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カオスの世紀

カオスとは「混沌」、そしてこの21世紀に生きる自分の混沌とした日常を気ままに書き綴っていきます。

インノサン+少年十字軍~古屋兎丸(ネタバレ注意)

2008-11-19 | 文学
古屋兎丸氏の最新作は、芸術性の高い原画による作品。
物語は1212年の中世のフランス北部。歴史に名を残す「少年十字軍」を描いた歴史ものである。

「ライチ光クラブ」「少年少女漂流記」のような少年の純粋な狂気を描く作品だ。これら2作品はそれぞれ東京グランギニョル、乙一の原作を作品にしたものだが、この作品は「少年十字軍」の史実をベースにした作品だ。

「少年十字軍」とはフランス北部に住む少年エティエンヌが”神からの啓示”を受けたとして、聖地エルサレムを奪還するべく結成されたほとんどが平均年齢12歳の少年少女による十字軍である。十字軍とは中世においてキリスト教、特にカトリック諸国により、聖地としてのエルサレムをイスラム教諸国から奪還する為に何度も”聖戦”として派遣された遠征軍である。十字軍そのものは何度も派遣されたが、そのうちその目的などは変遷していったりして、最終的には8度目の遠征を最後に終わっている。

物語はフランス北部のある田舎町で始まる。この町に住む美しく純粋無垢な羊飼いの少年エティエンヌは、ある日、神からの啓示を受けて、「聖地エルサレムへと導く」との声を受けて不思議な音色の喇叭を受け取る。その喇叭は奇跡を生み、その奇跡にふれた民衆に向かい、彼は「喇叭に導かれるまま聖地エルサレムに向かう」と宣言する。これに呼応して町の少年達がエティエンヌと共に行動を共にしてエルサレムへと向かう遙か長い旅を始める。エティエンヌの親友である騎士に憧れる少年ニコラを隊長として12人の少年達がまずは集まる。聖地へと向かう中で、エティエンヌの奇跡にふれて、次々と十字軍に加わる少年達が増えていく。彼らは8歳から14歳までの男子のみ。彼らはイノサンス(無垢なる子ら)として、異教徒と戦い聖地を奪還するという目的を持ってその集団を増やしながら進んでいく。しかし、純粋無垢な少年達ゆえに危険な狂気を集団は孕み始める。彼らの行く先にあるのは聖地奪還の夢か?それとも残酷なる運命なのか?

今回は上巻として、エティエンヌが”神の啓示”を受けてから、少年十字軍が結成されエルサレムへと向かう序章が描かれている。特に中心的な12人の少年達を描きながら、やがてその集団の中に密かに芽生える狂気がかいま見えるところで終わっている。恐らく、古屋兎丸氏の描く世界は、これから少年達に残酷な運命を辿らせる事になるのだろう。実際の少年十字軍も旅の途中で船を斡旋した商人に騙され、奴隷として売られてしまうという悲劇的な結末を迎える。

それにしても少年達を実に美しく描いている。そのまま”少女”として見ても違和感無いくらいに美しく無垢な少年達が出てくる。しかしそこには少年らしい残虐性を密かに孕んでいる。やがて少年達の間には嫉妬や対立が生まれて、やがてはその集団は破滅へと向かうのだろう。こうした話は前作の「ライチ☆光クラブ」でも同じように描かれていた。純粋な目的はやがて狂気へと変貌し、内部崩壊へと繋がっていく。少年であるがゆえの残虐性。これを描くことは古屋氏の得意とするところだろう。
また少年同士の擬似恋愛的な表現が甘美な世界を描いている。エティエンヌのゾクッとするような美しい表情はそれに惹かれてしまう自分自身に危うささえ感じてしまう危険なものだ。

来年には続刊が出るようだが、きっと残酷な展開が待っているのだろうが、思わずそれに惹かれてしまう。古屋兎丸氏の世界観は恐ろしいほどの”甘美なる狂気”を孕んで危険な世界へと導いて行くことだろう。

インノサン少年十字軍 上巻 (Fx COMICS)
古屋 兎丸
太田出版

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