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よろず戯言

テーマのない冗長ブログです。

娘の巣立ち

2020-12-02 14:57:04 | 日記・エッセイ・コラム

当時5歳の娘から突然送られてきた手紙。

娘がまだ1歳半のときに妻が連れて家を出て以来のことだった。

自分のいちばん大切な宝物。

  

「お久しぶりです。」

「実はわたし、10月から広島の芸能スクールに通っています。」

え!?

どゆこと?

通ってるって、福岡から広島まで?

高校はどうした?

辞めちゃったの??

突然届いた娘からのショートメールに狼狽する。

 

「今はお母さんに車で送ってもらってるけれど、近いうちに広島に引っ越そうと思っています。」

「今は単位制の高校に通っていて、毎日学校へ行かなくても卒業できるので安心してください。」

娘のメールは続く。

お母さんて・・・元妻が毎日広島まで高速乗って車で送迎してるのか?

単位制の高校?

じゃあ今まで通っていた高校はけっきょく辞めちゃったってこと?

私立だけど大学付属の割といい高校だったはず・・・。

 

「どんだけパフューム好きなん?」

大のPerfumeファンの娘。

平静を装い、まずはそんな返信をした。

突然で謎だらけだったので、色々訊きがてらさらに返信した。

 

広島の芸能スクールに通っているのは今は日曜日だけ。

なので元妻も仕事が休みで送迎が可能とのこと。

いくつかの疑問は払拭された。

しかし芸能スクールだなんて・・・娘はいったい何を目指しているのだろう?

 

娘が5歳のときにくれた手紙。

まだ字の書けない弟の名前も代筆している優しいおねえちゃんだ。

 

高校入学前にちらっと元妻から聞いたのは、

娘が自身のような境遇の片親で育った子どもや、孤児の心のケアをするような、

臨床心理士、心理カウンセラーになりたいと。

そのための学科があるのが、田川にある県立短期大学で、

高校卒業後は、そこへ通いたいと語っていた。

 

当時まだ中学生だった娘の将来の夢を聞いたとき、

そのきっかけとなったのは娘の境遇で、

子どもをケアしたいと思うってことは、自身もそんな思いをしたということで、

親としてとても申し訳ないと痛感したとともに、同時に感心・感動もした。

娘が田川へ戻ってくれば、もしかしたら会える機会が増えるかもしれない!

・・・そんな淡い期待も抱いていたのに。

 

娘が6歳くらいのときにくれた手紙。

好きな動物がたくさん書かれている。

両親に似て、絵を描くのが好きな子だった。

“ペネロペ”ってキャラクターをこれで初めて知った。

しばらくクマだと思っていたが、コアラなのね。

 

そして10月の終わり、また娘からショートメールが届く。

「11月7日に広島へ引っ越すことに決めました!」

「もう住むアパートも決めて順調です。」

「不安よりも楽しみでいっぱいです!」

 

ええー!?

福岡におる期間、もう十日くらいしかないじゃん!

高校卒業してから行くと思ってたのに、早過ぎんだろ!?

またも娘に不意打ちを食らう。

 

娘が7歳くらいのときにくれた父の日のプレゼントと手紙。

自身で作った、ネコ?型の紙ねんど製のマグネットをくれた。

姪っ子がかじってしまって、色が禿げてしまい、耳をもがれたてしまったけれど、大切にとってある。

 

「お願いなんですが、引越資金を少しいただけると嬉しいです。」

続けて金の要求もしてきた。

・・・。

正直、突然のことで全く得心できない。

娘にはできる限りのお金の援助はしたいものの、

得心できなきゃ、そう簡単に出すわけにはいかない。

「三千円。」

それだけ返信しておいた。

「ありがとう助かります!」

すぐにお礼の返信が来た。

  

娘が小学校入学した直後にくれた手紙。

名札にはお友達の名前まで。

だが、途中で転校してしまうハメに。

 

娘が小学校6年のとき、とあるきっかけでそれから3年間は絶縁状態だった。

中学時代はまったく交流がなく、娘が高校に入ってようやく会話ができた。

それでも息子のように、うちに遊びに来ることはなく、

盆や正月など元妻が実家に戻ったとき、うちに来る息子を迎えに来たときなど、

年1・2回会って、少し会話を交わすのみだった。

 

娘が7歳くらいのときに初めてくれた父の日のプレゼント。

お店で自分に合うデザインを選んでくれたとか。

正直、微妙なデザインだし、とんかつまい泉なんて知らないし、

すっかりくたびれていて、襟元はダルダル,脇の辺りは穴が開いているけれど捨てられない。

 

自分の誕生日や父の日などに、簡単なメールをくれたり、

ちょっとしたプレゼントをくれたりもした。

ギクシャクした関係は終わったと思っているが、

大きくなった娘としっかり会話をしたことがない。

広島へ行ってしまう前に、一度娘に会ってきちんと話がしたい。

 

娘が9歳くらいのときにくれた手紙。

当時園芸店で働いていたので、仕事中の自分を想像して描いてくれた。

文章の内容に涙が出る。

子どもたちはもちろん、元妻も、この時もしかしたら復縁を望んでいたのかもしれない。

この後、元妻が他の男と交際を始めてしまったので娘の希望は断たれた。

このときもショックだった。

 

そこで娘が引っ越す前の最後の自分の休み。

11月3日のお昼に会う約束をした。

祝日だったので、間違いなく会社から呼び出しを食らうと判っていたので、

社長に予め事情を話し、その日は絶対に休めるようにした。

案の定、休日出勤出してもらおうと考えていたようだ・・・危ないあぶない。

 

娘が14歳くらいのときにくれた父の日のプレゼント。

自分が植物好きなのを判ってて、雑貨店で選んでくれたフェイクグリーンのインテリア。

 

元妻と息子も一緒にと思っていたが、元妻は仕事。

息子も朝から友達の家へ遊びに行ってしまったということで、

娘とふたりきりでランチすることになった。

娘とふたりきりなんて初めて。

おそらく最初で最後になるだろう。

どんな話をしようか?

どうやって訊きたいことを訊き出そうか?

そんなことを色々と考えながら車を走らせる。

 

娘が10歳のときにくれた父の日の手紙。

“いつもありがとう”ではなく、“たまにありがとう”ってところが皮肉っぽくもあり、

娘らしいユーモアも感じられて実にニクい。

 

娘の住んでいるマンション前に車を止める。

しばらくして娘が降りて来た。

また一段と元妻に似てきた。

最後に会ったのは今年の正月だったか。

11ヶ月ぶりの再会。

助手席に座ると思ったら、後部座席に乗り込む娘。

慌てて後部座席全体に積んでいた荷物を一方へと寄せる。

お父さんの助手席には座ってくれないか~。

ちょっとだけショックだった。

そういえばこの車に娘が乗るのは初めてだな。

 

娘が9歳くらいのときにくれた手紙。

けっきょくスペースワールドへは連れて行けなかったな・・・。

 

特にどこへ行こうと考えていなかった。

近くの気になっていたインド料理店へ行こうとするも、あろうことか道を間違える。

それどころか「今日の夜、友達とカレー屋さんに行く予定。」と言いだす娘。

けっきょく30分近く車を走らせて、今年できたばかりの商業施設へと行き、

そこにある食べ物屋を物色することに。

ぐるっと回ったものの、ピンとくる店がなく。

オープン準備中の店もあり、この施設、まだまだ発展途上なようだ。

 

「どこでもいいよ。」

そう言いながら、「明日はラーメン屋さんに行く予定。」と言い始める。

さらに「3時には家に帰らなきゃいけない。」とも。

この日、夕方に娘の友達がお別れ会をしてくれる。

そのため、夕方5時には博多駅へ行かなきゃならない。

 

娘が6歳くらいのとき、初めてくれた折り紙のプレゼント。

これ何だったっけ?

 

これは迷ってはいられない。

最終的にパンケーキ屋をチョイス。

パンケーキとホットケーキの区別がつかないし、

自分はそんなもの食べる気はない。

だが、パンケーキ、娘が好きそうだし、

表に置いてあるメニューに、がっつり食べられる料理があったのでここにした。

 

娘はステーキプレートを注文。

パンケーキは頼まないんだな。

自分はアボカドサラダにジャンバラヤチキン、

それとチキンやサラダが一緒になったなんたらカレーを注文。

「え!?ジャンバラヤとカレーですか?」

ギャルソンエプロンを着こなした、がっつり体型のこじゃれた男性店員が訊き返してくる。

なんだよ、ご飯ものふたつ頼むのは不自然か?

チャーハンとラーメン頼むのと変わらんだろう。

 

娘が広島へ行くと言いだしてから、意識して広島を感じられるものを買っている。

代表的なのは、福岡でも普通に買える、もみじまんじゅう。

 

料理が届く間、娘とじっくり会話する。

通っている芸能スクールのこと。

高校のこと。

ひとり暮らしのこと。

なぜ福岡じゃなくて広島なのかと。

包み隠さず言葉濁すことなく、娘はきちんと答えてくれた。

 

やりたい事は まだおぼろげなようだけど、

それでも娘は自分の意思で広島という地を選び、芸能という道を選んだ。

何も反論することができなかった。

いや、反論する必要がなかった。

ただただ娘を応援したい気持ちでいっぱいになった。

 

広島といえば、お好み焼きも外せない。

鉄板で鉄ベラで食べるのがアツアツで美味いのよ。

 

「すみません。もう一度おうかがいしますが・・・。」

娘と会話していると、さっきのがっちり体型のギャルソンが飛んでくる。

「ジャンバラヤとカレーですよね?」

注文に間違いがないか、念を押しにやって来たのだ。

ご飯ものふたつ注文、そんなに不思議なことか?

うどんと天丼いっしょに頼むと変わらんだろう?

ご飯×ご飯だからか?

 

訊きたいことをひととおり訊いた後は、

娘がまだ小さかった頃の思い出話を語る。

娘自身もしっかり覚えているエピソードもあって、笑いがこぼれた。

もう娘とわだかまりはない。

これで何の悔いもなく、笑顔で広島へ送り出すことができる。

 

会話が弾んでいるところへ料理が届く。

ただのこじゃれたパンケーキの店ではなかった。

ジャンバラヤチキンもカレーも、サラダもなかなか美味い料理だった。

 

もみじまんじゅう,お好み焼き以外にも、

広島に居たひとなら判る、チチヤスヨーグルトに、母さんの味ますやみそ。

 

娘はステーキプレートを食べる。

ミディアムのビーフステーキと、少しのサラダ、カリッカリのポテトフライに、

ラグビーボール状に盛られたライス。

それがワンプレートになったもの。

「大丈夫?食べきれる?」

「だいじょうぶ。」

そう答える娘。

 

娘が小学校3年生くらいだったかな。

地元のカレー店へ行ったときのことを思い出した。

娘はライスだけが半分くらい残って食べ切れなくなり、

それを自分に食べてって差し出したこと。

その話を娘にしたら、「なんそれ!ひどっ!!」

すっかり忘れていたようで、そう言いながら笑う。

だが、「ひどい」と言った舌の根も乾かぬ数分後、

「ごめん食べきれん・・・。」

そう言ってライスだけ残った皿を自分によこす。

おい!

 

最後に、娘に紙袋を差し出す。

郵便局のATMに置かれてある現金を入れる袋だ。

それが1cmくらいに膨らんだものを差し出した。

「ありがとう!」

そう言ってそれを受け取る娘。

中を開いて苦笑する。

 

本当は羊羹あたりを仕込んで200万円くらい入っているように見せたかったが、

この封筒にはそんなブ厚いものは入らなかった。

 

板チョコレートを仕込んでかさ増ししていた。

数十万入っていると思ったか!

推定、元妻の半分以下の年収で、そこまで出せませんて。

ピン札で現金を入れておいたが、

本当はこの表面に指の形で泥汚れっぽく、ココアでも塗っておこうかと思ったけれど、

娘は元ネタなんて知らないだろうから止めておいた。

 

こうして娘と最初で最後であろう、二人きりの会食が終了した。

娘を送り届け、最後に記念に写真を撮る。

ツーショットは嫌がられるだろうから、娘だけのソロショットで。

「マスク外しちゃらん?」

そう言ったけれど、聞こえていなかったのか、マスクは取ってくれず。

広島へ旅立つ前の、最後の娘の姿をカメラに収めた。

 

予想よりも早く、そして突然に娘が巣立ってしまった。

ずっと前に離婚していて、元々一緒に暮らしてはいない。

それでも同じ福岡に居て、いつでも会えると思っていた。

こんな唐突に別れが訪れるなんて、まったく身構えていなかった。

しかし自分も高校を卒業してすぐに広島へと就職して行った。

それが娘は数ヶ月早いだけなんだよなあ。

 

子どもの成長は早い。

娘も立派な大人になろうとしている。

 

時が経つのは早い。

あと10年もすれば、早ければ5年もすれば・・・。

自分もおじいちゃんになってしまう可能性も。

アっと言う間に老いてしまう。

そんなことを考えると、一日いちにちをもっと大事に過ごさなきゃいけない。

そう思うようになってきた。

 

しかしうちの家系は広島に縁があるようだ。

自分は高校卒業後に広島へ就職したが、

うちのお母んも中学卒業後、集団就職で長崎から広島へと就職して行った。

そして今回、娘が広島の芸能スクールへ行くことになった。

三代続くこの縁は何じゃろ?

 

「広島へ行ったら、せんじ肉送ってね。」

そう娘に伝えていた。

せんじ肉とは、豚のホルモンを素揚げして乾燥させ、

それに塩をまぶしただけの、広島のソウルフード。

“せんじがら”とも呼ばれ、居酒屋などで供される。

だが、一番うまいのは、精肉店の軒先なんかで売られてるやつ。

 

 

スーパーやコンビニで売られているせんじ肉。

これはこれで美味しいけれど、やっぱり広島の精肉店なんかで売られてるのが格別。

 

最近じゃ福岡でも、コンビニやスーパーの珍味コーナーで、

ビーフジャーキーやサラミに混ざってせんじ肉が売られているが、あれはダメ。

やっぱビニール袋にどさっと入れられた、精肉店で作られたやつがワイルドで美味い!

あれは福岡じゃ手に入らない。

それを送ってくれと頼んでいるが・・・まあ落ち着くまでは無理じゃろうな。

 

娘が父を超える日も近い。

 



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