たろおの小屋

昼間は「聖職者」を演じる永遠の若造「たろお」のつぶやき。
仕事,家族,後遺症・・・。感謝の日々を綴っています。

黎明編【「失語症」って、どんな病気?】

2024-03-09 17:01:29 | 脳出血・失語症
 家内が「気分転換とリハビリを兼ねて」と渡してくれたのは、私が好きな歴史や旅の雑誌だった。
 その時の私には
「訳のわからない紙切れ。」
に感じた。チラチラとして眩しい。文字らしき物は模様にしか見えない。
今は異世界の記号に成り下がった、私にとっては
「懐かしいはずだが、もう二度と再会できない望郷のかけら」
でしか感じられなかった。どう見ても読めない。意味がわからない。
「文章や写真らしき物」
が私に伝えてくるメッセージを読み取ることはできなかった。
その後、その雑誌を開こうとすることはなかった。

 私からなくなってしまった物は「視野の一部」だけだと思っていたが、「文字」も失ってしまっていたのである。
「失語症」と呼ばれているらしいが、失い方は人によって異なるらしい。

「失語症について理解するために…」
とリハビリの一環として会わせてもらった人の中には
「話すこともできず、こちらの言葉を理解することもできない。」
という方もいた。
「とんでもない恐怖だろう。私はまだマシだな。」
と思った。
 私自身も、退院する段階では「重度の失語症」と診断され、障碍者手帳の取得も勧められたのだが…

 私のリハビリは
「どちらかに〇で囲んでください。」
から始まった。



【問題: 上の絵を見て「ねこ」に〇をつけてください。】

「ねこ」に〇をつけてください。
 当時の私には、4つの「壁」があった。
 1つ目は、「ねこ」という生き物はどちらなのか?
 2つ目は、問題自体の日本語を読むこと。
 3つ目は、「〇をつける」という題意を理解すること。
 4つ目は、それらを同時に覚えておいて、正解を示すことである。

 「『勘』とか『超能力』とかのトレーニング」だしか思えないリハビリは苦痛以外の何物でもなかった。
 そして、
「以前はできていたのに…どうして?!」
という焦燥感が、ますます私を煽っていった。
 失っているのは「語彙」とか「図形の認知能力」とかであったように思う。

 「視野は3か月で治らなければ回復できない。
  でも、脳は10年かかって、完治に近い状態になる。」
という主治医の言葉は夢のまた夢に聞こえた。

 結果として、10年間たった今、限りなく回復できたように思える。
「失った部分は『老化』なのだろう。
 それ以上に、沢山の物を手に入れた。」
と、楽観的に捉えている。



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