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【ブルックナーを聴く~ ギュンター・ヴァント編 第5期-6】 Günter Wand conducts Bruckner

2019年10月11日 | 音盤視聴:ブルックナー




交響曲第5番(原典版)
 ・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 ・1996年1月12日~14日 ベルリン・フィルハーモニー
 ・SACD:BVCC-34124(RCA)※BVCC-34123~9所収、SIGC-48(RCA) ※SIGC47~51所収
 ・CD:09026-68503(RCA)

  
1mov.21:30
2mov.16:24
3mov.14:13
4mov.24:23

演奏 ★★★★☆
音質 ★★★★★(SACD:ハイブリッド盤・シングルレイヤー盤とも) ★★★★☆(CD)


北ドイツ、ミュンヘンに続いてはベルリン・フィルとの演奏だ。
ヴァントは95年にカルロス・クライバーの代役としてシューベルトのプログラムでこの名門オケへ久々の客演を果たし、その後はほぼ毎年共演を行うことになったが、プログラムの中心となったのはやはりブルックナーの交響曲である。
その第1弾となったのが、この96年の第5番だ。
約1ヶ月前のミュンヘン・フィル盤との比較を中心に述べていきたい。

まずは第1楽章。
最初のコラールではミュンヘン盤以上に表情が鮮烈で、ぐいぐいと前へ突き進む印象がある。
その後は基本のテンポはほぼ同じだが、部分的にはこちらの方が遅く感じる。
弦楽器は響きの豊かさよりも切れ味の鋭さが特徴的だ。トレモロでも細かい音の粒がよく見える。
金管の響きも鮮明で、特に音を割ったトロンボーンが随所で強いメリハリを生んでいる。
展開部の威力はさすがで、粘着力のある運びと相まってとても立体的な表情だ。
このあたりの一字一句を噛みしめるような思索的な表現は、やはり朝比奈とはかなり異なる。
マスとしてのサウンドもさすがベルリン・フィルだけあって厚みがあるが、ミュンヘン盤のような伸びやかな響きとは違い、輪郭強調型でやや攻撃的とも言える。
コーダではトランペットが楽譜のオクターブ上を吹いている。これはオケ側の伝統・慣習を受け入れたものとされるが、全体の響きが充実しているので外面的になることはない。

続いてアダージョ。
第2主題では広がりよりも縦方向への彫の深さが印象的だ。
ヴァイオリンのやや硬質な響きが、ふくよかなミュンヘン・フィルとは一味違う色合いを生む。
ヴァントらしい厳粛な雰囲気は、こちらの方が一層強く出ていると言えるかもしれない。
その後のテンポの緩急を伴った意志的な運びにも強い緊張感が漂う。

スケルツォは、ベルリン・フィルの機動性の高さが前面に出た演奏だ。
響きが豊かに広がっていくミュンヘン盤に対し、こちらは硬質で凝縮した響きが特徴と言える。
造型は若干小型に感じられる気もするが、弦楽器の敏感なリズム、鋭い金管が野人ブルックナーの魂をじわじわと炙り出していく。
トリオについても柔軟さや詩情よりは、各パートの鮮明な表情を味わうべき演奏だ。

フィナーレも解像度の高さが目覚ましい。
序盤から豪快でキレのある表情で進み、第2主題では弦楽器のニュアンスが多彩だ。
第3主題の弦と管のせめぎあいでは、ベルリン・フィルの威力がものを言っている。ここでのホルンの意味深い追随はミュンヘン盤と良い勝負だ。
コラールは落ち着きのある表現で、金管に呼応する弦楽器の深い祈りが隅々にまで染み渡る。
二重フーガは厚みのあるミュンヘンに対し、ここでは歯切れの良さが特徴だ。金管には突き刺すような表情も現れる。
第3主題再現での音量操作は、録音のせいか急に音楽が小さくなってしまう。ここはミュンヘン盤が理想だと思う。
コーダは、金管の硬質で鮮明な響きによる饗宴だ。特にバリバリいうトロンボーンが良い味を出している。
トランペットはここでもオクターブ上げを行っているが、変に浮いた感じにならないのが良い。
漸強弱を施したティンパニーの入念な表情も、いつもながら素晴らしい。

全体としてはミュンヘン盤と基本的なコンセプトに差はないが、オケとホール、そして録音の違いが随所で興味深い結果を生んでいる。
豊潤なミュンヘン盤と比べると響きはややドライであるが、明快な表情と剛毅な迫力は充分に素晴らしい。
全体にややこわばったような緊張感を感じるが、それも含めてベルリン・フィルならではの味であると思う。
現在の私の好みはミュンヘン盤にあるのだが、このベルリン盤に軍配を上げる人も多くいるだろう。

録音は明快で、ベルリン・フィルの生々しい響きをよく捉えていると思うが、CDではスケール感に限界を感じる部分もある。
SACDについてはハイブリッド盤とシングルレイヤー盤の両方を聴いてみたが、前者はCDよりも広がりが増し、後者では加えて音の純度が高まるような印象を持った。


交響曲第8番(ハース版)
 ・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 ・1996年9月 ベルリン・フィルハーモニー
 ・CD:ME1043/4(MEMORIES)

  
1mov.17:33
2mov.15:46
3mov.28:14
4mov.26:00

演奏 ★★★★
音質 ★★★☆


次に、先の第5番に続いて同年9月に同じベルリン・フィルと演奏した第8番についても述べておこう。
この演奏も当然RCA(BMG)が収録していたはずだが、発売されることはなかった。(RCAから出たのは2001年の演奏である。)
このCDはFMなどで放送されたソースを使用したものと思われるが、このMEMORIESというレーベルの実体はよくわからない。最近ではモノーラル~ステレオ初期の録音を数多くリリースしているが、かつては当盤のような90年代の録音も発売していたことがある。
(ジャケット写真は不掲載とします。)

第1楽章は、北ドイツ放送響との93年盤と似ている。
随所におけるずっしりとした響きはこのオーケストラならではだが、特に目新しい表現は見当たらない。
録音のせいか、やや表現の焦点が定まりきらないように感じる箇所もある。
金管やティンパニーはよく鳴っているのだが、それが形だけのものになりがちなのは物足りない。

スケルツォも、93年盤と同様にレガートの効いたフレージングで開始する。
その後はフォルテの響きに輝かしさと迫力はあるが、色合いの変化に限りがある気がする。
トリオもやるべきことをやってはいるが、なんとなく詰めが甘くてもうひとつ印象に残らない。

アダージョではじっくりとした進行になる為か、前半楽章よりは細部のニュアンスが感じられるようになる。
ただ、中盤以降はベルリン・フィルの音がやや大味になる傾向があり、もう少し抑制の効いた深遠な雰囲気も欲しい。
全体としては決して悪い演奏ではないと思うが、ヴァントとしては最上のものとは言えないだろう。

フィナーレは冒頭から豪快な迫力が凄い。そのカロリーの高さはなかなか痛快だ。
第3主題はいつもに比べるとかなりストレートで、ヴァントらしい拘りは薄い印象だ。
しかし、その後のテンポの緩急の大きさはベルリン・ドイツ盤に近い。
フォルティッシモの荒々しい響きはそれなりに愉しいが、締りの良さも併有してほしいところ。
コーダは例によってかなりのスローテンポで始まる。
非常にスケールが大きく、まずは立派な演奏だが、ティンパニーが響き過ぎて整理不足に聴こえるのが惜しい。

全体としては、93年盤をベースにしてベルリン・フィルの厚みをつけ加えたような印象だ。
ただ、細部の表情はやや大雑把でワンパターンな印象があり、リハーサル不足のように感じる場面もある。
残念ながら当盤ならではと言えるような独自性や魅力は感じられなかった。(これが正規盤で出なかった理由だろうか?)
全体のフォルムは流石だと思うので、一応★4つとしたが、繰り返し聴きたくなるものではない。

もっとも、以上の印象は録音によるところもあるかもしれない。
先述の通りエアチェック音源だと思われるが、そのせいか全体にややピントが甘く、音色のバリエーションが少なく感じられ、聴いていて飽きを生じやすい。


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