たた&にせ猫さんの備忘録

―演劇、映画、展覧会、本などなど、思うままに―

『8月の家族たち August:Osage County(8月:オーセージ郡)』 Bunkamuraシアターコクーン

2016年05月15日 | 日記
    『8月の家族たち August:Osage County(8月:オーセージ郡)』 Bunkamuraシアターコクーン  2016.5.8
        2016年5月7日(土)~29日(日)

   作:トレイシー・レッツ 翻訳:目黒条 上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
   出演:麻実れい 秋山菜津子 常盤貴子 音月桂 橋本さとし 犬山イヌコ 羽鳥名美子 中村靖日 藤田英世 小野花梨       村井圀夫 木場勝巳 生瀬勝久

 
  ―ピッーリッツアー賞戯曲部門受賞!トニー賞最優秀作品賞の他4部門受賞の“ブラック・コメディー”が、ケラリーノ・サンドロヴィッチの演出で日本初演‼―

  お話は、詩人でアルコール中毒の父(村井さん)が突然失踪。その知らせを受け、八月酷暑のオクラホマの実家に、両親思いの次女(常盤さん)、母方の叔母(犬山さん)と夫(木場さん)、そして長女夫婦(秋山さんと生瀬さん)とその娘が帰省してくる。久しぶりに集まった家族が目の当たりにしたのは、夫の失踪と処方薬の過剰摂取で半錯乱状態になった母(麻実さん)の姿。父親の自殺が伝えられ、やがて三女(音月さん)とその婚約者(橋本さん)、さらに叔母の息子も集まり、葬儀後の会食が始まる。それぞれが抱える秘密と心の闇が現れ……。

  アルコール依存の父、処方箋依存の母、14歳にしてすでに大麻依存の長女の娘、その娘に大麻を与えて関係を持とうとする三女の婚約者。耐え難い心の痛みを抱えた人たちが、つかの間の陶酔を求めようと薬物に依存に、そしてより耐え難い事態を招いていく。

  攻撃や非難でしか愛情を示せない関係。そして誰もいなくなり、どこまでも救いのない話なのだが、“ブラック・コメディー”と銘打っているだけあって、赤裸々さの中におかしみがあり、役者さんたちのやり取りに笑いが起こる。ネイティブ・アメリカンの住み込みのお手伝いさん、地と血のつながりを持って生きる人を対比させているのでしょうか?

  シアターガイド6月号にケラさんがこの演劇について語っているページがあるが、「安易に救いを作らないことがこの作品の魅力。とはいえ、やみくもにひどい話にするのでなく、ある節度が感じられるレッツの筆致。台本に忠実でありながら、爆笑の類でない笑いを興してコメディーの印象を残していく作業にはある種のセンスが必要だと思う。」と。すごく細かく間や声の調子まで考えて演出しておられる。

  連休最後の日曜日の夜の回。6時半開演、15分休憩が2回、三幕まであり終わったのが10時近く。長い舞台でした。結構前の方の席で、役者さんの表情もよく見え、力のある役者さんたちの熱演で充実した観劇。

  麻実さんはずいぶん拝見しているけれど、今回もすごい迫力。いつもの少し歌うようなセリフの調子が少なく、迫力を増しておられる。秋山さんは本当手練れの仕事で、演じることがきっとすごく好きな方なのだろう。犬山さんはケラさんの芝居に欠かせない感じ。音月さんは存じ上げなかったけれど、宝塚の方かしらと思ったらそうで、その風情がこの役にあっている。木場さんが出て来られると芝居が締まり、生瀬さんも。村井さんは最初少しだけの登場だけれど、存在感はさすが。

 
  映画にもなっているというので、観劇の後、レンタルDVDで見ました。
  『八月の家族たち』
  監督:ジョン・ウェルズ キャスト:メリル・ストリープ ジュリア・ロバーツ ユアン・マクレガー他
  舞台と映画で違っていたのは、長女の夫が出て行った後の保安官との場面と最後長女が家を出た後、途中で車から降りて大草原を見渡す場面。映画の方は笑いはなく、どこまでもシリアスで、それゆえに最後の場面、すべてを知ったうえで先に進もうとする長女の表情が必要だったのでは。

  映画と演劇の差をすごく感じる作品。演劇の映画化ってむつかしいんだろうなと。素晴らしい風景描写とメリル・ストリープとジュリア・ロバーツの熱演があったとしても、映画は結構単調だった。映画は空間や時間が入るし、表情も大写しで、説明的。演劇は場面は変わらず、人の出入りと幕で空間と時間を作る。劇場という空間で役者さんたちが演じる息遣い、生身の感情が直接的で、ブラック・コメディーとしても成り立つ。

どのように救いのない幕切れだったとしても、劇が終わった一瞬の間、そして出演者たちが舞台に再登場されて、万雷の拍手。役者さんたちの熱演への興奮、それこそこの場で演劇に出会った喜び。映画にできないラスト。

  それを導くべく演出家が演劇の魅力、見せ方を熟知しておられるのだろうと。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『蜷川幸雄氏演出で拝見した... | トップ | 『俺たちの国芳 わたしの国... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

日記」カテゴリの最新記事