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タパニの音楽徒然

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【ブルックナーを聴く~ 朝比奈隆編 第8期-9】 Takashi Asahina conducts Bruckner

2019年12月26日 | 音盤視聴:ブルックナー






交響曲第8番(ハース版)
 ・大阪フィルハーモニー交響楽団
 ・2001年7月23日、25日 サントリーホール(東京) ※DVDは7月25日のみ
 ・SACD:OVCL-00316(EXTON)、OVEP-00006⑤⑥(EXTON-TOWER RECORDS)※OVEP-00006所収
 ・CD:OVCL-00061(EXTON)
 ・DVDビデオ:OVBC-00005(EXTON)

 
1mov.14:42
2mov.15:27
3mov.26:14
4mov.24:06

演奏 ★★★★★
音質 ★★★★★(SACD=両盤とも) ★★★★☆(CD、DVD)
映像 ★★★★★


2001年の2月には大阪と名古屋で第8番をとりあげた朝比奈/大阪フィルであるが、同じ年の7月にも改めてこの曲が演奏された。
まずは7月7日に大阪のザ・シンフォニーホール、その後の7月23日及び25日にはサントリーホールという日程であったが、このサントリーホールでの公演は朝比奈の東京における最後のステージとなった。
このディスクで聴けるのはその東京での演奏で、CD・SACDは2日間のテイクから編集されており、DVDには25日の映像が収録されている。

第1楽章は冒頭の第1主題から敏感で引き締まった表情が聴かれる。 
トゥッティに至ってからも金管やティンパニーの音量は細かく制御され、常に奥行のある響きを生んでいる。
第2主題はやはりインテンポで進むが、ここではオケがその意図を充分に受け止めている。
第3主題に入ってからも心地良く前進し、中低弦のトレモロの響きが先行きへの期待を高める。
そしてオーボエの孤独で優しい表情はやはり絶品だ。
続く展開部におけるティンパニーの強烈な打ち込みは他のオケからは聴けないもので、その迫真的な表情は誠に素晴らしい。
コーダは鮮明なトランペットと剛毅なティンパニーを軸とした厳しい響きを速めのテンポに乗せて激しく訴える。
終結のモノローグも深い余韻を残す。

スケルツォは冒頭のテーマから思い切りが良く、表情は名古屋での演奏以上にスムーズだ。
主部は流れの良いテンポの中で全体の音のバランスが注意深く彫琢されており、もはや安易な豊かさとは決別している。 
ここでもティンパニーの意志的なリズムが印象的で、痛快なアクセントを与えながら躍動する。
映像では朝比奈がティンパニーにキューを出す姿が確認でき、手応えがあったのか笑みを浮かべる瞬間もある。
トリオも完熟の演奏で、このオケにブルックナーの弾き方が深く浸透していることを改めて実感する。特に表情をつけなくても自然にニュアンスが生まれるのだ。
後半からは呼吸が一段と深くなるが、そのしみじみとした味は何物にも代えがたい。

アダージョは入魂の逸品だ。
一つ一つの音が背負う意味がより大きくなっており、込められたメッセージの強さに聴き手にも真剣勝負が求められる。
弦楽群の共感は深く、チェロの歌には格調の高さと包容力が、ヴァイオリンには切々とした訴えが全編に漲っている。 
それらに対比されるワーグナー・チューバの暖かい歌も魅力的だ。 
第2主題の展開の行きついた先の沈黙に込められた意味も深い。
後半に入るとテンポの動きが顕著となり、ティンパニーが入ってくる辺りからの決然とした表情には思わず息を呑む。
クライマックスの爆発は天上にまで突き抜け、それに続く低弦の抉りの生々しさも凄い。
そして終結に至ると、ようやく真の平安が訪れる。

そしてフィナーレは、全編が多彩な表情で彩られた類稀な名演だ。
冒頭から快調に始まるが、やはりトロンボーンは抑制されており、それが整然としたホルンと鮮明なトランペットを引き立て、新鮮な色合いを生む。
第2主題は、高級な色合いに浄化された響きで丁寧に織り込んでいく。
第3主題は常々よりも控えめな渋い表情で始まるが徐々に高揚し、結びの場面ではトランペットが意味深く加わる。
小結尾では大股のティンパニーに乗った金管が実に豪快かつ壮麗だ。映像では、ここでも朝比奈の満足そうな表情が確認できる。
展開部では弱音の慎ましい静けさから豪胆なフォルティッシモまで表情の幅がとても広い。そして経過句的な場面は速やかな進行で厳しく切り詰めていく。
さらには弦楽器の絡み合いに加わるトランペットの浮き上がり(12:11~)は初めて聴くような表現で、思わずハッとさせられる。
再現部では金管を物足りないくらいに抑制するが、そのことによって弦楽器の動きに焦点を当てて意味を求める。そして、その次の場面では一転して金管を全開にして輝かしい頂点を築く。なんと目覚ましい表現だろう!
いよいよコーダに至ると、導入部におけるティンパニーと金管のリズムの音価のとり方が実に大胆で、鮮烈なインパクトを与える。
そして最終盤に入ると快適なテンポの中で清々しさと輝かしさがいっぱいに溢れ、威厳のあるリテヌートで全曲を見事に締めくくる。

これは朝比奈の最後の8番であるが、先の都響との7番に続いての超名演である。数多あるこの曲の録音中でもとりわけ深い感銘を与えてくれるものだと思う。
第1~3楽章については名古屋での演奏との優劣はつけ難いが、当盤の方がさらに鋭さと彫の深さを増しているように思える。
第4楽章は名古屋盤ほどには速くなく、しっかりと地に足がついており、多彩な内容が強い説得力をもって生々しく語りかけてくる。
70年代を思わせるようなドラマティックな表情が聴かれる場面も多く、それが痛快な愉しさに繋がるが、その背後に崇高な雰囲気が広がっているのが格別で、その見事な組み立てにはもう脱帽するしかない。
93歳に達していた朝比奈が過去の演奏からは聴けなかった新機軸を打ち出してくる姿には、本当に頭の下がる思いがする。

録音は明快で、エクストンらしいメリハリの効いた立体感が特徴的だ。弱音部の静けさにもリアリティがあり、演奏の持ち味をたっぷりと味わうことが出来る。
CDではやや平板に感じられる場面もあるのだが、SACDでは解像度や空間性が著しく向上する。
発売になったばかりのタワーレコード企画の盤(こちらもSACD)についても聴いてみたが、ここでは特定のパートや輪郭の強調感が抑えられて全体のハーモニーを重視するような音づくりになっているように感じた。加えてステージ全体が僅かに近くなったようなイメージもあるが、俄かにはどちらが優れているとは言い難く、好みの問題になるような気がする。(ここでのレビューに間に合わなかった第4・5・7番については機会を改めたい。)

DVDの映像も非常に凝ったもので、多彩なカメラワークによる臨場感のある画作りは、朝比奈の映像ソフトの中では最も優れたものかもしれない。
やや惜しまれるのはフィナーレの最後の結びの場面が朝比奈のアップになりすぎていることと、カーテンコールがあまりに短く切られてしまっていることだが、全体の中では僅かな不満に過ぎない。
そしてこれはハイビジョン収録なので、是非ともブルーレイ化してほしい。これはあまりに貴重な映像で、人類の至宝と言えるものであるから。


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