかで自然体なところに好感持てます。お調子者のミュージシャンにはマット・ディロン、貧乳に悩むウェイトレスにブリジット・フォンダ、その貧乳を直してあげる整形外科医にビル・プルマン・・・。ビル・プルマンこのあたりから脇役を脱し始め、後には「インディペンデンス・デイ」で大統領に出世しました(涙)。でも、個人的には「キャスパー」の優しいパパ、サンドラ・ブロックの「あなたが寝てる間に・・・」のキュートなもてない君が好きだったなー。もっともっと年をとったらどんどんステキな役者さんになりそうで楽しみです。THE MIMEという変てこな役で出てくるエリック・ストルツは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主演の座を射止め、ほぼ撮り終えたところで「ごめん、君はこの役には大人っぽすぎる」のスピルバーグの一言で降板。マイケル・J・フォックスを迎えて取り直しにされたという過去を持つ人です。確かにカオそっくり。その後のキャリアは順調なので降板になってよかったのかもしれません。


ちょっぴりネタばれですが、字を伏せるほどでもないので、一つ面白いエピソードをご紹介ー。中心になるカップル、キーラ&キャンベル・スコットの2人ですが、ある日「で・・・できちゃったかも?」の疑惑に立ち向かうべく、彼氏が妊娠検査薬を買いに薬局へ走るんですね。そのときに薬局で対応してくれるのが高校時代の同級生だった・・・ひー、みたいな(笑)。ここは笑っちゃいますよー。この店員さんがまあ、もうホント味のある役者さんで、キャメロン・クロウ作品の常連さんでございます。こういう3枚目さんがある日突然、超社会派ドラマで準主役してたりするんですよね。そういう日が来るのを楽しみにしてます。がんばれジェレミー・ピヴェン!(最近ダスティン・ホフマンとジーン・ハックマンのに出てました!)

貧乳に悩むブリジッド・フォンダもすごくかわいくて、この映画の中のカジュアルなカッコも含めて彼女にぴったりの役だったんではないかなーと思います。お父上はかのピーター・フォンダ(イージー・ライダー)、伯母上はあのジェーン・フォンダ(セ・・・セ・・・セクスィー!)、こう来ると当たり前ですがおじいちゃまは名優ヘンリー・フォンダということで。

BGVにするにももってこいの作品です~~~~

いろんな恋愛があるのね・・・度 ★★★★★

シンプル・プラン A SIMPLE PLAN '98 米

2004年10月23日 09時24分10秒 | サ行
監督 サム・ライミ
原作・脚本 スコット・B・スミス
DATA 音楽/ダニー・エルフマン 撮影/アラー・キヴィロ LA批評家協会賞じょえんだ入賞=B・B・ソーントン
CAST ビル・パクストン、ブリジット・フォンダ、ビリー・ボブ・ソーントン、ブレント・ブリスコー、ゲイリー・コール、チェルシー・ロス、ジャック・ウォルシュ、ベッキー・アン・ベイカー

大ヒットした同名のミステリー小説の映画化です。田舎で平凡な暮らしを送るハンクが兄とその悪友と、はずみで大金を手にしてしまうのです。雪に埋もれた自家用飛行機の中から・・・現金440万ドルを発見!!善良な市民選手権があれば金メダルを取れちゃいそうなハンクはもちろん警察に届けようとします。でもこんな大金なら既に探しているはずなのに世間では何も騒がれていないし、公にできないお金なんでは・・・?ということになり、自分達の物にするための“シンプルな”計画を実行に移すのですが……。

いやぁ、面白かったです。ずーっとずーっとずーっと見たくてほったらかしにしていた映画です。実に8年かかっちゃいました(笑)。98年の作品かぁ。そんなに古臭く感じませんでしたね。コーエン兄弟作品だと勘違いしていて、うーん、さすが「コーエン兄弟的な映像」で引き込まれ始めたのですが、「directed by Sam Raimi」!あーっ、サム・ライミだったのかー、みたいな(笑)。サム・ライミはコーエン兄弟の弟子のような人なんでちょっと納得。この人、驚くような低予算でばかばかしいB級映画を作る天才なんですよね。安っぽくてアホらしいのにすごく魅力的な作品が沢山あります。「ダークマン」とか「クイック・アンド・デッド」とか大好きです。サム・ライミを有名にしたのはなんと言っても「死霊のはらわた」(ぐぇぇ)シリーズと「スパイダーマン」かな?アメリカン・コミックのはじけた感じをそのまま映画にしちゃう・・・って作風なんですよね。なので見始めは「ツイン・ピークス」やコーエン兄弟の「ファーゴ」なんかを思い起こさせるような雰囲気で「ほぉ・・・」と感じ・・・と同時に、最後まで飽きずに見れるのかな?という不安もよぎりましたが、そんな心配御無用でしたー。

まあ、お約束どおり大金を我が物にすることを一番拒んだハンクが次第に躍起になって計画を成功させようと変貌を見せることを中心にお話が進みますが、最初のシンプルな作戦から、自分たちの意に反してどんどん複雑になっていってしまうアタリとか、まじめで愚直な人生に幸せと喜びを感じていたはずのハンクが欲望と良心の間で揺れる様子とか、周りの人たちの小さな欲望が皮算用の時点で渦巻いていくのが悲しくて滑稽で。
みんな「ちょっとずつ」なんですよね。ハンクは平凡ながら近所の人にも愛されている、安月給ではあるけれど定職についていてもうすぐ子供も産まれる。奥さんは美人だし。奥さんも図書館司書の仕事をして家計を助けつつ、ベビーの誕生を心待ちにしていて、あるようでないようなみんなが抱える程度の不満くらいは持っていても静かな幸せに満足している様子。
かたやハンクの兄は無職でぷらぷら、悪友ルーと飲み歩く毎日。ルーも借金を抱えて「不景気だー」と嘆いているけれども、2人とも「悪党」ではない。最近の言葉でいえば「ちょいワル」ってとこですか(笑)。この2人が誰のものともわからない大金を目の当たりにして夢を見てしまったとしても仕方がない、ちょっとした出来心と納得できちゃいます。善良なハンクだって、幸せと言っちゃ幸せだけど、もし本当にこれが自分のモノになったならと「想定」してしまうというところが見ている人をくすぐるんではないでしょうか。誰だって一度は「もし宝くじで1億円当ったら・・・」と考えた事はあるでしょう?宝くじより確実に目の前に440万ドルあるんですもんね。腐るほど金を貯えているマフィアの親分たちの騙し合い、ドンドンパチパチ、豪邸が吹っ飛んで保険金が手に入る・・・なんてゴーカイなものではなくて、平凡な人の目線だから入り込みやすかったです。ミステリーなんであまり詳しくは書けませんが・・・。

ラストは「なるほどなー」なシーンで冒頭シーンに繋がるのですが、一度夢を見てしまった後は何もかも色あせて、あれほど幸せだった日常が苦痛となってしまうという人の欲の深さみたいなものを静かに静かに映し出していて見事だなぁと思いました。なにやら原作ではちがうラストなんだそうですよ。ちょっと気になりますね。どうなったんだろ?
サム・ライミってこういうのも作れるんだぁーと感心した1本でした。ちなみにハンクのどうしようもないお兄ちゃん役はかのビリー・ボブ・ソーントン、ブラッド・ピットの子供を出産予定のアンジェリーナ・ジョリーの2番目のだんな様です。この人もカメレオンですねぇ。化けます化けます。

タダより高いものはない度 ★★★★★

スタンドアップ NORTH COUNTRY '05 米

2004年10月22日 15時00分00秒 | サ行
監督 ニキ・カーロ 
脚本 マイケル・サイツマン 
DATA
原作 クララ・ビンガム ローラ・リーディー・ガンスラー
CAST
シャーリーズ・セロン フランシス・マクドーマンド ショーン・ビーン カイル リチャード・ジェンキンス ジェレミー・レナー ミシェル・モナハン エル・ピーターソン トーマス・カーティス ウディ・ハレルソン シシー・スペイセク ラスティ・シュウィマー ジョン・アイルウォード ザンダー・バークレイ クリス・マルケイ

これは来ますね~~~~!!!シンプルにすっこ~~~~んと胸に刺さりました。実話を基にした組合モノってことで、長い間後回しにしていたのですが、もっと早く観ればよかったです(i_i) 「クジラの島の少女」のニキ・カーロ監督がメガホンを取った作品です。彼女の作品はシンプルにテーマを突きつけてきます。難しいことを言わず映像でしっかり見せてくれるからとても分かりやすいのです。テーマ自体はこねくり回していくらでも小難しく出来そうなものなのに、余計なことは一切ナシ。観ていてとっても清々しい♪♪♪

キャストも超豪華ですね~。シャーリーズ・セロン、フランシス・マクドーマンド、シシー・スペイセクと言ったら3人揃ってオスカー女優ですよ!そこにショーン・ビーン、リチャード・ジェンキンスの名名名名サイド・プレイヤー。渋すぎます。イケ好かないプチ・セレブな役が多かったウディ・ハレルソンも落ち目のアイス・ホッケー選手から転身を図った弁護士役で好演してます。わたしはこの人がイマイチ苦手だったのですが、見直しました。中年太り+寂しくなったアタマがいい味になってました。

主人公ジョージーは父親の違う2人の子供を育てるシングル・マザー。片田舎では目立ちすぎるほどの美貌があだとなって、小さい頃から彼女を苦しめてしまう。貼られた男たらしのレッテルと、自分を理解してくれない父親への反発もあって男ばかりのセクハラ渦巻く鉱山労働へ足を踏み入れるのです。自立して自分の力で子供たちを立派に育てるために・・・。覚悟はしていたものの、想像を絶する世界がそこにはあり、彼女は立ち上がって闘おうとするのですが。
冒頭、子供を二人連れて出て行くシーンと始まったばかりの裁判のシーンが上手くリンクして映画が滑り出します。回想と裁判がある時点で「今」に追いつき、その辺りからはダダ泣きです(i_i) オープニングでジョージーが子供達を車に乗せて北へ向かいます。これがほんとに寒々しい光景なんです。灰色の風景と凍りついた路がこれから起こるであろう辛い出来事を予感させるのです。実家に戻っても心休まる環境はなくいつもピリピリ。実家へ向かうガソリン・スタンドで狩られたトナカイがピックアップトラックに積まれていたり、パブや社長室などに飾られるトナカイの剥製が何度となく映し出されて、女性は物を言わずにおとなしく飾られていればいいんだと言っているように見えました。それでも彼女は人生に立ち向かったのでした。エライ!!もうほんとにほんとにジョージーの逞しさとはかなさと美しさが素晴らしいんです。

シャーリーズ・セロンってこんなにすごい女優さんになると思ってなかったです。「モンスター」はすごかったけれど、あれはある意味やりやすい役だったと思うんですね。極端に演じれば入り込みやすいというか。でもいかにも!な美貌のヒロインを美しさだけに頼るのではなく、しっかり演技で観ている人の心をさらってしまう「トリコロールに燃えて」やこの「スタンドアップ」には脱帽です。キレイだったな~~。

ラスト、暖かい未来を感じさせる雪の溶けた路をドライブするシーンがあるのですが、これがオープニングと上手く呼応していて感動倍層しちゃいます。ニキ・カーロの次回作にも期待しちゃうっ!!

久々に素晴らしい邦題度 ★★★★★

セイ・エニシング SAY ANYTHING '89 米

2004年10月22日 09時23分40秒 | サ行
監督 キャメロン・クロウ
脚本 キャメロン・クロウ
CAST ジョン・キューザック アイオン・スカイ ジョン・マホーニー リリ・テイラー エイミー・ブルックスパメラ・シーガル ジェイソン・グールド ローレン・ディーン ベベ・ニューワース エリック・ストルツ ジョーン・キューザック フィリップ・ベイカー・ホール ジェレミー・ピヴェン チャイナ・フィリップス

「シングルス」「ザ・エージェント」などを作ったキャメロン・クロウの映画監督デビュー作です。軽くて爽やかでとっても好きですー。この人の映画って素朴さとか暖かさがすごく伝わってきて、自身の青春時代をとても誠実に過ごしたんだろうなって印象を受けます。自分を振り返ったであろう作品に対する視線だとか、脚本がとても暖かいです。


お話は高校を卒業した青年が高嶺の花にアタック!彼女の方も彼の素朴さに触れて付き合うことになります。ところが彼女は米国一の秀才で英国留学が待っている・・・。プロットはただそれだけ(笑)なんですが、この青年ロイドを取り巻く人々のエピソードがけっこう笑えます。モンキー・フェイスのリリ・テイラーが出てまして、大好きな女優さんなんですが、彼女は難しい役が多く・・・強烈に印象に残っているのは「7月4日に生まれて」でトム・クルーズが戦場にて錯乱状態で射殺してしまった味方兵士の奥さん。謝りに来たトム・クルーズに「わたしはあなたを許すことができないけれど、神はあなたを許すでしょう」って言うんです・・・(涙)・・・そのリリ・テイラーがとってもキュート!主人公ロイドの親友で、彼の恋を応援してます。自分はといえば遊び人の彼氏にもてあそばれた過去を引きずっていて少々壊れ気味(笑)。


男友達もなんとなくイケてない人たちがわんさか出てきておかしいです。ジェレミー・ピヴェンという人が出てまして、この人はキャメロン・クロウの映画では常連さんです。すっとぼけた顔で若い頃のリチャード・ドレイファスみたいな感じです。「シングルス」では薬局の店員さんで笑わせてくれました。肝心の主人公ロイドはジョン・キューザック。ゆで卵をつるんと剥いたみたいなカワイイ系です。お姉さん役のジョーン・キューザックは実のお姉さん。そっくりですよね。この姉弟はホントにいろんな作品で個性を発揮してます。んでもって秀才の彼女のお父さんが「フランティック」にもちょろりと出てくるジョン・マホニー。元医学雑誌の編集長をしていたという変り種です。「月の輝く夜に」でもいい味出してました。「セイ・エニシング」ではすっごく素敵なパパですが、このお父さんの存在が二人の関係を微妙にします。舞台はシアトル。クロウの作品はシアトルが多いですね。


何も気張らなくても、大掛かりな特殊技術がなくても、シンプルな脚本でも見る人を惹きつける映画って作れるんですねって見本のような青春映画でございました。キャメロン・クロウは元々は音楽畑の方。リズム感がよいのかな?

すっきり爽やか青春度 ★★★★☆

卒業 THE GRADUATE '67 米

2004年10月21日 09時11分13秒 | サ行
監督 マイク・ニコルズ
DATA 音楽/ポール・サイモン、デイヴ・グルーシン アカデミー監督賞=M.ニコルズ NY批評家協会賞・監督賞=M.ニコルズ ゴールデン・グローブ賞・作品賞、女優賞=A.バンクロフト、監督賞=M.ニコルズ、若手男優賞=D.ホフマン、若手女優賞=K.ロス
CAST ダスティン・ホフマン、アン・バンクロフト、キャサリン・ロス、ウィリアム・ダニエルズ、リチャード・ドレイファス

花嫁をさらいだすラストシーンとサイモン&ガーファンクルの音楽があまりにも有名な映画です。わたしはこの映画が好きで本当によく見ますが、見るたびに、年を取るごとに、感情移入する対象が変わり、感想がどんどん変わりました。今ではこの作品は花嫁を奪い去って幸せを得た2人・・・というハッピー・エンドだとはまったく思っていません。花嫁とバスに乗り込み、照れ笑いを浮かべた後のベンジャミンの表情に気づいたのは、そうですねぇ・・・10年・・・15年くらい前でしょうか。なんとも言えないカオをするのです。


作品冒頭でベンジャミンはこの先いったい何をしたらよいのか・・・と、今で言う燃え尽き症候群にも似た状況におかれています。裕福なユダヤ人家庭で育ち、成績優秀で大学を卒業して戻ってきたベンジャミン。何の不自由もなく、何の疑問もなく目の前に敷かれたレールを走ってきた彼は、社会の玄関口に立たされた時ボーゼンとするのでした。そこで母親ほど年上の女性に誘惑されて逢瀬を重ねるわけですが、この辺の描き方もとてもユニークでベンジャミンは常に相手にリードを許します(笑)。何せどーやって主導権をとったらよいのかまるでわからない。そんな彼が彼女の娘と出逢ったことでいろんなバランスを崩していきます。


娘の出現で芽生えたいろんな関係の微妙さは、まさに来るべき人生そのもの・・・・。予測不可能な事態の連続でどんどん対処していかねば生きていけない・・・、きっと進む道がいつも明確に決まって(決められて)いたベンジャミンにとっては嵐のような日々だったことでしょう(笑)。娘のエレーンを本当に愛していたかどうかよりも、自分の中に沸き起こった感情に突き動かされて初めて、今やらねばならないことのために躍起になります。これがまたうまく行かなくておもしろい(笑)。人生そんなに甘くないのだー。


そしてあのラストシーン。エレーンをさらい出し、逃げ出す2人。追いかけられつつバスに逃げ込んだ2人は笑顔なんですが・・・。ふっと、ベンジャミンは映画冒頭で見せたあの燃え尽き症候群のような表情を再び浮かべます。エレーンを奪いだし目標を達成した今、また新たな目標を探さねばならないのです。あの瞬間ベンジャミンは、はっきりと人生とは何かに気づいたと思います。やりたいことを見つけてそれに向かって進むこと。そのためにはつまづきのない順風満帆な環境だけでは不十分であること。何よりも自分が「そうありたい」と願わなくては流され続けること。それは繰り返し繰り返し生きている限り終わりがないこと。そんなことに気がついてまた新たな苦悩を知る・・・という重いラストになりますが、わたしはベンジャミンのこの表情に気づいてからもっともっと本作が好きになりました。


映画はここで終わっているけれど、本当の人生は劇的なことが起ころうと、平凡な時間が流れようと命の時間が閉じるまでずうっと続いていくんですよね。平凡な人生をしっかり自分なりに生きるかどうかは本人の意識しだいなんだなぁなんてことを改めて感じました。


さてさて。このキョーレツな年上の女性を演じたアン・バンクロフトという女優さんですが。大大大大好きです。典型的なユダヤ人女性の役をすることが多く、私生活ではメル・ブルックスというこれまた大大大大好きな「馬鹿みたいな映画ばかり作っている」巨匠(笑)の奥様でいらっしゃいます。ヘレン・ケラーを描いた「奇跡の人」のサリバン先生といえばピンとくるでしょうか。 '91のアカデミー賞のときにダスティン・ホフマンとそろって脚色賞、脚本賞のプレゼンターを務めましたが、相変わらず知的で惚れ惚れ・・・。そのときすごーくびっくりしたんですよね。どの作品の中でも圧倒的な存在感があるのでもっと大柄な人だと思っていたのですが、小柄なダスティン・ホフマンよりさらにさらに小柄でした。彼女の作品で特に好きなのは「トーチソング・トリロジー」「ガルボトーク~夢の続きは夢・・・」。どちらもユダヤ人の母親役でした。

※後日記 アン・バンクロフトさん 2005.6.永眠されました。合掌。

まだまだ見たい度 ★★★★☆